2014年04月24日

「ムダ巣」って,なんて失礼な!

春たけなわで,いよいよ本格的なミツバチのシーズンを迎えています.ミツバチとしては,繁殖の季節として,養蜂家としては,ハチミツの生産期として,実は両者のせめぎ合いが始まります.

この時期,たくさんの花が咲き,蜜や花粉が大量に運び込まれ,来たるべき分蜂に備えて働き蜂の数は増えています.養蜂家としては,その勢いを維持して,よい蜜源の開花時期にたくさんの蜂を花に通わせたいのですが,ミツバチは,巣を増やしたり蜜を貯えるスペースが不足すると,採餌活動を不活性化して,分蜂への歩みを進めます.
分蜂すれば群れのサイズが半分になってしまいますから,養蜂家は,何としても分蜂を食い止めるべく,巣板を足してスペースを与えます.でも,タイミングを逃すと,ミツバチが巣箱内の空いた場所に勝手に巣を作ることも.その巣は,近代的な養蜂においては養蜂家の尺度に合わない非合理的な存在で,切り取って捨てるしかなく(精製して蜜ろうにすることはできますが),これを養蜂用語では「ムダ巣」といい表しています.

でもその呼び方はあまりに不適切じゃないかとは辛口ミツバチ.
「私たちにはムダ巣なんて存在しない,ミツバチの生き方にムダなんかない!」というのが信条のようですよ....


minilogo.pngスペースが足りないから,見合うだけの巣を作っているのに,「ムダ」って切って捨てるなんて許せない.飼ってる人間が下手くそで,いいタイミングで枠に入った巣板を足してくれないから,仕方なく作ってやってるのに.その巣のことをムダだっていうなんて.
もちろん,ミツバチがしたムダという意味ではなくて,飼っている人間がムダにしちゃうという,どちからというと自戒を込めた表現だろうね.
ただ,ミツバチには結果的にはムダをさせて申し訳ないけれど,ミツバチの芸術品と感激してもらってくれる人もいるし,よい教材にもなるので,まったくのムダともいいきれないけどね.

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minilogo.pngムダって,その巣だけがムダなんじゃないよ.この画像にある巣だったら,蜂ろうで100gにもなる.
100gの蜂ろうは,1kgくらいのハチミツを私たちが食べて分泌する.
1kgのハチミツは,原料として2.5kgほどの花蜜を集めて作るんだ.
蜜胃いっぱいに花蜜を集めてきたとして,2.5kgはのべ50000匹分にもなる.
頑張れば一日で集めることはできるけどね.で,分泌した100gの蜂ろうをかみ砕いたり削ったりしながら,この巣にするのに,動員できる働き蜂を集めるだけ集めても,まるまる一晩はかかっちゃうんだよ.

なるほどね.ただ,その気になったら一日で作っちゃうっていうところで,ミツバチの潜在能力を知らない人だったら,そんなに大したことじゃないのかなと誤解しちゃうかも知れないね.
でも,原料集めから,それを蜂ろうにして,巣に形づくるところまでだと,原料の絶対量もかなりなものだし,けっこうな数の働き蜂を動員してる.それを「ムダ」とはいわれたくないよね.


minilogo.pngそれだけじゃないよ.この巣は,もう幼虫が育っている.ここにいる数百の幼虫は,女王蜂さんが数百の卵を産んだ結果だから,大事な女王蜂さんにもムダをさせたことになっちゃう.
その時間(一時間には50個程度産める)で,働き蜂になる卵だって産めたんだよ.それに孵った幼虫に与えられたミルクは,花粉を原料に作られているから,それも計算に入れておいて.ものだけじゃなくて,時間や,私たちのやる気もムダになっているんだから.

そうか,この時期は不足する雄蜂用の巣を作ることになるから,ムダは卵だけで済んでいるけど,もし働き蜂用の巣が作られていたら,卵だけではなくて,受精させるために精子もムダ遣いになっちゃうところだったんだね.

minilogo.pngその精子の話はけっこう気にされてないけどね.蜂が増えた方がいいから養蜂家さんも,たくさん卵を産む女王蜂さんがいいという.確かにそういう一面はあるよ.
でも,たくさん卵を産めばその分,交尾の時に雄蜂から受け取った精子を早く使い果たしちゃう.つまり,その女王蜂さんを利用できる時間は相対的に短くなっちゃう.
女王蜂さんの寿命は,精子を使える時間で決まっているんだ.交尾が上手くいって,充分な精子を受け取ったか,どれだけムダなく産めたかが,重要なんだよ.繁殖期にうまく寿命を迎えてくれないと,ミツバチは群れごと全滅しちゃうことになるから,私たちは女王蜂さんには決して無理をさせないんだ.覚えておいてね,

ミツバチにはミツバチの時間があるの.人間の都合に合わせたければ好きにすればいいけど,私たちはそれをストレスだと思っているんだよ.
まあ,何にしても,そろそろ採蜜シーズンだし,こんなムダしてられない!



養蜂上は,ミツバチは養蜂家の大切なパートナーです.気持ちよくハチミツを生産してもらうなら,ちゃんと労働環境を見直しておきましょう.

なんとなく忙しく飛び回っている印象のミツバチですが,私たちが「働き蜂」の言葉で抱くイメージとは大きく異なり,まったく闇雲に働いているわけではありません.過剰な労働や大きな不足が起きないように,労働調節はシステムとして見事に機能しています.養蜂家の作業はそれをサポートするものであって,邪魔するものではいけません.

ミツバチは普段から余剰の人員を確保して,必要に応じて一日にkg単位で花蜜を集めたり,こんな巣なら、ほんの一晩で作ったりもできますが,それはあくまでも「最高値」であって,それを「通常」として「勢いづく」ということはありません.人間の社会では,最高値を常に出すことをよいこととする風潮がありますが,よいと思うのは自由だけど,それ,現実には無理ですから.


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2013年11月01日

食の安全安心の検査をミツバチに頼る?

ミツバチ認証」という一風変わった認証制度があるということで,どんなものかと,そちらのサイトを覗いてみました.食の安全安心の検査をミツバチに頼るんだそうです.

この認証制度は,ミツバチに対する農薬の危険性のない農産物に「みつばちマーク」を貼って,危険な農薬使用を抑制しようというもののようですが,条件は,500m以内にミツバチが生きているかどうかだそうです.遊び心でと,あえて厳しい条件設定のない認証制度になっているようです.サイトの本文を少し引用すると,「ミツバチが死んだら駄目なので,文字通り,ミツバチが命をかけて食の安心安全を検査するもの」で,「みつばちマークとは言い換えると環境指標生物といわれるミツバチが生きられる環境で作った農産物を食べることで,そういった環境を応援しようというマーク」なんだそうです.ミツバチの環境指標性については,すでにこのブログの「都市とミツバチ」の回に書いた通りで,その点は誤解だと思いますが,今日はこの認証制度がミツバチ的にはどうかを辛口ミツバチに聞いてみましょう.あれ,なんだか,すでに怒り心頭っぽいなあ...
minilogo.pngなんでさ,ミツバチが人間の食べるものの安全まで担保しなきゃなんないの? なんで,そんなくだらないことのためにミツバチが命かけんの?

確かに農作物の「安全」に関しては,人間の責任で科学的に担保しているし,その過程で,文字通りミツバチの命をいただいての検証も行ってる(ミツバチを含む有用生物への影響評価も農薬登録には必要です).おかげで,適正な農薬使用の範囲なら,安全な農産物が生産でき,だから安心して,日々,野菜や果物,穀物を食べているわけだ.しかも,ミツバチへの影響も可能な限り低減できるようには,実態は別として(ごめん!),目指されてはいるよ.
その意味でも,この認証制度を弁護するわけじゃないけど,どちらかというと「安心」の担保を手伝ってもらおうっていう感じじゃないのかな.まあ,言葉尻を捉えちゃ悪いけど,「安心」は検査できないけどね.

minilogo.png待ってよ,待ってよ,ミツバチは「人間の安心」だってなんだって,知ったこっちゃないよ.人間は地球上で一番優れた生き物だと思っているんでしょ(そんなのただの思い上がりだとは思ってるけどね).だったら,自分で「安心」くらい何とかしなよ,だって,そもそも自分たちの作ったシステムで安全を担保しているのに,勝手に不安がってるだけじゃん.それを,ミツバチをダシにしてまで,安心を手に入れたいわけ?

なるほど,ダシにしている感じは否めないよね.でも,まあ,本気というよりはお遊びみたいだから,受け流したら.ところで,この認証条件の「ミツバチが半径500m以内に生きているか」の500mってどう思う?
minilogo.pngそれも科学とは無縁の話で,ただの語呂合わせでしょ.ミツバチは,だいたい2kmくらいが行動半径だけど,花がなければもっと遠くにも行くよ.それよりここでいう「生きている」ってどういう意味? ミツバチが通える畑ならOKじゃなくて,この範囲に巣があって,私たちの家族が暮らしているっていう前提なの? セイヨウミツバチは人が自由に巣箱を置けるから,意味ないでしょ? あ,そっか,ニホンミツバチさんのことかな.でも,そんなにどこにでも住んでいるわけではないし,それに農薬がまかれていない場所でミツバチが住んでいないところもいっぱいあるのに.

ミツバチがいないところでは,「ネオニコチノイド系の農薬を使っていないこと」が認証条件らしいね.
minilogo.pngそれなら,素直に「ネオニコチノイド系農薬をまいてません認証」にすればいいじゃん.なんでわざわざミツバチ持ち出すの? 第一,私たちが住んでいないところの農作物の認証って,自分でやってもいない検査の責任なんてミツバチはとらないよ.やってもいないのにやったことにするなんて,人間の世界でも詐欺っていって悪いことなんじゃないの? 最近はメニューに使ってもいない食材書いてて問題になっているみたいだけど,それと同じだよ.そんなの絶対イヤだよ.正しくないことするのが平気なのは人間くらいって,生き物の間じゃよく知られているけどさ,ミツバチも正しく生きたいんだから,こんなことに巻き込まないで!

確かに,ミツバチ不在の「ミツバチ認証」はまずいだろうね.しかもどうしてネオニコチノイドだけで,しかも一括りなんだろうね.この制度だと,認証を得るためには,安全性の点では問題がなくても,ネオニコチノイド系農薬だというだけで使用を中止させて,代わりに人間にも影響がある他の薬剤の使用を増長しちゃう可能性もあるのにねえ.そこには考え至らないんだろうなあ.
minilogo.pngしょせん遊びなんだよ.だから科学なんか知ったこっちゃないといいたいんだろうけど,生き物はさあ,実は科学そのものなんだよ.ネオニコチノイド系の農薬だって,成分や形態でミツバチへの影響はそれぞれちがうよ.で,ミツバチは身をもってそれを理解してる(それこそ命がけでね).作った人間の方がその理解なしに,バカみたいに「ネオニコ,ネオニコ」と叫んでるだけ.叫んでミツバチが助かるとでも思ってんの?

まあ,こういう人たちも,根本には今の環境が悪くなっていて,それをどうにかしたいって気持ちはあると信じたい.ただ,問題がどこにあるのかは見ようとしていないから,具体的な対策にはつながっていない.環境が悪いという認識がある反面,悪くしたのが誰かはあえて意識するのを避けて,いつも原因と対応を自分の外に求めているようだね(って人ごとっぽいけど).
minilogo.png気持ちで,死ぬミツバチが減るなら,楽でいいよ.畑には農薬もミツバチも必要なんでしょ.ミツバチは意地悪女じゃないから,私と農薬のどっちをとるのとか迫ったりはしないけど,そこで起きていることが何かはちゃんとわかって欲しい.
あのね,ミツバチはさ,人間にハチミツもあげたし,農作物の花粉も媒介してあげている.それなのに私たちの大好きなお花畑はなくなっていく一方.こんな一方的な存在を,もうパートナーとは呼べないよ.「ミツバチ認証」だなんて,私たちの「ミツバチ」って名前,自分たちの安心のためだけに勝手に使うのやめてよ.


またまた怒らせてしまいました.農業の現場における,農薬の使用と花粉媒介者としてのミツバチへの依存.この二つをどう共存させるかは重要なテーマです.しかも実際の農薬被害の大半は,ミツバチに花粉交配をお願いしていない現場で起きています.つまり行かなくてもいい花に,ミツバチが行ってしまうことが問題につながっています.問題の本質がもっと明確にわかれば,解決策も見つかるはずです.私たちの食の安心をミツバチに頼るのではなく,ミツバチの食の安全を私たちが守るにはどうするべきかを考えてみましょう.そのくらいできないと,人間としての沽券にもかかわりそうですね.
posted by みつばち at 17:07| Comment(0) | TrackBack(0) | ミツバチの気持ち by Junbee | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年05月08日

ハチミツ中から見つかったミツバチを救う成分

アメリカ科学アカデミー紀要にイリノイ大学のBerenbaum教授が率いる研究グループの論文が掲載されました.題して「セイヨウミツバチにおける解毒および免疫関連遺伝子のハチミツ中成分による増加型調節」です.要はあるハチミツ中の成分が,解毒や免疫にかかわる遺伝子の働きを増加させる要因になっていることを明らかにしたものです.その成分は,花粉中に含まれ,ハチミツ中からも見つかるパラ-クマル酸です.蜂群崩壊症候群が,栄養不足から,農薬や病原の影響を受けやすくなった状態と考えれば,このクマル酸によって誘導される解毒作用や免疫作用で,状況は改善されるでしょう.あれあれ,でも,辛口ミツバチはちょっと不満顔.論文を解説しながら意見を聞いてみましょう.
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実験の概要は,まずハチミツから抽出した4つの主要成分について,これをキャンディ(養蜂の世界では粉砂糖を砂糖水で練った餌のこと)に混ぜて,羽化したての働き蜂に与え,3日後に解剖して中腸をとりだし,遺伝子の発現状況を見たというもの.解毒というのは、毒物を代謝して分解,排泄することだけど,それに関わるいくつかの遺伝子の発現量が,クマル酸を与えたときに,かつその量を増やしたときに量に比例して増加するのを確認している.
minilogo.png本当はその時期は花粉をたくさん食べる時期だから,クマル酸だけじゃなくて,いろいろな栄養を取り込んで,一人前の働き蜂になる時期でもあるの.食べると体内にいろいろなものが入るから,当然,解毒能力だって高くなるに決まっているよ.何も生きているのを解剖しなくたっていいのに.

そりゃそうだ.でも,クマル酸だけでも,遺伝子の発現量が増える,つまり解毒能力が上がることがわかって,花粉に含まれる有効成分がわかったということについては,評価はできるよ.で,この人たちは,実際に意味があるのかどうか,取り出した腸から酵素液を作って,ミツバチの巣の中で用いられるクマホスという殺ダニ剤の分解を調べて,やはりクマル酸を食べた蜂では分解活性が高くなったとしている.
minilogo.png花粉を食べさせてもらえなかった働き蜂たちでさえ,その能力はゼロではなかたってことは,花粉を食べていれば,充分だったんじゃないの.花粉食べるとどうなるのか調べてないじゃない? 花粉だけでの効果の方が高ければ,クマル酸だけではなくて,他の成分にも効果があるということなんじゃないの.花粉には,この研究者たちが気づいてない成分だってたくさんあるよ.ここは肝心なとこだけど,私たちはクマル酸だけが欲しくて花粉を食べてるわけじゃないんだよ.

花粉が含有するクマル酸量は花粉ごとに変動が大きいから,花粉を食べさせると,クマル酸だけの効果なのか,ほかの成分にも意味があるのか,相乗効果のある成分もあるのか,評価はどんどん難しくなってしまう.もちろん,あらかじめクマル酸含量がわかっている花粉を食べさせることも可能だろうけど,その場合も他の成分の働き方は予測できない.構成が複雑な材料で研究成果を出すのは難しいことなんだよ.それでもクマル酸単独で,ミツバチを救う効果があるという事実は重要だと思うよ.
minilogo.pngで,この結果から,ミツバチには餌にクマル酸混ぜてやっとけよっていいたいんでしょ.サプリメント好きなアメリカ人らしい考え方だね.でも,そんなのミツバチは受け入れられないよ.

不足しがちなものをサプリメントで補うというのはある意味では合理的だろ.でも不足の原因は考えるべきで,食生活の見直しや,意味のある食料の入手には気を使う必要はあるだろうね.不足の原因がわかれば対策も立てられるし.
minilogo.pngあのさあ,ミツバチはさ,これまで500万年,花粉を食べて,問題なくやってきたんだよ.それなのに,今のミツバチは花粉が足りなくて不調だから,クマル酸でも食べさせとけって,それってどういう了見なの,おかしいでしょ.人間にはありがたい研究かも知れないけど,ミツバチにとってはそんなの当たり前のことだよ.人間の知識は増えたかも知れないけれど,ミツバチの体が変わるわけじゃないんだ.これまで花粉食べて普通にやってきたんだから,これからもそうさせてよ.不調の原因を私たちに求めないで.ミツバチは,餌じゃなくて,本当の花粉を食べたいんだよ.人間みたいに「餌」では満たされないの.もう,人間なんて何にもわかってないんだから!
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おやおや怒らせてしまいました.
栄養不足が,ミツバチの体力を奪い,農薬を解毒したり,病原菌に対抗したりする力を失わせているという認識は,全世界で次第に共有されてきています.どんな栄養が不足かというところで,五大栄養素や第六の栄養素といわれる食物繊維に続いて,第七の栄養素であるファイトケミカル(植物化学成分,植物栄養素)が人間の栄養学でも注目を集めています.今回の論文で扱っているクマル酸もよく知られたファイトケミカルの一つです.その機能性や効能がわかると,それを取り出して食べようというのは一つの人間的発想ですし,それを含む食材を食事の中に積極的に取り込もうというのもまた人間的な感覚です.
ファイトケミカル研究においては,研究者が調べた特定の成分だけに有効性があるわけではないことは暗黙の了解事項ですし,食事として摂取することと,サプリメントとして特定成分を摂取するので同じ効果が得られるという保証もほとんどないというのも定説化しているようです.同様の効果を持った未知の成分が含まれている可能性もあるし,単独では効果がないのに組み合わせると高い相乗効果につながるケースもあり得ます.
今回の論文は,花粉を食べたときとクマル酸を食べたときの差を評価できていません.また,腸管での解毒系関連遺伝子の発現を見ただけで,実際の解毒効果に関しては単一の薬剤の分解を見ただけで,その効果のレベルが高いかどうかは評価できていません.
生き物の中には,単一の食物のみを摂取するものもたくさんいますが,雑食性の動物もたくさんいて,特に長生きする生き物は多様な食物に頼らざるを得なくなりますます.ミツバチのように花粉だけを食べていると思われるものも,実は花がちがえば栄養性評価がかなり異なるので,いろいろなものを食べている部類に含まれます.
ミツバチがさまざまな花を訪れて,栄養価の異なる花粉を食べているのは,そういう意味で「わかってて食べている」ことなんです.そして,それがミツバチにとって普通に食べることなんです.都会では,こんなのよく見つけたなという小さな植え込みにでも行って,蜜や花粉を集めてくるミツバチ.そこまですることにはこんな意味もあるわけです.とすれば,現状でミツバチたちにしてあげられることは,飼って,面倒を見てあげることではありません.ただでさえ,花が少ないのに,手厚く保護されるミツバチの数だけ増えたらどうなるでしょう,それとも餌だけ与えて生かしておくのでしょうか?
飼う前にするべきことは,食べ物になる花をいろいろ植えてあげることでしょう.栄養価の異なる花粉が手に入るように,植栽を多様化させることが,ミツバチにとっては,ようやく人間がやってくれることで意味のありそうなことになるのかも知れませんよ.
ラベル:科学の目
posted by みつばち at 11:13| Comment(0) | TrackBack(0) | ミツバチの気持ち by Junbee | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年05月01日

続 都市とミツバチ 〜わずかでも花があれば

ミツバチを飼う人が増えたからでしょうか,東京都内でミツバチを見つけることも難しいことではなくなりました.先日,都市養蜂についての取材を受けたのを機に,都市部でどんな植物がミツバチに利用されているのか,少し調べ始めました.するとちょっと驚くべきことに気がつきます.いつものように辛口ミツバチといっしょに進めていきましょう.

昨日,都心の小さな花壇に,数株のヘアリーベッチが植えてあるのを見たら,1匹だけミツバチが来ていたよ.花壇の面積は1平方メートルくらい.どうやってこんな小さなのを,見通しも利かないビル街で見つけるのかなと不思議に思った.君たちの行動半径は,経済半径として2キロメートルくらい.ということは蜜や花粉を集めている面積は1000万平方メートルを超える.その中の1平方メートルを発見するなんて,その1.5cmしかない体からすれば,単に1000万分の一というよりも小さな確率のように思うけど.
minilogo.pngまあ,そのあたり(渋谷界隈)なら,飼われているミツバチの数は50万匹を超えてると思うよ.そのうち10万匹くらいが外で働いているとすれば,ある1平方メートルを探すのは百分の一くらいになるんじゃない?
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ま,確率的にはそうかも知れないけれど,そこにたどり着いたときに花が終わっていたら何にもならない.10日間だけ咲く花だとすれば,その間に見つけなければならないんだぜ.
minilogo.pngそんなの驚くべきことじゃないよ.ミツバチはイヌさん並みには鼻が利くんだよ.人間にはわかりにくいだろうけど,ミツバチはもともと花の匂いには感度が高いんだ.一度花を訪れちゃえば,繰り返しそこに行くのはどうってことない.ミツバチは1回見たり,嗅いだりしたことはすぐに覚えちゃうからね.

ミツバチが花の場所を教えるダンスは,思ったよりも利用されていないという論文も出ているけれど,こういう場面,つまり,本当にピンポイントな花の位置情報を伝える上では大いに役に立つだろうね.
minilogo.png残念だけど,そのくらいの資源サイズじゃ,誰か1匹が通えば充分な仕事.ダンスで仲間を呼ぶ必要はないかもね.もちろん同じ種類の花は,同じ時期に咲いているはずだから,その周辺で同じ花を見つけてもらうためにはダンスも役には立つんだけどね.どちらかというと,動員するよりは,それぞれが探索に出た方が花に行き当たるし,小さな資源を確実に確保できることになるんだよ,たぶんね.都市の環境は,私たちの遺伝子には対処法が書かれてないから,自分たちでも検証できていないんだよ.

巣の近くなら,全員で探索しても,確かに探索コストは抑えられるかも知れないね.でも近いと,同じ場所で飼われているミツバチ同士で花の取り合いになるだろう?
minilogo.png取り合いというよりは早い者勝ち.だから,働き手の多い大きな群れほど有利になる.ただ,花がなくなると大きな群れほど餌不足になることもあるからねえ,何ごともほどほどが一番なんだよ.セイヨウミツバチの場合はさ,人間が巣箱の場所を決めるんだから,1か所に置く数は少し加減して欲しい.大きなお花畑や蜜源の森があるような環境じゃないんでね.

前回の繰り返しになるけれど,たくさんハチミツが採れるから,都会も資源が豊富だと思っている人が多いよ.
minilogo.pngえっと,今日本にいるセイヨウミツバチは,ほとんどがイタリアン系統の雑種で,ハチミツの生産性が高いといわれるけど,要は燃費が悪くて,たくさん巣に蜜を貯めてないとやっていけないミツバチってこと.資源がパッチ状に分布している都会では,ダンスを利用した集中訪花はできないから,どうしても蜜集めのコストが大きくなりがち.でも,巣に蜜を貯めなきゃやっていけないミツバチだから,毎日,頑張って集めてる.悪いことだけじゃなくて,都市環境だと,私たちを捕まえて食べちゃうような天敵は少ないし,花を見つける競争相手のハナバチさんたちも少ないんだよ.とはいえ,無視してもいいような花資源を丹念に拾い集めることでしか,充分な蜜を貯えることはできないね.だから,それを豊かっていわれてもなあ.

状況的には不足があっても,巣にたくさんの蜜を貯えられるなら,それでいいじゃないか,結果オーライで,だからこそ豊かだろうって理屈もありそう.
minilogo.pngあのさあ,例えば人間も体温を維持しているでしょう.それが人間の場合は健康な証拠だよね.でもじゃあ,体温維持できていればいつでも「いい状況」なのかな.体は汗をかいたり,脂肪を燃やしたりしてるし,そのために,水を飲んだり,ご飯を食べたりする.そのどれもが問題なくできる状況なら本当はいい状況かもね.でも,人間はさ,自分の体のやっていることに感謝してないから,本当は体温維持はできているのに,すぐに暑いだの寒いだの文句たれてるよ.ミツバチの状況も同じように考えてくれれば,決してよくなさそうじゃない?
ミツバチはさ,どんなにちっぽけでも花があること自体にはいつも感謝しているし,その資源を有効に利用させてもらってるよ.巣に必要な蜜を貯えられる状況は何にしてもありがたいこと.でも,それが「いい状況」かどうかはわからないな.人間がいうほど豊かじゃないとは思うけど,自分たちが努力すれば何とかできることなんだ.それに,上を見たらきりがないし.そもそも資源環境なんて移ろいやすいものって想定だから,その豊かさなんて前提にしないで,変化に適応できるかどうかの方を問題にしているんだよ.


資源が豊かであってもそうでなくても,ミツバチとしては巣には蜜を貯える.実際に資源豊かで,ミツバチにかかる負担が小さくてたくさんハチミツが採れる場所に較べたら,都会では,採れたハチミツのミツバチの努力分が大きくなるってことだろうね.飼う人からすれば,ミツバチへの感謝も普段以上に追加しないといけないね.
minilogo.pngハチミツを巣に貯えること自体はミツバチの本能だから,別に感謝されたいわけじゃないんだけど,どこでも同じように働いているとか,同じように楽しているっていうわけではないことは理解して欲しい.都会は人間が暮らすスペースで溢れているから,ミツバチや花のためのスペースは限られている.どんな花壇でも,ミツバチより人間の方がたくさんいるもの.でも田舎のお花畑に行ったら,人間よりもミツバチの方がたくさんいる.それが当たり前でしょう.ミツバチにとって,都会は田舎の代わりにはならないよ.人間は代わりになると思っているのかなあ.人間ってさ,いつも常識がずれてるよねえ,よくそれでやっていけるよねえ,不思議.

最後は人間の方を不思議がられちゃいました.
さて,全国各地から,採蜜のニュースが伝わってくるこの頃です.地方では,養蜂家が場所を選定したり,蜂群を採蜜に向けて仕立てたり,はたまた蜜源植物を植えたりしながら,知恵と腕にものをいわせて,それぞれの地域に固有の,蜜源を配した景観が想像できるような,さまざまな特徴のあるハチミツを生産しています.そこではミツバチは,養蜂家の同僚として,準備万端整えてくれた養蜂家の努力に見合う働きをします.
都会のミツバチは,飼う人よりもはるかに大きな努力を強いられていそうです.ミツバチにとって,巣に蜜が貯まっているのは普通のことで,常にその状態を維持するために,花を訪れては蜜を集めます.ただ,どう考えても,都会にはミツバチのためのまとまった資源があるとは思えません.そのためミツバチは,丹念に小規模な蜜源を利用しています.
もともと都会で働く人々の心を癒すための花壇ですが,今度は,ぜひ咲いている花にミツバチが来ていないか注目してみて下さい.ミツバチの頑張っている姿に元気をもらえるかも知れませんよ.

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2013年04月24日

都市とミツバチ

都市養蜂を特集するということで,その先進国,日本での取材のため,韓国の子ども向け科学雑誌の記者の方が来日中です.昨日はとある都内のプロジェクトを取材されたそうです.私は,都市養蜂の意味には懐疑的だからと一度は断ったのですが,かえって面白そうと思われたのか,本日取材となりました.
なかなかいい雰囲気で取材が進みましたが,終了後,記者の方を蜂場に連れて行ったら,思いっきりミツバチに体当たりされてました(大学のミツバチは口は悪いけど,普段はとってもおとなしいんです).どうやら辛口ミツバチも伝えたいことがあったようですよ.


「ミツバチは環境指標生物ですか」って聞かれたけど,そもそも環境評価に使う生物(つまり環境指標生物)は,あるがままの状態で環境の中に置かれているという前提があるだろう.もちろんちがうとお答えしたけど,ミツバチ的にはどう? ちゃんと環境の影響受けている?
minilogo.pngだってさ,好きなときに好きな場所に人間が移動させることができて,足らなきゃ餌ももらえる.もし資源環境を評価するなら,餌をもらった時点で私たちは環境影響から切り離されちゃうよ.それとも,ハチミツ採った分だけ砂糖水返しているから,その分はプラスマイナスゼロってことなのかな.

いや,まあ,普通はそうは考えないだろう.飼われた時点で環境指標生物にはなれないよ.ただ,ミツバチが作るハチミツが環境指標になるという研究は多い.大気中の汚染物質を取り込みやすいので,チェルノブイリの原発事故以降,ハチミツ中の放射能レベルで汚染状況を評価したり,他の大気汚染物質のモニタリングにハチミツを使っていたりはする.
minilogo.png大都会だってミツバチがやっていけている前提では,きっと人間に対しての大きなリスクはないんじゃない? 放射能はミツバチの方が耐性が高いんだっけ? だとしたら,ミツバチがやっていけているからって安心はできないのかな? でも,そんなの調べればいいことでしょう.そういうの人間は好きなんだから調べたらいいんじゃないの.環境指標生物にはなれないけど,環境評価のエージェントととしてはミツバチは優秀だよ.それに自分たちが飛び回っている都市の環境がいいのか悪いのかも知りたいしね.手伝うから,ぜひ調べてよ.

もう一つ,「ミツバチは都市の自然環境の維持に役立っていますか」と質問された.そもそも自然環境っていうのは言葉のあやだろうけどね.で,都市養蜂では,ミツバチの受粉活動が大きく評価されて,都市の生態系維持に寄与しているってことなんだろうけど,実際のところどうかなあ?
minilogo.png何でよ,花があれば,何でもってわけにはいかないけど,けっこう受粉には貢献しているし,実がなったり種子ができたりしているんじゃないの.代わりにお花は蜜や花粉はいただいているけど.生態系の維持には貢献できていると思うな.

ミツバチが働いてないという意味ではないよ.野山だったら,できた実はやがて地面に落ちたり,鳥や動物に食べられて,種子が散布される.でも都市でどこに種子が散布される地面があるだろう.そもそも,植物の世代交代はかなりの部分人為的に起こるものだし.受粉による生態系の維持の実態は限りなく小さいんじゃないかな.
minilogo.pngそれはミツバチの知ったことじゃないよ.ミツバチはさ,植物は地面から生えていて花を咲かせて,そこで私たちが手伝ってできた種子は,どこかの地面に落ちて,また芽を出して,という想定だもん.その地面がないことは人間が作った状況で,私たちには想定外の状況だよ.

その意味で,都市の生態系を維持する上でミツバチが役立っているというのは錯覚だよね.
minilogo.png素直に受け取りにくい言い方だなあ.でも,ミツバチが悪いわけではないんじゃない.都市の生態系なんて,ミツバチの想定外だっていってるの.生態系に人工的な意味での種類があるのは,まったく想定外だよ.そんなの知〜らない.

そして,たくさんのハチミツが採れることを,都市環境の「豊かさ」だといいたがる人がいる.ミツバチとしてはけっこう頑張って集めてくるんだろうね.
minilogo.pngあのさあ,人間は自分のこととしてなら考えられるかな.毎日一生懸命働いて少しずつ貯えていく人と,稼げるときに稼いで貯める人といるでしょう.セイヨウミツバチはね,どっちかっていうと,稼げるときに頑張って,あとは適当に済ますタイプなんだ.ニホンミツバチさんは,地道に働くタイプだよ.ま,ニホンミツバチさんのことはともかく,セイヨウミツバチは,周囲の花資源が豊かどうかとは関係なく,できるだけ蜜を貯め込みたいの,冬を越すの下手だからね.だけど,本当は,私たちも必要以上には貯めないんだよ.人間が繰り返し採っちゃうから,仕方なくまた集め直しているだけ,採蜜が続くと,いつも「頑張って集める」モードでいなきゃならないから,本当は辛んだよ.だけど冬を越せなくなるのだけは避けなきゃいけないから,花がある限りは何とかしようと思ってる.それってけっこう厳しい状況なんだよ.「元気に喜んで働いている」とか書かれると,さすがにちょっとムカッときちゃう.喜んで働いて欲しいなら,いい蜜源を用意して.水っぽい花蜜はハチミツまでの道のりが遠くてさ,時間もエネルギーもかかっちゃう.ハチミツに近いいい花蜜を出す花をたくさん植えといてね.そしたら頑張ってあげるから.

そんな評価,これまで誰もしたことないし,どの花がいい花かなんてわからないよ.基本は花なら何でもいいと思われているみたいだよ.
minilogo.png花がなきゃならないのは確かだけど,何でもいいわけじゃない.豊かっていうのは選択肢があるっていうこと.おいしいものや栄養の偏りがないように食べ物を選ぶのは人間もやってるよ.でも,厳しい状況なら,選ぶってことはできなくなって,あるもので何とかしなきゃいけなくなる.花蜜の場合は,貯めなきゃいけないときにはできるだけ濃いものを選んで集めるんだよ.でも,選びようがなければ薄い蜜だって仕方ない.でもそこからハチミツを作るのは,濃い花蜜から作るよりは効率が悪い.だから花なら何でも同じではないよ.蜜源植えてくれるっていうんなら,そのくらいは考えて欲しいなあ.

この時期,ミツバチたちの羽音は,とても元気そうで,喜びに溢れている感じが伝わってきます.それは大量の蓄えを作るのにちょうどよい花があるからでしょう.そういうよい花が咲き続けている時期であれば,採蜜をしても,頑張って貯め直してくれます.でもその季節が過ぎてから採蜜をしたら,どうなるでしょう.冬のために貯め直している光景を見て,ミツバチが喜んでいる状況なのかどうか,飼う立場でわからないとしたら,お互いに不幸でしょう.本来のサイクルや,想定された環境とは異なることが生き物にどう負荷をかけることになるか,想像力を働かせてみましょう.それがミツバチへの思いやりでもあるんです.

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2012年07月25日

女王蜂の翅,切る? 切らない?

昨日,忙しくて欠席した会議の合間の雑談で,ミツバチを飼う際に,分蜂(巣分かれ)を防止するために女王蜂の翅を切るべきかどうかという議論があったそうで,意見を求められました.女王蜂の翅を切ることは,剪翅(せんし)といって,養蜂上の技術の一つとして位置づけられます.翅を切っておくことで,分蜂しても女王蜂がついていけず,働き蜂が巣の近くに集結したままになるので,これを回収することで,ミツバチの損失を防げるという意味で有用な技術です.ただ,有機養蜂の規格では,基本的にこれを禁止していますし,もともとミツバチが身近な生き物で,また最近は特に動物福祉が実践的にも定着しつつあるヨーロッパでは「なぜ切らなければならないの?」といわれそう.ということで,切るべきか切らざるべきか,辛口ミツバチと一緒に考えてみようと思います.

何だかもうすでに,顔見ただけでいいたいことが伝わっているから,剪翅技術について,その利点はこれ以上述べる必要はなさそうだね.本論に入ろうか,意見をどうぞ.
minilogo.pngいいんだよ,気を使わなくても.だって「技術」だから「いいこと」なんでしょ.畜産学的に有用技術なんじゃないの.「剪翅」だって,カッコいい言葉だね.ま,翅を切るのも髪を切るのと同じだと思っているよね.ミツバチは翅切られたくらいじゃ痛くもないし,まして死にゃしないし.殺さないですむなら,人間は動物のあちこちを切って飼うのが好きだしね.ブタさんが太りやすいように去勢するとか,ニワトリさんのくちばし切って,エサをこぼしにくくするとか,何でも好き放題,勝手にやってよ.

まあまあ,いきなり喧嘩腰はやめようよ.住宅密集地や,都市部のような町の中でミツバチを飼っていたりすると,春に起きる分蜂の,特に群飛(画像参照)の部分は,一般人にはやはり恐怖以外の何ものでもない.分蜂のミツバチがおとなしいといわれても,数万のミツバチが空を暗くして飛ぶのは,普通の精神状態では見てられないから.ともかくそれを防ぐためには切った方がいいという意見になるのだろう.
群飛するセイヨウミツバチ

minilogo.pngふ〜ん,本来の技術とはちがう目的なんだね.でもさ,分蜂は,ミツバチにとっては一生一度の重大イベントだよ.花に行くのとちがって,新しい巣を建設するために,みんなで気持ちを一つにして移動するんだ.あの群飛がなければ,(夏や秋に生まれてくる働き蜂には悪いけど)ミツバチらしい一生を送ったとはいえないよ.人間が見ても,迫力のシーンでしょ.一生に一度でいいから見たらいいと思うよ.金環蝕並みに感動すること請け合うよ.人口密集地でこそ,ば〜んと群飛させて,もう一生ものの感動を,できるだけたくさんの人で分かち合えばいいじゃない? そのチャンスを無にしちゃうよ,翅切ると.

まあ,確かに金環蝕は日本中で感動共有したけどね.相手がお天道様ではなく,誰かの飼っているミツバチだったりすると,飼う人が他人に迷惑をかけたことになって,それ以降,飼うことが困難になるだろう.ちょっと風変わりだけど,かわいいペットとしてミツバチを飼う人にとって,それを手放すのは耐えがたいことだし,やはり防ぐ手立てとして何か必要ということだろう.
minilogo.pngだから翅くらい切ってもいいと思うんだろうね.住宅地だと,吠え声がうるさいっていわれちゃうから,声帯切除してイヌさんを飼うのと同じセンスだね.自分が「飼う」っていう行為を実現するために,かつ他人から文句を言われない自分を実現するために,肝心の飼われる生き物は,体の一部をなくして,まともじゃなくなっても,飼われてさえくれていればいいっていってるわけだよね.それってまともな精神構造なの? それに,他人から迷惑がられると思うよな場所でどうしてミツバチを飼いたくなるの? その精神構造もまともじゃないよ.

犬の声帯切除と同等とまでは思わないけどね.確かに,そうまでして,町の中での飼育にこだわる理由はないよね.実際,ミツバチと一緒にいたいからと,地方に引っ越していく人たちもいるしねえ.
minilogo.pngミツバチは自分で翅を切ったりしないけど,アリさんなら,女王蟻さんが自分で翅を落とすからさ,アリさんを飼えばいいと思うよ.どう? おっきなガラスケースに土を入れて,巣が地面の中にできていく様子とか見たら,毎日楽しいよ.ミツバチは飛んでっちゃうけど,アリさんは歩いているから後を追いかけて,どこで食べ物見つけてくるかとか観察もしやすいし.おまけに刺さないし.ミツバチじゃなくてアリさんにしなよ.

そうだね.それはそれで楽しそうだけど.たぶん,今ミツバチを飼っている人たちが,翅を切らなくてもいいからって理由で,アリに乗り換えたりはしないだろうなあ.
minilogo.pngそれはさ,結局さ,かわいいとかいいながら,ミツバチが集めるハチミツが欲しいだけなんでしょ? ごうつくばりの人間どもめ!

まあ,確かに,結局はそこだとは思うね.刺す昆虫なのにあえて飼おうというのは,ハチミツが自分のものになるという部分が大きい.もしそれがなかったら,つまりかわいいだけでは,ここまでミツバチブームにはなってないだろうからね.
minilogo.pngかわいさだけでは不足って,悪かったわね.でも,ハチミツなんていくらでもくれてやるから,普通にハチミツを集められる場所で飼ってくれないかな.ミツバチは,いっぱいいる天敵に捕まったりすることがわかっていても,広い空の下で,たくさんの花に向かって飛びたいんだよ.だれが先に蜜を見つけるか競争したいんだよ.人間がいることはかまわないけど,本当は人間が作った空間じゃないところ,自分たちのDNAが知っている空の下で生きたいんだよ.
あのサンテグジュペリの「人間の土地」に出てくるカモシカさんみたいにさ,例え人間に飼われて,手から餌を食べるまでに慣れても,やっぱりライオンさんに食われちゃうかも知れない大地を走りたいんだよ.それが生き物の本然でしょ,そういうこと考えたことある?
人間はさ,人間との関係でしかものごとを考えないよ.うるさい(といわれる)から声帯を切除する.分蜂(して他人を恐怖に陥れたり)するから剪翅する,逃げたら(誰かの迷惑になっっちゃうし)自分もいやだから閉じ込める.生き物の都合はこれっぽっちも考えない.まあ,人間同士でも他人の都合を考えない人が多いみたいだから,それが人間て生き物の「普通」なんだと諦めるしかないのか.


実態はともかく,それが「普通」ではないとは信じたいけどね.
切った方がいいという意見は,町中であれ何であれ,ひとたび事故が起きれば,周囲の人間の視線がすべてのミツバチに同じように注がれちゃう.少数の不心得者のせいで,ミツバチとそれにかかわる人すべてが迷惑を受けないように,予防措置的なこととして剪翅すべきという意見になっている.でも,ここはやはりもう一歩踏み込んで,剪翅をしなければ他人に迷惑がかかるようなところで,なぜミツバチを飼わなければならないのか,そこを考えるべきだろうね.
実は,有機養蜂で剪翅を禁じているのは,動物福祉的な意味合いが強い.ただ,誤解されやすいが,ミツバチは剪翅で苦痛を感じはしないので,痛そうだとか,かわいそうだからという意味での剪翅禁止ではない.剪翅の禁止は,本来は,ミツバチが自由に分蜂できるような空間にいること,それは同時にミツバチが蜜を集めてくるのに本質的に適した環境であり,だからこそ生産環境として,有機的でよいと評価できるということでもあるんだ.

minilogo.pngそんな場所だったら,わざわざ翅なんて切らなくったって,だれも文句言わないだろうしね.人間はハチミツは美味しいとかいいながら,ホンモノのミツバチを見ると,怖いとか気持ち悪いとかいう.働き蜂は女の子なんだから,本当に失礼しちゃう.でも,群飛しているの見て,「ああ,分蜂だ,また春が来たねえ〜」とかいってもらえたら,ミツバチ的には嬉しいな.同じ空間と季節を,人間とミツバチが共有できてるってことだもの.ミツバチが一生一度の大イベントをやっているときに,一生に一度しか見られないこと見ちゃったと,仕事の手を休めて,群飛の行方を追ってもらう.家に帰って,興奮したまま,家族に今日の感動を伝えるのって,何かいい絵になりそうだよね.ミツバチは人間とそういう関係を作りたいな.

今日は珍しくポジティブな方向に落ち着きそうなので,ここまでにしておきましょう.
なお,剪翅の是非論は,たぶん,本質的な議論にはなりません.でも可能であれば,自由に分蜂ができる環境をミツバチに提供したいし,分蜂を見て,季節を感じてくれる人々が増えることも,同時に願ってやみません.ミツバチと空間や時間を共有できる人が増えるだけでも,ミツバチ的には大きな「環境」の改善になるでしょう.



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2012年06月29日

魔性のミツバチが悪い?

たまたま都内で開催された会議で,都市養蜂が話題に上がり,偶然その日に,都市の自然環境について考えさせられる1冊を往復の電車内で読んだので,辛口ミツバチと一緒に紹介していきます.

紹介するのは,川上洋一さんという自然科学ライターが書いた「東京 消える生き物 増える生き物」 (メディアファクトリー新書)という本.都市で増えた減ったと人間が騒ぐ生き物を取り上げて,都市に自然がよみがえってるとのありがちな「錯覚」を打ち砕く,データに基づいて検証的に書かれた,とてもわかりやすい1冊.でも,著者でもありすべてのイラストも描いている川上さんは,決して都市や都市の自然環境に批判的っていうことではなく,都市でも人間と自然が共存できる日が来ると信じておられる.ただ,現状で,あまり騒ぎすぎなさんなよというのがスタンスのようだね.


minilogo.png「錯覚」ってどんなこと?
わかりやすい表現で書かれているのは,都心でキツツキ(コゲラ)が増えている理由について書かれたところかな.23区内の街路樹が老齢化して,枯れ枝が増え,そこにカミキリムシなどが多いので,コゲラはそれを狙って都市部で増えてきているらしい.川上さんは,「『キツツキが棲む豊かな自然には枯れ枝が多い』という法則は成り立つが,『枯れ枝が多くキツツキが棲んでいるので自然が豊か』とは言い切れない」と断じているんだ,これが,特定の生き物の増加を根拠とする都市の自然再生ロジックの間違いだって.

minilogo.pngぷっ,自然再生と思ったら,背景は街路樹の老齢化だって.人間ってつくづく感覚的だよね.
そうだね.感覚的な方が,検証という過程に曝されないので,広がりやすいんだろうねえ.情報の広がり方としてゆゆしき問題だとは思うけど.

minilogo.pngその感覚的なところがさ,生き物を公平に見れなくなっているよね.冒頭のカラスも野生の生き物だけど,増えたからって喜ぶ人はいない.野生の生き物が住めるような都市は,自然が豊かな空間だっていう人が多いのに,カラスじゃダメ.でもカワセミなら諸手を挙げて万々歳.
そうなんだよね.カワセミは「それこそイメージで,すわ都市の自然再生かと誤解された鳥」で,その美しさゆえに見るものを魅了しちゃう.川上さんは「清流の鳥というかつての偏った看板はそろそろ外した方がいい」といっている.

minilogo.pngこの本では扱われなかったけど,そろそろミツバチの話にいきたがっているね.で,ミツバチは,都市の自然再生のシンボルになっているの,カワセミみたいに?
野生のニホンミツバチは都市部でも増えている.都心にミツバチを置いているとたくさんハチミツが採れる.だから,ミツバチが住む都市は,自然環境が豊かになりつつあるのだという考え方はけっこう定着しているとは思っているよ.

minilogo.pngでも本当はそうではないと思っているんでしょ.だいたい,自然環境がよくなっているなら,カラスとか,カワセミとかミツバチだけが目立つわけ? それに,私たちがたくさん蜜を集めてこれるのは,公園とか,人工的な空間に花が多いからだって認めていたりするんだし,それでどこが自然環境が豊かなの?
その点では,自然が再生されているという人と,そうではなく都市環境というものがそもそも豊かなんだという考えをする人たちがいるのも事実だと思う.

minilogo.pngふ〜ん,ミツバチ的にはね,都心だと怖いオオスズメバチさんに襲われることもないし,蜜や花粉はだいたい私たちが行くまで花の上で手つかずだし,冬は暖かいから,ハチミツの消耗も抑えられて,都市は本当に「いいことづくし」.
しかも君たちは,人間が作ったものにも巣を作るし,行動半径はそこそこ広いから食べ物不足には陥らない.

minilogo.pngだから,私たちは,みんなが言うように,都市の環境は実にいいって認めてもいいよ.オオスズメバチさんとか,花に来る他の虫さんを閉め出して下されば,人間様が,これが豊かな自然ですっていうのに,特に異議は唱えないよ.
待ちなよ.生き物である以上,他の生き物との関係,それが自分に不利な場面があっても,そうした生物間関係が多様に維持されていることが長期的には大切だってわかっているんだろう.

minilogo.pngそうかな,私たちが人間様に向かって,都市の環境がいいといえば,きっと,ミツバチだけが生きていける環境を,人間の皆さんがせっせと作ってくれるような気がするな.
おいおい,そうやってすでに人間をたぶらかしてきたんだろう.都市養蜂の人たちは君たちの魔性の虜になっているのかも知れないぞ.でも,カワセミみたいに,間違った看板は外すときが来てると思うよ.悪霊退散!

minilogo.pngやめてよ,冗談だよ.でも,私たちは人間にいいようにされているって知ってる? 私たちの都合ってこれっぽっちでも聞いてくれたことある? イチゴを実らせてあげるために死ぬのも,繁殖忘れてハチミツをたくさん集めるのも,私たちの種族のために必要なことだから我慢している.それどころか見た通り楽しく働いているよ(不健康には働けないたちだからね).でも人間は感謝知らずで,おまけに思い上がって,私たちが必死に適応しようとしている都市環境を「いい」とかほざいて,私たちにここでも楽しくやれという.人間でさえ,不適応で病気になったりする環境だよ.そのくせ,都市には何でもあるって幻想だけは捨てないで,欲張っちゃう.はっきり言うけど,こんなところに豊かな自然があるわけないでしょ.都市環境が,生き物にとって豊かなはずないでしょ,こんな人間と共存した自然があるわけないでしょ....

しばらく興奮冷めやらないようなので,今日はこの辺で...ほとぼりが冷めた頃にまた....


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2012年06月05日

ハチミツなしに人類もなし

ひと頃,「ミツバチが滅んだら人類は4年と生きていない by アインシュタイン」なる怪しげな標語も流行しましたが,今日のお題は,それとは逆のありがた〜いお話.
アメリカ,ネバダ大学のCrittenden博士(行動生態学,栄養文化人類学)による論文「人類の進化におけるハチミツ摂取の重要性」
この地球上に,ミツバチに遅れること300万年あまり,ようやく150万年前に登場した私たち,実はその進化にハチミツが果たした役割が大きいということで,今夜からはミツバチには足を向けて眠れない.辛口ミツバチの久々のお出ましにはこの上ない話題を見つけてきました.

昨年末,Food and Foodway(「食料と食習慣」ってとこか)という学術雑誌に掲載された,上記の彼女の論文は,私たちの祖先がミツバチやハリナシバチの巣を狩って,ハチミツや蜂の子を食べたことが,進化の後押しになったという結論.それが妥当な考えだとすると,人類にとってミツバチ様々ということになるね.
minilogo.pngそういう何かがないと感謝できないことが,そもそも問題だとは思うけどね.でも,ハチミツが人類の進化にどう影響したのかは興味深いね.

人類の進化につながった傍証として,一つは,人類以外の現生霊長類のハチミツ利用の実態をあげている.もちろん,クマやミツアナグマのように,ハチミツを好む動物は多いわけで,霊長類だけが特殊ではない.でも,実際に,チンパンジーには「チンパンジー・ツール」と呼ばれる,蟻塚に作られたハリナシバチの巣のハチミツをなめるために,穴をあける道具や,あけた穴から差し込んで蜜をなめる道具など,多様な道具があることが知られている.チンパンジーでさえそうなのだから,ハチミツや蜂の子を食べたいがために道具を使い,さらにその道具を発達させることができたのは,旧人類にとっても重要な過程だったのは明らかだろうと述べている.
minilogo.pngまあ,自然界にハチミツほど甘いものはないし,蜂の子も高タンパク質だしね.ハチミツの歴史は人類の歴史っていう言い回しがあるけれど,もうちょっと踏み込んで,人類の進化の歴史にすればいいんだよ.

いや,まだ結論に行くのは早い.人類の特徴は大きな脳.この脳が消費するエネルギーはとんでもないけれど,基本的に脳はブドウ糖を優先的に利用し,これにはハチミツのような高濃度でブドウ糖を含む物質が有効だったのは間違いないだろう.
minilogo.pngでも,そのためには,毎日食べていなきゃならないんでしょ.今も人類はミツバチを酷使しているけど,そんな時代から,毎日毎日,ミツバチからハチミツを搾取してたんだね.まだ容器なんて持ってなかったのに,そっか,蜂の巣が容器代わりか.

暗に,地球上で「容器」を手にした最初の生き物はミツバチだといっているな.さて,その大きな脳を入れるために頭蓋骨が大型化したのに,大臼歯は小さくなちゃった.これは,よく噛まなくても食べることができる食料を手に入れた証拠だとされている.これまでは肉とイモ類がその転換をもたらしたとされてきたけれど,ハチミツも忘れてもらっちゃ困ると,彼女は書いている.
minilogo.pngなるほどね,蜂の子だってほとんど噛まずに食べられるしね.

えっと,申し訳ないね.その蜂の子は,タンパク質源として重要で,特に乾期の食料不足時期には意味のある食料になっただろうとも書いている.
minilogo.pngまあ,でもよくそんなに蜂の巣を見つけたもんだね,その当時.

その頃は地球が豊かだったということでもあるんだろうけれど.ただ,その蜂の巣を見つける能力が高いことに意味があるってことだ.おまけに,彼女が研究対象としているタンザニアの狩猟民は,蜂の巣狩り専用の石器を発達させているんだそうで,それも一つの証拠として,明らかにハチミツが人類への道を後押ししたと結論している.
minilogo.png昔のミツバチは,道具を発明させてあげたり,ハチミツや蜂の子の栄養をあげたり,ずいぶん人類に貢献してきたっていうか,神様みたいに寛容だったんだねえ.それが今じゃこっちが酷使されている.人類,あまりに感謝知らずなんじゃないかな.

そ,そうだね.いや,日々感謝はしているつもり.こうした論文も,150万年遡って感謝した方がいいって教えているようなものだし.
minilogo.pngいやいや,昔のことはともかくね.今だよ,今,今のミツバチに大切なのは.でも,この論文は久々にミツバチ的にも明るい話題だねえ.しばらく休んでたけど,ちょっと元気出てきたかな.

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2011年07月26日

講演会「心への種まき 学校養蜂」に参加してきました

7月23日に久留米市で開催された「心への種まき〜学校養蜂」という講演会(企画:はちっこくらぶ)に行って来ました.講演者は,兵庫県神河町の南小田小学校の神崎良三先生.
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プーさんのT-シャツで登壇した神崎先生


講演会の存在自体は,はちっこくらぶ代表の西村靖子さんから,みつばち百花のNLを講演会で配布できないかという連絡があったことから.西村さん自身,百花のサイトはこれまでも見て下さっていたそうですが,もともとは宮崎県の養蜂家の方に紹介されたとか.何となくつながりができつつあるなあと感激しつつ,行ってきました(直前まで行くか行かないか迷ったこともあり,ついでに九州新幹線にも乗ろうと,全行程鉄路でいってきました.町田から久留米までたった2回の乗換えです).実は,近々「教育でのミツバチ利用」の話をしなきゃならないので,参考にと思っていったのですが,期待を上回る収穫でした.先生のお話と,ハチミツ(今年の巣蜜と16年もののハチミツ)の試食がセットになった2時間,どんな内容だったのか,ちょっと夏ばて気味の辛口ミツバチに進行を手伝ってもらって紹介します.なお,この日の参加者は41名で,ミツバチネタだからかやはり女性率が高かったですね.

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今年の巣蜜(上)と16年前の蜜(下)も神崎先生直々にサービス



minilogo.png神崎先生とミツバチとの出会いからいこうかな.
神崎先生は,近畿大農学部(受験の時には玉川も候補だったそうだよ)のご卒業で,卒業研究でスズメバチとかかわることになり,駆除専門業者で研修された.それが縁で,教員になってからも社会福祉協会などからの依頼で,駆除を手伝っているうちにミツバチも駆除対象に入ってきて,でもこれは飼えるということで始められたそう.17年前のことだとか.

minilogo.pngニホンミツバチさんなんだね.ご自宅で飼い始めて,ついでに学校でも?
この部分が,講演会のチラシで「ハンカチなしでは聞けないお話」となっていた部分.ご自宅で採れたハチミツを8年間,校長先生が替わるたびに持っていって,機会をうかがっていたけれど,いつも「先生のハチミツおいしいねえ〜.おいしいけど,学校でミツバチ飼うってはいわんといて」といなされていたそう.そこで先生は一計を案じた.それが「巣門体験」.ニホンミツバチの巣箱(神崎先生が使っている巣箱は重箱式)の最下段は,ミツバチの巣箱の玄関部分.この正面の板を取り外して,中に素手を差し入れるというもの.校長先生,町の教育委員会や県教育事務所の所長(+その運転手さんまで)にこれを体験させて,ミツバチの小さな翅が作る風を感じてもらい,同時に安全をアピールして,遂に6年前に学校養蜂がスタートしたんだそうだよ.もちろん,なぜという部分には,小学生の教科書の中での蜂類の扱いが「危険な生き物」一辺倒だったという点もあるとか.

minilogo.png危険なだけじゃないってことを知ってもらうためにも,安全をアピールするってことなんだね.で,結局,誰も刺されなかったから始められたんだね.ニホンミツバチさんおとなしいっていわれてるからなあ.セイヨウミツバチじゃあ,どうだったかなあ.
いや,ニホンミツバチさん(つい「さん」がついちゃうな)だからって必ず安全ということではないんだそうだよ.ニホンミツバチは刺さないという人は多いけど,そういう人だって刺されたことはあるに違いないし.先生によれば,静かな山の中にいるニホンミツバチはやはりいきなり人の手が入ってきたら騒ぐそうだよ.先生のミツバチは,道路際の少し騒がしいところに置かれていて,多少ことでは騒がない体質になっていたらしい.

minilogo.png普通ならその方がストレスがたまって攻撃的になるのでは?
程度問題だろうね.それとやっぱり花があるかどうかが問題だと思う.採れているハチミツの量も結構なものだけど,実際,小学生の頭の高さよりも高い7〜8段の重箱巣箱で飼われるくらいの強群だし.多少のことでは動じないのかもね.ミツバチの攻撃性は,環境が作った下地に,人間などの与えるストレスの強さで決まると言えるから,やはり環境がよかったことと,適度で,慣れることができる程度の騒がしさだったんだと思う.刺されないために慎むべき5つのこととして「つまむ」「はさむ」「つぶす」「玄関以外から入る」「蜜を盗む」を挙げておられたけど,どれも人間だって同じでしょうといっておられた.人間がされて嫌なことはミツバチにもしない.あたりまえのことだけど,普通にはそういう理解はないかもね.そうやって刺害を極力防ぐことには成功してきたそうだ.

minilogo.png学校ではミツバチを飼ってどんなことを学べたのかな?
こどもたちは観察日記を交替でつけたり,採蜜体験,自分用のハチミツ瓶のラベル製作,蜜ろうの精製とロウソク作りとか,結構いろいろやってきているね.もちろん,観察していると,分業も見えてくるけれど,そこからクラスの中での役割分担の意味を悟ったり,蜜や花粉を誰のために集めてくるのかというところで,働いて稼いでくる親の位置づけを理解したり,小学校ならではの学習効果はあるようだよ.特定の教科というのではない教材としてミツバチが存在できているというのかな.

minilogo.pngこどもたちの反応はどうなの? ちゃんとミツバチのことわかってくれるのかな?
小学生らしい感じだけどね.現在,高校2年生の卒業生たちが寄せてくれた感想があって,「ニホンミツバチを見つけたら,久しぶりに友だちに出会ったような反応をします.ハチって怖くないんだよっていろいろな人に教えたいです」とか,「ハチがかわいく思えるようになった」なんてのも.経験したことがすばらしかったのは確かだろうし,それ以上にミツバチという生き物を適度な距離感で見れるようにはなっているんだね.

minilogo.png周囲の大人はどうなのかな.神崎先生はいいとして.
学校養蜂のハードルは,1)学校管理者,2)保護者,3)隣接住民,4)地元の養蜂家で,学校管理者に関しては,苦節8年目で何とかクリアできたのは最初にいった通り,もちろん保護者は協力的.隣接住民は,「ダメなら諦めます」と弱気な先生に「うちの畑を貸してやるからやれ」とまでいって下さったそう.地元の養蜂家は,神崎先生の方が養蜂暦が長い(当時で12年目)とわかると「いろいろ教えて」ということになったんだって.

minilogo.pngだけど,そもそもなぜミツバチだったのかな.
先生の書いたものを読むと,ふるさとに魅力を感じられるこどもを育てたいというのが先生の中の中心命題のようだね.実は過疎化で学校の統廃合が進んでいて,せっかくの現場になった南小田小もあと2年で閉校になるそうだ.田舎からの人口流出はなかなかとめられない.でも一方で,町のこどもたちは町の暮らしをそれほど肯定的には見ていないというアンバランスな状況にあるんだそうだ.だからこそ,魅力ある田舎暮らしを体験させたいという思いがあって,ニホンミツバチさんということになったんだと思うよ.

minilogo.png今回の講演会の主催者のはちっこくらぶは全国の小学校で養蜂をというのを目指しているみたいだから,少し思いとしてちがうのかな.
最初の思いはともかく,まだ情報収集段階だから,これからでしょう.それで,今回の講演会が最初の勉強会だったらしいよ.でも,ミツバチにピンと来て,いろいろな可能性や魅力を感じているところは,百花の面々とも通じるものがあるよね.
そもそも,ミツバチを学ぶことは「養蜂」以外の形でもできる.とにかく飼わなきゃというのは「ミツバチ」というキーワードから来る強迫観念に過ぎないよ.飼育に踏み切った南小田小は小規模校だってこともあったし,何より神崎先生がミツバチを扱える人という利点が大きいよね.周辺の豊かな自然もあるわけだし.そんな恵まれた条件はないという中で,じゃあ何ができるっていう部分はあんまり整備されていない(だから無理して飼っちゃう).学校や,親や,こどもたちだけではどうにもならない部分も多い.でも,そう思えば逆にやることが何かは見えてくるのかも知れないよ.どうにもならないことができるのは誰だろうって考えればいいという部分もある.先人としての神崎先生のお知恵も拝借しながら,こどもたちがミツバチと「友だち」になれることを目指していきたいし,ミツバチが住んでいる空間に,田舎であれ町であれ,自分のふるさととして魅力を感じて欲しいね.そのために,大人たちがやっているいろいろな活動が連携していけるといいだろうね.


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2011年06月09日

「ハチミツでダイエット」は,本当?

かなり前の「ミツバチの気持ち」 (2010年9月25日付)の記事「『?』なハチミツの宣伝文句−価値の創造からは逆行?」にちょっと(2か月近い?)前にいただいたご質問,「ハチミツはダイエットによいか」にお答えします.たぶん皆さんも知りたい内容なので,改めて記事として書いてみました.ハチミツに対する誤解(というより過剰な期待)をどう解くべきか,実に悩ましいですが,根底にあるのは,特定のものをありがたがる風潮.薬の場合は,ある成分がよいということは確かにありますが,食品の場合は,やはりバランス感覚は不可欠です.では,いつものように辛口ミツバチと一緒に進めていきます.

minilogo.pngまず甘味度について,ハチミツは砂糖の2倍甘いのは本当かっていうところから確認しておこうよ.
糖類などの甘味を比較評価するための指標として,「甘味度」というのがある.ただ,これは機械で測るのではなくて,パネラーに比較点をつけてもらう相対的なもの.通常,標準はショ糖(つまり砂糖)で,これを100として,他の糖を評価する.教科書的には,ブドウ糖が64〜74,果糖が115〜173と幅がある(数値は文献によってさまざま).ハチミツを砂糖と直接比較するのは難しい.ハチミツには糖分以外の味覚成分(酸味や苦味など)が多いしね.もちろんハチミツを果糖とブドウ糖の混合物と考えることもできる.ただ,全体の濃度が低いと,同じ濃度のショ糖よりも甘味を感じにくく,濃度が高くなると混合糖の方が甘味を強く感じるらしい.「ハチミツは砂糖の2倍甘い」というのは,原液の話なら妥当そうだけど,薄めた状態では過剰評価になっちゃってるだろうなあ.

minilogo.pngハチミツっていったって,その中の果糖とブドウ糖の組成比は蜜源によって異なるよ.ハチミツならみんな同じ甘さということはないはずだよ.酸味や苦味によっても甘さの感じ方はちがうしさ.ハチミツ同士を較べた人はいないの?
アメリカで1974年に10種類のハチミツの甘味度をパネラーを使って調べた人がいる.それぞれの糖組成と照らし合わせると,やはり,果糖が多いハチミツの方が甘味を感じやすいという結果だったようだね.その点で,砂糖はショ糖という単独の糖だけれど,ハチミツは複雑だし,有機酸やミネラルなど味に係わる成分が含まれるから単純に2倍甘いというのは適切な表現ではないね.ハチミツによって異なりますよ,というところか.果糖が多いという意味ではニセアカシアのハチミツはやっぱり甘く感じやすいね.

minilogo.pngアイスクリームの場合など,低温での甘味の感じ方っていうのが次の確認事項.果糖は冷たいほど甘く感じるの?
これも誤解されやすい.ショ糖は高温で甘味が強く,低温になると甘味を感じにくくなる.果糖は温度によらず安定した甘味らしい.だから同じ濃度のショ糖と果糖を温度を変えながら較べると,低温では果糖の甘味が際立つし,高温ではショ糖の方が甘くなるということらしい.アイスクリームなどには果糖の多いハチミツが甘味として向いているのは事実だと思う.でもハチミツ入りのアイスクリームなら甘味料は少な目だからなんて,食べ過ぎたら意味ないしねえ.

minilogo.pngお次は,これもよく聞かれるハチミツのカロリー.ミツバチ的には,ハチミツはエネルギーの素なんだから,これが低カロリーでは何のために作っているかわからなんですけど.
そりゃそうだ.でも砂糖100gのカロリーが384kcalに対して,ハチミツは294kcalといわれている(食品成分表による).単純比較すると砂糖に対して2〜3割少ないことになるけど,ハチミツには水分が20%前後含まれているから,この点は当然といえば当然なんだけど.

minilogo.png水の分は当然少ないよね.それはミツバチとしては納得.で,砂糖の代わりに砂糖よりも甘いハチミツを使えば当然摂取カロリーは減るから,ダイエットにいいということなのかな?
そうだねえ.例えば料理で砂糖を100g必要としているところに,甘味が2倍で,カロリー25%減のハチミツを使えば,同じ甘味を確保するためにはハチミツは半分の50gでよさそうだし,その結果,カロリーは147kcal,つまり砂糖100gのカロリーの40%ほどということになるね.ただ,そこには大きな落とし穴がある.料理の場合,他の材料は変えないわけだから,あくまで甘味の分でのカロリーが減るということで,料理全体のカロリーが40%減るということではない.例えば肉じゃがのような料理だったら,ハチミツで減る分なんて,ジャガイモや牛肉分のエネルギーに較べれば微々たるものだろう.

minilogo.pngなるほどね,でも「塵も積もれば・・・」ってことなんじゃないの? 摂りすぎたカロリーは脂肪となって体に蓄積するのが問題なんでしょう? ハチミツは体に蓄積しにくい?
ミツバチは巣の中にたくさんハチミツを貯えているよね.でも,人体に貯蔵される糖質量は,まずグリコーゲンとして肝臓に70g,筋肉に400g程度.ブドウ糖は血中に数g,脳や神経など活動レベルの高い組織に20gほど.この合計500gほどの糖質のカロリーは2000kcalで,普通の人の1日の基礎エネルギー量.つまり実は貯えどころか完全な自転車操業状態.とはいえ,これ以上に摂取された糖はすべて脂肪に変換されるといわれる.脂肪に変換されやすいのは,肝臓では果糖で,筋肉ではブドウ糖となる.そのあたり,摂りすぎないようにするのはなかなか難しそうだなあ.

minilogo.png糖質でカロリー満たしちゃったら,栄養として必要な脂肪やタンパク質を,カロリーの観点からは摂取できなくなっちゃうなんてことにもなるんでしょう? 食べ過ぎには気をつけなきゃ.ところで,ハチミツは吸収がいいといわれるよね.砂糖とハチミツで何か違いがあるのかな?
人間にとってはエネルギーとして利用できる糖は基本的にはブドウ糖.だから,ハチミツを食べると,その中のブドウ糖は小腸壁から積極的に取り込まれて,血糖になって必要な場所に運ばれる.果糖は,それほどの積極的な吸収ではないので穏やかに取り込まれる.でも肝臓で急速にエネルギーに変えられる.一方,砂糖(ショ糖)も小腸で果糖とブドウ糖に分解されてから吸収されるから,そのあとは同じ道筋なんだけど,その消化の「手間」分だけ,エネルギー効率ではハチミツがいいとはいわれるだろうね.でも,どのくらい有意な差かなあ.

minilogo.png結局のところ,女の子としては,ハチミツ食べてダイエットしたいわけでしょ? それはリーズナブルなの?
まあ,このご時世,女の子だけではないかも知れないけれどね.でもハチミツだからといって,決してカロリーがないわけではないし,砂糖の使用量を控えるといっても,それは総合的な食習慣の問題だし,また栄養バランスの問題にもつながる.砂糖をやめて,ハチミツを食べ続けるとダイエットができるかのような宣伝文句は現実的ではないだろうね.脂肪を食べたがらない人もいるけれど,栄養的には必要なものだし,実は忌み嫌われちゃう皮下脂肪も,適度な量であれば,皮膚がなめらかで色白になって美しさを得られるものなんだそうだ.健康ということに関していえば,いかに上手に食べるかが課題だよね.ミツバチだって,ハチミツばっかり食べているように思われているけれど,本当は,必要なタンパク質などはミルクの形でもらってたりするし.あまり食べ物の本質的ではない側面にこだわると,精神衛生上もよくない.基本は,バランスよくいろいろなものを食べるということだろうね.ミツバチも一種類の花粉だけ食べてると免疫能力が低下するなんていう研究もあったよね.

minilogo.pngそうなんだよね.ミツバチ的には,花粉がよりどりみどりな状態が望ましいなあ.けっこう探し歩いても花がないときは,やむなく手に入るものだけの偏食になっちゃう.巣にある程度の貯えはあるし,若い娘たちがミルクに変えてくれるんで,幼虫たちの栄養状態に影響が出ることはまずないけれど,花が次々咲いくれるような環境なら,ミツバチは健全で,安心して暮らせます.その点は,同じ環境を利用している人間の皆さんもよろしくご理解お願いします.砂糖かハチミツで悩むより,外に出て種まきとかした方が,健康にもいいですよ.その花で私たちが作ったハチミツ,喜んで差し上げます!(食べ過ぎないようにはして下さい)


参考
橋本仁・高田明和(編).2006.砂糖の科学.朝倉書店.
吉積智司ほか.1986.甘味の系譜とその科学.光琳.





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2011年04月19日

ネオニコチノイドと蜂群崩壊症候群〜結論はまだ先?

アメリカ合衆国農務省で特にミツバチのCCD(蜂群崩壊症候群)問題に取り組んできた研究者のリーダーである,Pettis博士の発言として最新ニュースとして流れてきた情報があります.Pettis博士は,当初は殺虫剤の関与を疑ってきたのですが,今回,イギリス議会の超党派の議員グループに対して,次のように語りました.
「低濃度のネオニコチノイド系殺虫剤は実験室内では明らかにミツバチの健康状態への影響が示されたが,野外調査では,これと同じ影響を見ることはできなかった」
では,何らかのCCDの解決の糸口が見えてきたのでしょうか? アメリカの養蜂雑誌Bee Culture誌の編集長発のメールマガジンの記事に基づいて,辛口ミツバチと見ていきましょう.

ここでいう影響というのは,実験室内では,低濃度のネオニコチノイド系殺虫剤をミツバチに与えると,腸管内で寄生虫(ノゼマ原虫)が増加するというものだったんだけれど,野外で,蜂群に低濃度の殺虫剤を与えても同じ現象が見られなかったということのようだ.
minilogo.pngイギリス議会の人々は,ネオニコチノイド系殺虫剤の特徴である「浸透性」に関して,作物に散布された殺虫剤が,花粉や花蜜にまで行き渡っちゃうということがあるかどうかに関心があったみたいだね.そこに出てくれば,いくら濃度が低くたってミツバチとしては農薬の影響を受けざるを得ないしね.

Pettis博士は,ごく微量のネオニコチノイド系殺虫剤(使用したのはイミダクロプリド製剤)をミツバチに投与したら,ノゼマ原虫への感染が増加したという実験結果を出している.ただ,博士は,殺虫剤pesticideは重要な問題ではあるけれど,同じように栄養不良poor nutritionや病原pathogenも大きな問題として,それぞれの頭文字から3-P要素と呼んでいる.
minilogo.pngそりゃあ,栄養は健康の基本だし,農薬はミツバチが働く現場のそこいら中で使われる.病原は博士が言うように通常は二次的要因だけど,今回はこの三つどもえの影響がミツバチを蝕んでいる.このうちの二つの組み合わせだって充分に大問題なのに,三つもあったら健康ではいられないよ.

博士は,殺虫剤は花粉媒介をする昆虫に立ちはだかる主要な問題としながらも,ミツバチの健康がこれだけで決まるとは考えられないとしている.
minilogo.pngその根拠は,花粉や花蜜を介しての影響は確認できなかったってことだよね.ここは聞いておいて欲しいところだけど,花粉に殺虫剤成分が出てくることはすでに確認されていたの.でも,ミツバチは巣房に貯えられた花粉に,プロポリスで蓋をして,それを食べないようにしてた.それで薬害を免れていたんだって,すごいでしょう.

確かに,普通,花粉には蓋はしないからね.この発見には,博士も驚いたようだね.ミツバチが巣の中の殺虫剤を感知して,汚染された花粉を使わないように実際に蓋をしていた.周辺の巣房の花粉は安全でそのまま利用されていたというのだから,ミツバチの感覚には確かに驚かされる.
minilogo.pngでも,実際には,蜂群が崩壊しちゃった巣箱の中で,蓋された花粉が見つかっているから,汚染された花粉を食べないようにしただけでは,ミツバチは生き延びれなかったんだって.

博士は,集約的な農地では,腸管のノゼマ原虫の感染率が,多様な植物を資源にできた地域に較べて高かったことも示して,殺虫剤だけではミツバチの異常を説明できないといいたかったのだろう.もうちょっと殺虫剤よりでは,作物保護協会のDyer代表が,現状ではミツバチに対して多様なストレスがあるのに,そうした研究成果を見ないで,環境活動家に追従するかのように,まるで殺虫剤が悪魔とでもいいたいような報道が散見されるのは残念だと発言している.
minilogo.pngミツバチ的には,そこは悩ましいなあ.農業の成立なしには,ミツバチも活躍の場がないし.殺虫剤の中には,養蜂家が巣箱の中で使うダニ駆除剤も含まれているので,けっこう複雑なんだよね,気持ち的には.

もちろんPettis博士も,近々,学術雑誌に成果発表することにはなっている研究結果が,実験室内では見られた影響が野外では見られないという結論ではあっても,殺虫剤を全面的によしとすることなく,殺虫剤との接点がどのくらいあり,どの程度の影響を受けるのかを今後も監視していかなければと言っているね.
minilogo.pngネオニコチノイド系殺虫剤は種子消毒目的で使われることが多いけれど,日本では散布されることが多いから,今回の研究結果がそのまま日本で応用できる訳でもないしね.それぞれの地域で,ミツバチの重要度に合わせて,それと殺虫剤の使われ方,必要性に応じて,どうすればミツバチが殺虫剤の影響を受けないで済むのか,一生懸命考えて下さい.それと,農薬と絡んでミツバチの健康に影響する栄養問題に関しても考えて下さい.今は春で花もたくさんあるけれど,このあたりはやっぱり作物の花が多いんだよね.栄養的に偏らないか,殺虫剤は撒かれていないか,悩みの種が尽きません.





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2011年04月01日

放射性物質除去にヒマワリ?

福島の原子力発電所事故では多数の方々が避難を余儀なくされ,また現場では廃炉に向けて懸命の対策が実施されています.この原発からの放射性物質の放出は,みつばち百花の提携先のひとつである飯舘村にも深刻な影響を及ぼしています.問題は福島県全体,あるいは日本全体の問題として,農作物の出荷停止や日本製品の輸出困難にも発展してきています.
そんな中,ヒマワリが放射性物質による土壌の汚染除去に役立つという情報がインターネット上に流れています(私は番組を直接見てはいないのですが,テレビ番組がきっかけのようです).ヒマワリは,花が少ない夏に咲く蜜源・花粉源植物でもあり,みつばち百花としても注目していますが,そうした記事を見ると「放射能で,人が住めない状態なら,まずはヒマワリで放射性物質を除去…」と反応する方も多いでしょう.一方で,どの程度本当のことなのという書き込みも.基本にしたがって,原著論文にあたってみることにしました.いつものように辛口ミツバチにアシスタントをお願いします.

ちょっと長くて恐縮だけど,比較的ちゃんと引用している印象がもてるサイトでの表現を先に確認しておこう.
「植物には根っこから土壌の放射性物質を吸収するものもあるそうで、その中でもヒマワリが最も吸収の効率が良いのだという。土壌の放射性物質の除去までに30年以上はかかると言われる場所でも、わずか20日で95%以上を除去したという記録が残っている。
 1995年に米ラトガーズ大学のスラビック・デュシェンコフ博士ら旧ソ連出身の植物学者達が、チェルノブイリ原発から1キロ離れた池で20種類の植物を栽培し、ヒマワリがセシウム137を根に、ストロンチウム90を花に蓄積することをつきとめた、という研究報告がある(日本テレビ系(特命リサーチ 200Xより)」〜
出典:ゆかしメディア
多くの人がこの記述を参照しながら,多少なりとも温度差のあることを書いて,情報拡大が起きている.さて,該当する原著論文はあるのかな?
minilogo.png入手できた中に,この実験を詳細に解説しているものはあった.
Slavik Dushenkov, Yoram Kapulnik, Michael Blaylock, Boris Sorochisky, Ilya Raskin, Burt Ensley. 1997. Phytoremediation: a novel approach to an old problem(ファイトレメディエーション:ある古い問題への新たな取り組み). Studies in Environmental Science, 66: 563-572(この特集号は,Wiseという人が編集者になって,Global Environmetal Biothecnologyというタイトルでハードカバー書籍としても出版されている)
本人が解説しているとはいえ,原著ではないので,いくつか情報が落ちているのかも知れないね.ただ,論文自体は本人サイトで確認したので,相当する原著がないのも確かなんだけど.

情報源に関しては,最大限入手したということで,進めていこう.サイトの記述からは,研究者たちは,チェルノブイリ原発跡から1km離れた池で20種類の植物を栽培して,放射性物質の吸収効率を較べてみたという感じだね.ヒマワリを池で栽培? 本当かな?
minilogo.pngこの論文では2つの実験が紹介されている.第一の実験は,その池からセシウム137とストロンチウム90を含んだ汚染水600Lをキエフの実験施設に運んで,温室の中で,発芽8週目のヒマワリ4株につき50Lの汚染水で水耕栽培して,汚染水の浄化を計測したもの.第二の実験は,その直径10mほどの池で,1m四方の発泡スチロール製の浮島を作って,数種の植物を栽培し,4〜8週後に植物を回収して乾燥し,地上部と根部でセシウム137とストロンチウム90がどのくらい含有されているかを計測したというもの.

第二の実験の方がちまたに流れている情報源のようだね.
minilogo.pngそちらの結果は,セシウム137については,ヒマワリの根で,イネ科のチモシー(オオアワガエリ,牧草)やオオスズメノテッポウの根の8倍の生物濃縮が見られた.ストロンチウム90は地上部の方に高濃度に濃縮された.ちまたの情報で「花」とされているのは地上部のことだよね.他の研究(Wen et al. 2009. Bull. Bot. Res. 29: 592-596)では地上部でも特に葉に濃縮されるらしい.花に行くとなるとミツバチ的には警戒しなきゃ.いずれにしてもヒマワリは,汚染物質の根圏ろ過システム(根を通じて水系の汚染物質を除去するシステム)として優れていると結論している.生物濃縮の効率からは,この池のすべての放射性物質(セシウムとストロンチウム)は乾燥重にして55kgのヒマワリがあれば完全に除去可能だって推論してるよ.最終的に,このヒマワリを灰化して,ガラス化してしまえば,放射性廃棄物として保管可能,という筋書きで,期待が持てそう.

「30年はかかるところを20日で95%除去」の根拠はこの論文には示されていないようだね.
minilogo.png30年という数字は,放射性物質のセシウム137,あるいはストロンチウム90の半減期の近似値みたいだね.だからそもそも汚染がそのままなら30年でなくなるということではないんじゃないの.95%は,Dushenkovさんの別の論文(Dushenkov. 2003. Plant & Soil 249: 167-175)でヒマワリの根圏ろ過システムで汚染水中のウランを24時間で除去できる最大効率として述べている数字かなあ.20日はわかんない.元の論文の第一の実験では12日間で(ヒマワリは2日ごとに取り替えているけれど)セシウム137は90%,ストロンチウム90は80%除去できたとしているけれど,これでもないし.

原著がわからないのでその辺は不問としておこう.ただ,いずれにしてもヒマワリに放射性物質汚染を浄化できる能力があるということは間違いないようだね.植物を栽培するには太陽のエネルギーだけでよいわけだし,時間はかかるけれど,低コストでいい方法だと思える.じゃあ,やっぱりヒマワリを植えましょうということになるね.
minilogo.png待ってよ,結論を急がないで.この実験は水耕栽培だから,汚染水の浄化の話だよ.水に溶解してる放射性物質をヒマワリが取り込むということであって,土壌の汚染とは話が違う.汚染土壌にヒマワリを植えて同じ効果が期待できるとは誰もいってない.Dushenkovさんも土壌中での放射性物質の動態は水の中とはちがうと別の論文(Dushenkov et al. 1999. Environ. Sci. Technol. 33: 469-475)で述べている.

なるほど,その論文では,実際にどんなことをやっているのかな?
minilogo.pngチェルノブイリの事故(1986年)後,やっぱり重要な問題は汚染土壌をどうするかということだったんだって.いろいろな方法があるけれど,彼らはやはり植物による浄化をやりたかった.植物を使う場合,まずは,植物が利用(吸収)しやすい形にしなきゃならない.そこで土壌中のセシウム137をどうすれば溶解性の形に変えられるかという問題に取り組んでいる.

水圏汚染の場合は放射性物質が水に溶けた形で存在するけれど,土壌の場合はそうではないということか.汚染土壌を水の中に放り込んだら,汚染物質が水に移っていくだろうから,その水を使ったヒマワリの水耕栽培をすればよさそうだけれど,どう?.
minilogo.png土壌を水で洗ってもセシウム137は溶け出さない.土壌中で他の土壌成分に吸着したり,他のミネラル分と結合して結晶体になったりしていて,水に溶けにくいんだって.強い硝酸なんかを使っても20%くらいしか溶け出さない.実験では133gの土に,1Lのアンモニウム塩溶液を加えて24時間振盪させると4%くらい溶解させることができるので,それが実用的だという感じで述べている.実際には土壌に多量のアンモニウム塩を土壌改良材として撒かなければならない感じだよ.

フィールドで実際にやるのは難しそうだね.
minilogo.pngもちろん試験的にはやってるよ.15cmの深さで耕して種を蒔いて,育てた植物の地上部を取り除く.植物にどのくらい取り込まれたかと,地表面のセシウム137による放射線量を測定して,土壌からの放射性物質の減少をモニタしている.

結果からはかなり減少しているように見えるけれど,実用性はどうなんだろう?
minilogo.pngいくつか問題がある.セシウム137は急速に土壌中の他のミネラルと結合していくので,汚染後すぐなら効果が高いらしい.この実験はチェルノブイリの事故から10年以上経っているので,除去できるセシウム137は全体の10〜25%程度ではないかと推論している.セシウムの溶解を促進するために土壌改良材を利用するとしても,早ければ早いほどいいみたい.

実行するとすればやはり急いだ方がいいようだね.ではやっぱりヒマワリの出番か?
minilogo.pngヒマワリ? セシウムはヒマワリの根に蓄積するというのは先の実験の通り.土壌浄化の場合は,地上部を除去するやり方になるから,地上部への生物濃縮が可能な植物が必要.この実験でもヒマワリではなくてナタネの一種を使っている.だからヒマワリで土壌の放射性物質除去は現実的ではないことになるねえ.

え,だとするとサイトで紹介されていたものは? テレビ番組は何を根拠に?
minilogo.png水と土壌ではちがうことという意識がなかったのかもね.あるいはヒマワリを植えて,根こそぎ回収するなら意味があるとでも思ったのかな.Dushenkovさんも,2003年の論文で「ファイトレメディエーションによる放射性物質の浄化は環境管理やリスク低減化プロセスにおいて不可欠になるだろう」っていってる.まだまだ発展途上の技術だけど,将来に備えていこうっていう気持ちは読み取れるよ.ただ,この2003年の論文以降,Dushenkovさんはいっさいファイトレメディエーションの論文を書いていないのが気にはなるね.もちろんこの分野は今でも研究は盛んなようだけど.

事故は技術の完成を待ってはくれない.少しでも実用性があるなら,低コストだということも含めてやってみる価値はあると思う.植物が利用できるセシウム137の濃度が下がれば,その後そこで栽培される作物への放射性物質の土壌からの取り込みは限定的になるだろう.ただ,もちろんその後も土壌中に残るものをどうするか,難問は続くけれどね.
minilogo.png今は,みんなができることを一生懸命考えたり,調べたり,実行に移す準備をしたり,それから知恵を集めるときなんじゃないのかな.そのためには思い込みや短絡的な判断は避けて欲しいよね.きちんとプロジェクトとして動いてくれて,情報や予算や知恵が集まるのが望ましいんじゃないの.
今,福島の原発の周囲には,ミツバチもたくさん取り残されている.20km以内に取り残されたミツバチは避難もできない.その意味ではミツバチもまた被災者なの.「これから」にミツバチの力が必要なら提供したいです.


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2011年02月14日

はちみつのたね

一昨日(2月12日)は,長野県富士見町での第3回みつばち百花セミナー(知ってもらざぁ おらほーのまち会/富士見高校養蜂部主催)で,「ミツバチとひとがうれしいガーデン作り」講座に参加してきました.そして昨日は,子どもを連れて地元の図書館に行き,昨年11月に出たばかりの,ちばみなこさんの「ポムとナナ はちみつのたね」(岩崎書店)という絵本を借りて来ました.子グマのポムとミツバチのナナ,森の動物として仲良く暮らしてはいるものの,クマはハチミツが大好きでつい手が出てしまう.ある日,クロクマに家を破壊されてしまった傷心のナナは,どうしたらクマとミツバチが仲良くできるのか考えます.ナナが思いついた方法は? ミツバチとクマさん,そして私たちができることって何なんでしょうか.いつものように辛口ミツバチと一緒に進めていきます.

まずは富士見の話から.前回のセミナーで富士見にどんな花があるかをカレンダー形式でまとめて(寸劇から動画編集へ,高校生たちの進化は止まらない),今回はそれを使って仮想のガーデンを作ってみることに.現実感のあるワークショップで,3回の中できちんと構築されていくものがある.そこで,補足情報として,現地のニホンミツバチのハチミツの含有花粉から得られたミツバチが利用した植物の情報(これは事務局長の労作)を紹介してきた.人の目から見た花の情報とはちょっとずれがあることも伝えてみた.
minilogo.pngハチミツの中にはどうしてもたくさん利用した花の情報が残りやすいから,主要なものは,富士見では面積的に広く栽培されているソバやヒマワリってことになっちゃうね.人間は花を種類としてカウントするけど,ミツバチから見たら,面積の大小や開花期間の長短は,種類以上に重要な質の差でもあるからね.でも,こうしてみてみると,ミツバチがどんな花を利用していたのか,ニホンミツバチさんの場合は採蜜まで巣の中に貯えられていた期間が長いこともあるし,巣を圧搾しての採蜜だから,普通のハチミツより花粉が多くて特徴が見えやすいのかもね.

なるほど,確かに花の種類でカウントしちゃうなあ.それは花とのつき合い方のせいだろうかね.大面積で栽培されるものが主要な花粉種になりがちなことは,やっぱり面積の重要性を示してはいるようだね.ただ,開花期間が長いものがどのように反映されるかは,一部のマメ科の草本とかハルジオンとかがそうだろうと思う程度で,植生の調査もついてこないと難しいとは思った.で,面積の重要性ってところは,狭い庭ではあまりミツバチにとって魅力的なものにはならないってことになっちゃうのかな?
minilogo.png面積の大きい方をよく利用するというだけで,狭ければ利用しないと決まったことでもない.ソバやヒマワリは畑にたくさんあるから,あえて狭い場所でそういうものを植えてあっても魅力は感じない.今回いろんなハチミツに,ミツバチが大好きなシソ科の花粉が含まれていたけれど,ハーブガーデンでは,シソ科の草本はけっこう主役だから,面積的には狭くても魅力的だと思うよ.場所ごとに花期がずれていたりすればそれはそれでありがたい存在だし,それほど量にこだわらなくてもいいと思う.それに,ミツバチ以外のハナバチさんは生活圏が狭いものも多いから,量は問題じゃないし,きっと役に立ててもらえるよ.

仮想のガーデン作りワークショップでは,それぞれのグループが独自のコンセプトで植栽構成を考えたのに,偶然だろうけど,ミツバチにも人間にも「おいしい」というのが共通テーマになってた.ガーデンを作る立場で,作り手として利用の目的がかなって,同時にミツバチにも利用してもらえるなら,win-winな関係ってことで,ミツバチのことを意識しやすいという効果はありそうだった.
minilogo.pngミツバチのためだけに作ってくれるんでもミツバチ的にはまったく問題ないんだけれど,その関係を長く維持する上では,人間の方でも楽しんでくれた方がいいってことだよね.自分が作ったガーデンにミツバチが来ることに「うれしさ」って感じてもらえるんだったら,それはミツバチとしてもありがたいことだし.

「はちみつのたね」は,そのことをうまく伝えている.ナナは家を壊されないように,クマさんと仲良くできるように,クマさんたちに「はちみつのたね」を配る.クマさんたちはこれでたくさんハチミツができると喜んで,鍬や鋤をふるってこのタネを育てる(この絵がかわいい).でも,花は咲けどもハチミツなんて実らない.だまされたとナナに詰め寄るクマさんたち,でも,この花からミツバチがハチミツを作るんだと聞いて納得して帰って行く.絵本の世界で単純化されているけれど,この「納得」は重要なプロセスだなあ.
minilogo.pngクマさんは,ハチミツが欲しい.手軽に自分で手に入れられるなら,ミツバチに恨まれることもない.だからタネを育てる.でもタネからは花しか咲かない.ナナがハチミツが実るといってタネを配ったのは方便として許してもらえそうだよね(絵本の中のナナの普段の生活は,仮想のミツバチである私がいうのも何だけど,かばってあげる理由も感じないほどうらやましい).ミツバチという作り手がいて初めて花からハチミツができる.その作り手からハチミツを分けてもらうためには,花を育てなくちゃと汗をかく.ミツバチは受粉は手伝うけれど,植物は育てられないし,現実世界では,クマさんも花を植えてくれるわけではない.人間は,ミツバチが減っている,ハチミツの生産が減少してるって気がついているんだから,この絵本でのクマさんは,現実世界では人間なんだろうね.「納得」して花を増やしてもらうために,ミツバチが「タネ」を配らないといけないのかなあ?

ミツバチを家畜として飼う以上,飼う人間が受益者なんだから,問題が生じて原因が把握できているなら,受益に見合う何らかの「提供」という部分が必要ってことだろう.みつばち百花も「ミツバチのために,今,できること」というのをテーマに1年間活動してきたけれど,現実に「できること」を「やる」のは難しい.できそうなことを考えたり,言葉で訴えることはできても,その間,具体的に何ができたかを考えると,やっぱり心許ない.ハチミツのためになら花も育てちゃうクマさんたちの方が,よっぽど実行者ってことになる.それでも,ミツバチに代わって「タネ」は少しずつ配ってきたのかな.クマさんが動いたのは,住んでいる森は共有だという世界観もあってのことだろうね.人間は,つい家畜が飼われている現場を,自分たちの生活空間と同じ空間にあると想像し損ねる.農業も林業も,生活から離れすぎているから,仮にタネを配られても,それをどうしたらいいかわからないかも知れない.でも,減ったと問題視するミツバチやハチミツがどう増えるのか,どうできるのかがわかれば,「タネ」の使い道は明らかだろう.富士見のセミナーで,「タネ」が育っている印象になるのは,参加者とミツバチや花,庭作りの実際的な距離の近さに負う部分が大きいように思った.
minilogo.pngミツバチは,住んでいる環境がすべてだから,そこにある土地を,人間が畑だとか,ガーデンだとか,空き地だとか,はたまた耕作放棄地だと呼ぼうと,利用できるなら利用する.花がない土地が多くなれば,自分たちの巣のある場所は不適切と考えるしかない.ニホンミツバチさんのように効果的に「逃去」して巣の場所を変えていけるのならいいけど,セイヨウミツバチはそれが苦手で,今の場所でやれるところまで頑張っちゃう.その意味で,自分たちで花を育てられないのは,現状では生き物としての欠陥かも知れないけれど,私たちが想定している世界は,いろいろな花の受粉を手伝えば,群れを維持するだけの餌を確保できる世界なの.ミツバチを含めて,あらゆる生き物が自分が生息する環境というものを「想定」して生活の基本部分を組み立ててる.想定外の環境になるということは,その生き物にとっては生きにくくなって,生きていく場所を失うこと.現状が,ミツバチの想定環境から外れてきた感じがするのはなぜかなあ?

その責任の一端は,確かに人間のわがままな土地利用にあるってことだろう.だからこそ,ハチミツはどこから来るんだろう,といった想像ができないってことが,問題の根底にあるっていえるのかも知れない.クマさんたちが,ハチミツの実る植物があると思っていたように,「もの」の来歴ということに関して,ちょっと無関心すぎるのかも知れないね.花があれば何でもいいんだろうとか,どのくらい咲いていればいいのかという量的なセンスも欠落している.そういう想像力の欠除は,知識で補うことはできそうだけど,肝心の正しい知識もなかなか入ってこない.
minilogo.png環境の変化はもちろん人間だけが原因じゃないよ.温暖化でシロクマさんがピンチに立っているのは,人間が出している炭酸ガスのせいだけでないことは,生き物はみんな知っている(人間だけが,自分たちのせいだと思っているらしいね.で,そういう思い違いも商魂たくましく利用するのが人間だよね,感心する〜).想像力の欠除っていうよりも思考や知覚の停止なんじゃない.環境っていうのは,テレビやインターネットの情報ではなくて,自分の五感で感じて,頭の中で統合して知覚するものでしょう.天気予報を見て今日は寒いぞって,それおかしいでしょ? だってそこで生きているんだよ.すべての生き物が,地球規模の環境を関心事にはしない代わりに,自分が生きている環境の変化には細心の注意を払っている.人間は,自分じゃ見たこともないものまで心配したり,大騒ぎするけどさ,自分自身の身に降りかかっていることに関してはちっとも真剣に考えていないようだよ.そういう意味で,手にした「タネ」で自分なりの「ガーデン」を作って,ミツバチや鳥さんたちが来るのを楽しむべきなんじゃないのかな? やれることはだから本当は人それぞれ多様なんだと思う.

人間は,環境をよくも悪くもできるんだそうだから,その能力はうまく使って欲しいです.「できること」を考えついても,実際に実行することがどんなに難しいかは,ミツバチにもわかることだとは思います.ミツバチに較べれば長くても,確かに人生は短い,でも,人類はまだまだ続くんでしょう.「千里の道も一歩から」は人間の言葉の中でもいい言葉だと思っています.人間の言葉なんだから,信じてみたらどうですか? もっと「タネ」を配らないとダメですか?

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2010年12月07日

飼わずに殖やし,殖やして飼おう,ニホンミツバチ

JALの上級会員誌「AGORA」12月号に「日本ミツバチ世界を繋ぐ」という記事が掲載されました.銀座のミツバチプロジェクトや対馬のニホンミツバチ養蜂が紹介されていて,全体的には好感の持てる記事ではあるのですが,記事を書くことという観点から,適正には得られなかった情報をどう料理するかは書き手の裁量ということで本当にいいのか,疑義を感じないわけにはいきませんでした.ここで流されてしまう,ストーリー的には正しそうな情報が,実は実態を反映していないのであれば,特にこの情報誌は,発言権の大きそうな方々が読む雑誌なだけに,そのような情報の偏りが生じることは避けるべきと考えるのが書き手の責任です.いつものように辛口ミツバチと進めていきましょう.

記事を読んで,誰もが「へえ,そうだったの」と思うのは,ニホンミツバチが減少の一途をたどっているという表現だろうね.
minilogo.png反証的なデータはあるのにね.でも,そこよりも,ここでは,ニホンミツバチさんのハチミツの市場が小さいことを,減少を見てとった根拠のように書いている点,ここはニホンミツバチさんに成り代わって,大いに憤慨してると伝えたい.

そこ? では,その部分を引用すると,「現在国産のハチミツは国内市場のわずか5%程度とされており,さらにそのうち10%が日本ミツバチの蜜というだけでも,日本ミツバチの希少性はお分かりいただける...」というところだね.国産のハチミツというのは,もちろん大半はセイヨウミツバチを飼っているプロの養蜂家が各地で生産しているもの.それに対してニホンミツバチのものは,現状では,市場の需要を満たすために「生産」されているとは言い難いかも知れないなあ.
minilogo.pngこの記事にもあるように,ニホンミツバチさんは野生だよ.セイヨウミツバチは家畜だから,人間のために頑張ってハチミツを作っている.養蜂家さんは,ミツバチの能力に加えて,持っている技術を駆使してハチミツを生産しているわけだよ.でもニホンミツバチさんのハチミツはニホンミツバチさんの能力だけでできているみたいなものでしょ.野生からの取り分が10%では足りないっていいたい? もっとたくさん採れて,国内市場の半分くらいをニホンミツバチさんから得たいわけ? 確かに江戸時代までは100%それしかなかったよ.でも現在,それを望むことが,人間のいう環境にやさしいということなの?

そこがポイントかあ.確かに野生のままだからこそ希少といえるのに,あえて希少でなくてもいいといいたいようだね.もちろん希少でなくても「ありがたみ」を維持できるならいいけれど,前例を見れば難しそうだ.
でもそこではなくて,やはりニホンミツバチが減少の一途をたどるという点が純粋に誤認だろう.証拠がないわけではない.三重大農学部の故松浦誠先生が2005年の「都市における社会性ハチ類の生態と防除」という論文で,各地で駆除されたミツバチの統計を示している.これを見ると,ニホンミツバチ463例,セイヨウミツバチ31例と圧倒的にニホンミツバチが多い.両種のデータが比較できる横浜市で45:11,津市では152:20と4〜8倍程度の開きがある.人工物への営巣だから,巣のサイズが小さいニホンミツバチの方が場所を見つけやすく,都市部への進出も進むのだろうけれど,こうした駆除件数の多さが物語るのは一方的な減少ではないよね.駆除自体が減少への圧力になっているかというとそうでもない.1985年から2000年にかけての駆除および相談件数は,多くの政令指定都市で右肩上がりに増えている.全国から玉川大学へ寄せられる相談件数も,圧倒的にニホンミツバチが多い.実際,毎春,分蜂がニュースになるけれど,いつもニホンミツバチだし.この状況からも「減少の一途」という表現をどうしたら作り出せるだろう.減少している前提でしか記事のインパクトがないからか,あるいはこうした活動が有意義だといえないのか.でもそれでは優良誤認になってしまうし,せっかくの活動を貶めてしまう.
minilogo.pngそうじゃないよ.よく考えてよ.ニホンミツバチさんは野生の生き物なんだよ(わかってる?).人間の中に飛び込んでいけば駆除されるのはある程度仕方ない(だって人間が共存を望まないんでしょ?).いいたいのは,野生の生き物を市場に組み込むそのセンスが信じがたいってこと.

いいたいことはわかる.でも,共存を目指し,本質的に生態系を保全するのであれば,ある程度は,計画採蜜の対象として人間が利用することにはなるだろう.ただ,その場合,重要なのは,分母が,つまり人間が利用する分が含まれるニホンミツバチ全体がどの程度のスケールになっているかという情報だ.この記事では,減っているニホンミツバチからもっとハチミツを採らなきゃいけないようにも読めちゃうな.だからこそここで紹介している,銀座や対馬の事例が大切という文脈なんだろう.
minilogo.pngだから,それではダメなんだよ.「養蜂」じゃダメなの.ニホンミツバチさんは野生の生き物なんだから,養蜂に組み込んだら弱体化しちゃう.長期に飼える巣箱なんて利用したら,私たちセイヨウミツバチが背負った運命をまたたどることになっちゃうの.たくさん飼うことで,血が濃くなっちゃうし(私たちが一番避けたい状況だよ),遺伝的に似通っちゃえば,家畜と同じで,病気もあっという間に蔓延しちゃう.生物多様性では,サイズ的に把握しにくいからかも知れないけれど,つい軽く扱われがちな遺伝子の多様性こそがとっても大切なの.野生の生き物の強みは,人為的な選抜を経ないから,この多様性を維持できていることなんだから.これはセイヨウミツバチの名誉のためにもぜひともここで言っておきたいけれど,病気に弱いか強いかは,家畜か野生かという問題で,つまりは人間がミツバチに何をしたかということなんだよ.耐病性はミツバチの性質の差じゃないんだ.だから飼って殖やすのでは,ニホンミツバチさんをダメにしちゃうんだよ! そこだけは理解して,共存のために人間が何ができるかを考えないと.

なるほど,それはそうだ.では,個人が飼うというスケールではなく,もっと地域的な取り組みとして,自然状態にいるニホンミツバチの増殖を考えるのが理想的だろうかね.自然状態のニホンミツバチが,グループ間で遺伝子をやりとりしながら殖え,その地域で密度が上がれば,人間の空間にも出てくるから,人間はその分を利用すればいい.
昔は裏の山にニホンミツバチがたくさんいて,だから自分の庭の巣箱に入ってくるものからハチミツをいただけてた.ミツバチの減少を実感できる場所があるとすれば,それはこうした背景にあるミツバチの減少が起きているからだろう.昔と同じことを期待するなら,まずは営巣空間と餌資源を増やすことが不可欠になる.ミツバチは衣服は自前だから,食住の部分がきちんと確保できれば殖えられるだろう.対馬でもスギがあるから蜂洞は作れると書いてあるけれど,それって森の中に営巣空間がないっていってるようなものだよね.それでは,ミツバチを全体的に人間の空間へ引き寄せるだけになっちゃう.伝統的な養蜂のスタイルはそのままだけど,森にいるべきニホンミツバチの本隊が人間の側に出てきてしまって,それで昔と同じように採蜜をしたら,その負担がニホンミツバチ全体にかかってしまうということになる.
しかも針葉樹だけではないんだね.広葉樹林でも,今は密植して徒長させて,まっすぐな材を得られるように育てる.おかげで,森の中では,ミツバチが営巣できるような樹洞が減っている.実はこれ,樹洞営巣性の鳥類でも同じように問題視されていて,だから各地で小鳥のための巣箱の設置が行われている.ミツバチではこれってやったためしがないかもね.
minilogo.pngもちろん,鳥さんは種類がたくさんいるから,巣箱を設置すると樹洞に巣を作る鳥さんだけが殖えちゃうなど問題も指摘されている.その点で鳥さんでの経験は,これからミツバチでの問題を考えるのに活かせそうだね.巣箱の設置でニホンミツバチさんだけが殖えたら,他のハナバチさんが迷惑に思うかも知れない.だからこそ,誰もが利用できる,種類も量もたくさんの花が必要だし,森だけではなく,草原も作って,野生の生き物の住処が確保できるような複相的な景観が必要なんだよ.休耕地は森には転換できないから,かえっていいお花畑にできるかもね.人間は,いきなりミツバチを飼うんじゃなくて,そういう土地の利用の面での改善を考えた活動こそを推進してよ.ミツバチにもわかる科学的な背景を理解しながらじゃないと,結局は人間の自己満足で終わっちゃうよ(もちろんそれでいいと思ってるからこんな状態なんだろうけど).

ミツバチに科学的であれと言われる人間も辛いところだけれど,確かに生き物としての真理はミツバチにはあるのに,人間にはないみたいだね.だからこそ,生き物への関心を高めなければいけないんだろう.実は,先日,日本野鳥の会・静岡で,こうした話をしてきたんだけど,集まった方はあるがままの野鳥の振る舞いを観察するのを是としているからか,その点はよく理解していただけたと思う.それに引き替え,ミツバチの関係者は,どうしてもミツバチを飼いたいと思うようだね.飼う前にできることを考えなきゃ.飼わずに殖やして,殖やして飼う(利用する),そんな流れをもっと広げられたらいいなあ.
minilogo.pngそこでさ,セイヨウミツバチとしてはどういう立ち位置になるのか悩むんだよね.でも美味しいハチミツを作る自信はあるし,ニホンミツバチさんには過酷なハウスの中で,果物作ったり,人間のお手伝いも得意だよ.もちろん,女の子なんだから,そんなに怖がらないで,もうちょっとかわいく見守っては欲しいけど.ニホンミツバチさんよりも刺しやすいから? でも,私たちだって環境がよければ刺さないよ.神様に針をもらったときは,確かに私たちも人間にしょっちゅうハチミツ採られてストレスがたまっていたから,つい浅ましいお願いをして,お怒りを買っちゃったし,命と交換でなければ使えない針をもらう羽目になっちゃった(イソップ物語から).それで,反省したセイヨウミツバチは人間と共存する道を選んだんだ.だから法外な贅沢は言わないでしょ? でも,ニホンミツバチさんは,反省する理由もまだ作ってないんだよ.もともとおとなしいし,おしとやかだし.セイヨウミツバチとはちがうってことを,ちゃんとわかってあげて.


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2010年10月05日

どれだけミツバチがいるのが普通? 現状は危機的?

先般(8月21日),国立市でNPO法人くにたち富士見台人間環境キーステーション主催のまちかど講座「ミツバチがつなぐ夢」での講演の際,8.15平方kmの面積の国立市には,野生の状態ではミツバチが8群しかいられないという話をしました.でも,もっと飼っていますとは参加者の方々.住んでいるのと飼うとは別の話なんですが,ヨーロッパを中心とした研究で,飼われているミツバチの平均的な密度情報が含まれた論文が出ましたのご紹介.

これによればイギリス,フランス,ドイツは1平方km当たり1〜3群,スカンジナビア半島諸国はやはり寒いから1群以下,中央,南,東ヨーロッパになると数はやや増えていきます.これと密接に関係するのは実は年間平均気温.ざっくり見れば10℃で3群,20℃なら8群といった増加傾向.日本の各地の年間平均気温を大雑把に見れば,北海道が10℃,東北が15℃,関東以西が広範囲に20℃,沖縄が25℃といったところ.これに基づけば,国立では60群以上のミツバチを飼育できる計算.

もっともこの研究(ドイツのマーチン・ルター大学のJaffeをはじめ,ヨーロッパからアフリカ各国の研究者16名でデータ収集した大論文,出典は下記参照)のいいたいことはそれじゃありません.最近はこの「問題」を扱う研究も増えている,そんな事情を辛口ミツバチと見ていきましょう.
Jaffe et al. 2010. Estimating the density of honeybee colonies across their natural range to fill the gap in pollinator decline censuses. Conservation Biology 24: 583-593.


minilogo.pngそれにしてもヨーロッパからアフリカまで,すいぶん大規模な調査研究だね.ミツバチの密度はどうやって求めたのかな? 歩いて数えた?
さすがに16人の研究者では無理なので,25か所のサンプリング地で,半径2.5〜3kmの円内にどれだけミツバチが飼われているか,養蜂家にしらみつぶしに探してもらっている.今ごろはgoogle mapなんて便利なものがあるから,養蜂場があったらそれに記録してもらったらしい.公式な統計には含まれていない,無届けで飼われているものとか,趣味養蜂家のミツバチなんかも含めることができたそうだ.

minilogo.pngでも,それだけじゃ密度を計算できないよね?
もちろん.ひとつは交尾のための雄蜂の集合場所で雄を捕まえた.ひとつの集合場所にどのくらいの巣から雄が来ているかは,遺伝子を調べればわかる.近辺の巣箱から働き蜂も捕ってきてこれも遺伝子を調べた.これによって女王蜂がどんな雄蜂と交尾しているかがわかるから.あとは,そうして推定した,ひとつの交尾場所に飛来した雄蜂の数の中央値を,雄蜂の交尾可能な面積としての推定値である2.5平方km,あるいは女王蜂のそれとしての4.5平方kmで除算して求めている.

minilogo.pngわかったようなわかんないような.で,計算したらそれが気温と密接な関係にあったということと?
先に書いたとおりだけれど,年間の平均気温が高くなるにつれて密度の上昇が見られた.高密度なところは,遺伝的な多様度も高かった(飼われているミツバチだけど,いろいろな血筋のものが混じっていた).

minilogo.png気温だけが関係していて降水量は関係していないという結論だけど,雨が降れば餌を集めるのは不都合だよ
雨が問題になると思われるのは,雨季乾季のはっきりしたアフリカなど.でも,それよりは越冬がうまくいくかどうかにかかわる温度の方が生き残りには大きく響くので,より明確に蜂群密度に関係したということだろう.もっとも,熱帯では多少の降雨では負けずに採餌している印象もあるけどね.雨降りでも気温が高かったり,スコールのように短時間の降雨が多いせいかな.

minilogo.pngアイルランドとイタリアでは野生のセイヨウミツバチが見つかっているね.
飼われているものよりも蜂群密度も遺伝的多様度もやはり高かったそうだ.野生のミツバチの話は,ちょっと前にニホンミツバチの話としてしたよね.

minilogo.pngで,ここからが問題の部分だよね? この研究のいいたいところというべき? これまでにやられてきた野生のハナバチさんの減少状況の推定だけではヨーロッパの花粉交配の危機を訴えきれない.だから,セイヨウミツバチ,それも人間が飼っている方の事情を加えて,現状を洗いざらい見せようとしたというところかな.
よくつかんでるね.Jaffeたちは,ミツバチの蜂群密度や遺伝的多様度と各地の土地利用状況との関係を見ようとしたんだ.蜂群密度も遺伝的多様度も,自然の残っている未開発地では,農地に較べて高かった.ちなみに蜂群密度は未開発地では1平方km当たり11.88群で,対する農地では7.46群だった.ただヨーロッパだけに限ってみるとこの差はそんなにはっきりしない.ヨーロッパ全体では,公式統計から推定した蜂群密度とも差はなかったそうで,趣味養蜂家の寄与率は低いということでもあるのかな.

minilogo.pngヨーロッパでは土地の開発が盛んで,農業開発や森林減少が,ハナバチさんの生息場所を減らしたり,遺伝的多様度を低下させてしまうというのが問題なんだよね.
だいぶ勉強したね.でもヨーロッパだけじゃない.アメリカでは開発が進んだことで,野生のハナバチに期待される花粉交配への貢献度が,これまでの1/3〜1/6程度になったと見積もっている研究者もいる.その分,人間が飼うミツバチに期待しなければならないという状況にまですでに陥っているということだろう.で,そのミツバチの状況はと思って調べたら,というのがこの論文のストーリーだね.

minilogo.pngこれ自体,驚きなんだけど,ヨーロッパ全体としての蜂群密度が,カラハリ砂漠やサハラ砂漠近辺の乾燥地帯と同程度に低いという結果はどう考えればいいの? 寒い北欧は別にして,中央ヨーロッパでさえかなり低い密度だよね.ミツバチが希薄な感じ.
公式統計からの推測値との差がないことから,この研究で見てきたミツバチは基本的に飼われているミツバチの実像を表しているといっている.希薄といってもそれが人間が飼うことのできる精一杯の数なんだろう.で,ミツバチからすればそれがそこにいられる精一杯の数で,野生のものにはほとんど余地が残されていない.そのことは今後も開発が進めば,あるいは病気が流行すれば,ますます野生のミツバチは失われ,人間が飼っているミツバチだけが生き延びている状態になる.つまり「養蜂」なしにはヨーロッパのミツバチは絶滅する可能性まであるということだ.すでに砂漠地帯と同程度の蜂群密度ということは,その養蜂でさえが,ぎりぎりの状況で,本来の密度までミツバチを増やせないということだしね.

minilogo.pngでも,農業現場では,花粉交配用のミツバチをもっと必要としている印でしょう? もっとミツバチを増やさなければ,実もならないし,種子も採れなくなっちゃう.
ハナバチの減少に加えてミツバチが減っていることは,ヨーロッパの農地や,こちらも忘れちゃならないが,野生の植物を主体とする生態系全体での花粉交配に深刻な影響を与えかねない段階にある.Jaffeたちは,養蜂を,単にハチミツを生産するビジネスとしてだけではなく,生物多様性を維持するためにも不可欠な要素として理解しなければならないと結んでいる.そのためには,養蜂自体が成り立つ,なおかつ交配用ミツバチの生産も維持できる環境を作らなければならないわけだ.ただね,それは,ミツバチによって花粉交配の恩恵を受ける野生植物や,農地の作物が充分にあるということでもあって,だから花を増やしてミツバチを増やそうというのは,すごく特別なことではないはずなんだけどね.

minilogo.png農地として開発されたけれど,遊休地になっているところを,元に戻して,お花畑にしてくれればいい.ハナバチさんも増えられるだろうし,もちろん私たちミツバチも.結局,そうなれば今度は周囲の農地の花粉交配には私たちが協力できるってことだし.そして,そのことが,結局は人間も含めた生物多様性の維持になるってことだよね.
ヨーロッパでは,こうした方向での研究がここ10年くらいに盛んになってきた.あるべき状況を目指して,現状を推定,比較することで,ちゃんと訴える方向を見誤っていない.養蜂においても,できるだけ各地域に適応している在来のミツバチを利用することを推奨して,それによって病気の持ち込みも防ごうとか,ミツバチ自体の体力強化も含めて,全体的に守ろうという方向を打ち出している.世の中の流れに沿って研究を進めている点もうらやましいけど,こうした研究者ネットワークがちゃんと機能していることもうらやましいな.

minilogo.pngミツバチの立場では,目指しているものはぶれたことはないし,あるべき方向は自助的にも作っている.それなのに追いつかないのは,この環境を一緒に利用している人間のせいだと思うよ.うらやましがってないで,パートナーとしてはもうちょっと頑張って下さい!



posted by みつばち at 16:25| Comment(1) | TrackBack(0) | ミツバチの気持ち by Junbee | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月25日

「?」なハチミツの宣伝文句−価値の創造からは逆行?

ネットショッピングがテレビや新聞の通販を超えたという調査結果が報道されました.確かにインターネット経由のショッピングは急成長.ミツバチ関係ではハチミツをはじめローヤルゼリーやプロポリスなどの健康食品がよく登場します.ハチミツもこれまでにない多品目が多数のネット店舗から販売されていますが,ときどき,この表現はどうかなと思う宣伝文句も.自社製品の優位性を謳うために,あえて他社製品や業界全体を敵に回しているような広告も目につきます.一般の方からも,普通に売られているハチミツは品質に問題があるのですかと問い合わせが入る始末.選択肢を較べられて便利なネットショッピングは,その善し悪しを自分で見分けられるのでないとかえって危険だと批判したくなりますが,まあ,全体的なことはさておき,ハチミツに関してはもうちょっと情報が適正であるべきでは.ハチミツの作り手でもある辛口ミツバチの意見も聞きながら,優良誤認,あるいは不良誤認を解いていきましょう.

minilogo.pngそれにしても勝手なことを書いているんだねえ.手柄のように書いているけど,そもそもミツバチが作っているってことは理解できているのかなあ.これだけの完成度なんだから,それ以上の何もしなければ一番いいに決まっているのに.
人間とミツバチで見方も違うかも知れないけれど,基本はその通りだね.では順番に見ていこう.

「○○のハチミツは非加熱,無加水,無ろ過,無添加」
これは多いね.こう書くことで,逆説的に一般的なハチミツはいろいろな処理がしてあるので自然ではない.我が社のはだから優良といいたいんだろうけれど,そのことがどんな意味を持っているのかは考えていないかもな.香りを楽しんで欲しいから,瓶詰工程でもできるだけ加温しないようにするというならわかるけれど,ともかく何もしないことが一番だみたいな,無目的さ.一応,説明しておくと,不純物を取り除く濾過工程や瓶詰めの際,粘性の高いハチミツは扱いにくいので,ある程度の加熱が必要なことはある.夏場の作業場の温度なら不要でも,空調が整備された工場のようなところでは,品温を40℃程度までは上げていると思うし,かつては殺菌(酵母殺菌)のために短時間の加熱工程が普通だった時代もある.現在でも,店頭に長期間陳列されるなら発酵防止のために加熱処理があった方がいいものもあるかも知れない.これは食品の衛生上の観点からは,原料によって見極めるべきものであって,手を加えないことを前提にしてしまうのは問題だろう.加水して流動性を上げてさまざまな処置をして,最終的に水分を低温の真空釜で除去するという方法もある.ボツリヌス菌の除去などをねらえばこの工程は不可欠.このあたりは消費者が何を選択したいかという問題.
minilogo.pngミツバチだって,巣温で加熱(とはいえ35℃が上限),蜜胃で濾過(だから大きな花粉は入りにくいといわれている),酵素の添加はしている.水は抜く一方だけど.ミツバチは花の蜜を加工しているんだから,その程度のことは許して欲しいな.

「無ろ過なので,プロポリスや花粉,蜂ろう,ローヤルゼリーも含まれています」
minilogo.pngローヤルゼリーも入っちゃうの? それって幼虫さんなんじゃあ...?
勇み足っぽいね.巣蜜(コームハネー)の販売業者も,巣ごとだからプロポリスも入っていると書くことがあるけれど,巣蜜を普通に作るときには,新しく巣を作らせるので,プロポリスが混入する可能性は低い.無ろ過の場合にいろいろ入っちゃうというのは,採蜜の方法に問題があるという言い方もできるけれど,逆に言えば,以降の工程で混入する可能性のある他のゴミにも目をつぶってといっているようで,どうかなあ.

「(当店,当社の)ハチミツが結晶するのは,余計な手を加えず自然のままお届けしている本物の証」
minilogo.pngこれもよくある.そもそもミツバチがハチミツを保存する環境と人間が家の中に置くのでは温度も違う.結晶性は蜜源によっても違うよ.余計な手を加えないっていうけど,だから自然というのもおかしいよね.ミツバチの巣から取り出した時点で,そんなの自然なことじゃないし.
いいたいことはわかるけれど,でも,結晶しにくいハチミツだったらどうかな.この表現に慣れていると,結晶しないのは手が入っている証拠,あるいは偽物だと思う人も出ちゃうだろう.でもニセアカシアのハチミツのように本質的に結晶しにくいものもある.自社製品にも両方あり得るだろうに,これは誤爆っぽいなあ.そもそもハチミツの性質,つまりは蜜源や採蜜方法次第の観点ではあるので,こうした一方的な表現はやめた方がいい.「結晶することもあります」くらいの表現で,なぜ止められない.

「一切手が加えられていない」
minilogo.pngこれもよく見るね.もう言い尽くした感じ.
「瓶詰め」も一応加工に相当するので,この表現はおかしいけどね.ここまでのは,加工していないことを前面に出している表現.自然なもの,採れたてのものを届けたいという気持ちの表れだと思うから,そのこと自体は責めないけれど,「自然=よいもの」というのは短絡的すぎる.手が加えられていないことがありがたいことかどうかだなあ.養蜂家レベルでの手のかけ方と同じだけ,採蜜から瓶詰めまで手も気もかけて欲しいよね.「一切」なんて強い言葉は,ゴミを取り除く程度の手のかけ方まで省かれている感じがしてしまうなあ.もちろん,手は最低限,気は最大限に使っているというのが望ましい.
一連の表現は,自然に近いものがよいものという,一種の強迫観念の産物だと思う.でも,自分でよいものを見分けられない人にとって,ブレンドはありがたいだろうし,そうした平均像の中から自分の好みを見いだすこともできる.人為的加工は,そこにどのような気持ちが働いたかが大切なのであって,加工行為そのものがいつも悪いわけではないことも知っておきたい.その上で,何を選択するかを決めればいいことだもの.

「ほかのハチミツに比べて栄養価が高い」
この種の優良誤認,あるいは相対的な地位獲得は多いねえ.高原地帯で採蜜したのでミネラルが多いという表現まであった(どんな根拠だろう).ハチミツの栄養価は,なんといってもその糖質.でもこの部分はハチミツ間ではそんなに大きな差がない.もちろんオリゴ糖の多いものなどもあり,その観点はもう少々研究がなされてもよいけれど,現状ではその知見に基づいて優良性を謳っているものはない.そういう意味で,若干ミネラルの含有量が多いものとかはあるけれど,食生活の中でのハチミツの位置づけから考えれば,基本的には有意な差ではないんじゃないかなあ.
minilogo.pngハチミツは,ミツバチにとっては重要なエネルー源で,他の栄養は基本的に花粉から摂るから,栄養価の高い低いはミツバチの立場では意識してないよ.

「加熱処理によって栄養が失われる」
minilogo.png失われるような栄養はないけれどね.酵素はものによってはダメになる(失活する)んだろうけど,それって食べる人間にとっては何か問題なの?
ビタミンやミネラルと併記していることもあるけれど,どっちも少ないし,ミネラルは加熱程度では分解はしないし.ハチミツを傷薬や,食品の保存,臭い消しなど,ハチミツの酵素活性をひとつの特性としてとらえる利用の場合には,ブドウ糖からグルコン酸と過酸化水素を生成するグルコースオキシダーゼという酵素が,完全に失活するような加熱工程はない方がいい.もちろん臭み消しならグルコン酸がすでに充分含まれていればいいし,保存性という点も,高浸透圧状態を維持できるなら,それほど大きな問題にはならないね.甘味料としてであれば,短時間の加熱はそれほど重要な問題ではない.

「ビタミン,ミネラル豊富なハチミツ」
minilogo.pngこれは本当によく見るよね.ミツバチ的には充分な量かなあ? 足りないから花粉やミルクが必要なのに.人間はハチミツだけで充分なの?
これについては表で説明しておこうかな.
honey-nutr-fact.png
この表はハチミツ中に比較的よく含まれているものについて,成人が一日に必要とする量と,その10%をハチミツに頼ろうとした場合の最低摂取量を示したもの.例えばよく宣伝文句にある鉄分は,一日に11mg摂取することが推奨されている.その10%の1mgをハチミツから摂取しようと思えば,例えば1kgあたり30mgほどの鉄分を含むような濃色系のハチミツ,例えばソバのハチミツを食べるとしても,33gは食べなきゃならない.色のうすいハチミツだったらその10倍以上が必要.同じように,ビタミンB2だったら,2.5kg食べなきゃ有効な量を摂取できたとはいえない.どんなに甘いものが好きでも,毎日こんなに食べたら病気になっちゃう.でも,ブタのレバーなら,100gで鉄分もビタミンB2も一日量を完全に摂取できちゃうし,それに必要な100gくらい,一日,あるいは一食でさえ食べ切れる.
そもそも,少量ずつ必要な特定の栄養素をある食品にだけ頼ろうというのは偏食のもとだし,ハチミツを糖質以外のサプリメントと考えるのは荒唐無稽.こうした宣伝文句は,日本人の食習慣を乱すもとだから,早くやめて欲しい.いろいろなものをバランスよく食べる中でハチミツをどう組み込んでいけばいいかをうまく伝えて欲しいねえ.

「ハチミツのカロリーは砂糖などに比べると低カロリー」
minilogo.pngそうなの?ミツバチにとっての重要なエネルギー源が砂糖に負けちゃうの?
これもどうかなあ.砂糖は水分が少ないし,ハチミツは20%が水分で,他にも数%の有機酸などが含まれる.等量の甘味料として考えれば,純粋に糖質分のカロリー量はハチミツの方が少なくとも2割は少ない計算になる.でも,そもそも,ハチミツを10g食べるとして,単純計算ならそのカロリーは30kcal(=10g×4kcal/g×0.75)程度.一日の摂取カロリーが日本人でも2000kcal近い中で,それを砂糖に置き換えた(40kcal)としても,増加分は10kcal(0.5%)でしかない.微々たる差だけど「ちりも積もれば山になる」の発想で,砂糖ではなくハチミツを食べようというのであれば,業界的には歓迎ってことかもね.同様にダイエットによいという記述もよく見るねえ.また果糖の甘味が強いので,砂糖の利用を制限されている糖尿病の方が甘味として利用する上で利便性があるといわれたりもしてる.確かに糖質食品中では比較的低GI(低血糖負荷)食品ではあるんだけど,使い方次第だからなあ.何につけ食べものに気を遣う人であれば,ダイエットをそもそも考える羽目には陥りにくいんじゃないかな.

「○○○ハニーは,野生の花から採取した蜜」
minilogo.png野生でなくてもいいんだけどね,ミツバチは.花壇でも,畑でも,公園でも,花が植えてあれば利用するよ.
野生の花だけから採蜜できる土地があるならこの表現でもいいかも知れないけれど,それはそれでどうかなあ.これも,より自然なんだといいたいんだろう.これがオーストラリアやニュージーランド,南北アメリカだったら,そんな場所に外来種であるセイヨウミツバチを連れて行くこと自体が,批判に晒されちゃう.自然であることを考えるという立場を表明しながら,実はそういうことまで思い至らないということが露見しちゃっている.

機能性に関しては,薬事法違反と解釈できる表現も多いし,売らんかなでルール無視は問題だね.本当にいいものだと思っているのに,その価値が相対的な価値でしか表現できないのもどうかなあ.
こういうことを言われると売り文句がなくなるという向きもあると思うけれど,それはそれで研究が尽くされていないことでもあると思う.ニュージーランドのマヌカハチミツのような特殊な素材が出て,はじめてヨーロッパ産のハチミツでも特異的抗菌性のあるものが見つかったりしている.日本産のハチミツはどうだろう? 試験自体は簡単なのに誰もやってないよね.そうした商品開発も行われていないのが実情だ.「せっかくミツバチが作っているものだから,美味しくいただこう」でも充分だけれど,もっと広がりがあるんじゃないのかなあ.
minilogo.pngミツバチ的にはこれ以上働かされるのはどうかと思うけれど,新しい方向でハチミツが見直されるなら,ミツバチ自身の地位向上にもつながるんだよね,きっと.売り文句にしたいことに根拠をつけていけば,新知見も出てくるかも.日本でもハチミツを医療で利用することも多くなっているし,多分野で新しい価値を創造して下さい.ミツバチの大切さがさらに理解され,ハチミツを生産する環境が再整備される日が来るなら,ミツバチ的には歓迎です.頑張ってハチミツを作らせてもらまいます.

minilogo.pngあと最後に,ミツバチや蜂の巣のイラストの不正確さも問題だよね.ミツバチを美人に書きたいかどうかは趣味の問題として不問に付すけど,どう見たってアシナガバチさんの巣にしか見えないところからハチミツ採っているようなのまである.花に来ているのがミツバチと思ったら,ハナアブさんだったりする.アシナガバチさんやハナアブさんが集めたハチミツ売っている会社やお店からはハチミツを買わないで下さい.ミツバチとして品質に責任もてませんから.


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2010年09月16日

ニホンミツバチは本当に病気に強い? 生物多様性の観点から

市長と市議会のバトルは盛り上がっているけれど,その名古屋で開かれる生物多様性国際会議は盛り上がりに欠けてますね.でも,こういう機会に勉強しようと,関係の本を読みあさっています.総合地球環境学研究所の副所長を務める佐藤洋一郎先生の「コシヒカリより美味い米−お米と生物多様性」(朝日新書)は,生物多様性という問題を,お米という身近な題材を例にとって,とてもわかりやすく解説しながら書いています.一読お勧めです.読んでいて,ミツバチにもやはりこの観点が必要だと思ったことがありました.もちろん科学的検証もまだない思いつきですが,一般に,ニホンミツバチは病気に強く,セイヨウミツバチは弱いといわれていることに,ある理解が必要ではないかと思えてきました.つまり,これもまさに生物多様性の話だったのでは,と.辛口ミツバチと一緒に考えてみます.

生物多様性には3つの段階があって,大きな方から,生態系,種,遺伝子の多様性というのがある.このブログで扱う蜜源・花粉源などの重要性は,種多様性の問題でもあったんだけど,セイヨウミツバチという種に関する問題は当然,遺伝子の多様性の問題として扱われることになる.
minilogo.pngそれが病気に対する弱さとどう関係しているの? 野生と家畜の差だという理解でいたんでしょ?

そうそう,野生と家畜の差なんだけどね,それ自体が生物多様性の大きな概念の中で重要だったということ.つまり,家畜は,遺伝的多様性が乏しい集団で,野生生物は遺伝子の多様性の観点からは豊かだということだ.
minilogo.pngだから,それと病気とどんな関係なの?

セイヨウミツバチは日本では導入種だし,性質的によいものをわざわざ選んで入れているから,当然,遺伝的多様度は小さい.集団飼育するから,交尾の相手も似通った遺伝的背景を持っている.本来,ミツバチは多回交尾によって,コロニー内の遺伝的多様度を上げることで環境への高い適応性を発揮している生物なのに,交尾可能な集団内の遺伝子の多様性が乏しいなら,その機能は働かない.
minilogo.png結局,遺伝的多様度がある集団中で小さいということは,使い回せる遺伝子にいろいろなタイプがないということか.でも,そういうふうに選抜されて,セイヨウミツバチにだっていろいろな品種ができてきたんだから.あるいい性質を固定するためには必要なことだったんだよね,きっと.で,それと病気は?

その状態で,もし,ミツバチに影響のある病気が発生したら,ある集団のセイヨウミツバチは,ほとんどが影響を受けることになる.遺伝的に抵抗性のミツバチが出現する可能性は低いからね.
minilogo.pngまだまだ野生で,遺伝的多様度が高いニホンミツバチさんなら,影響を受けるコロニーがあっても,同じ集団の中で影響を受けないコロニーもあるってこと?

まさに.東南アジアでかつて猛威をふるったタイサックブルードというトウヨウミツバチの病気は,その病気の流行ゆえにタイサックブルードに抵抗性のあるトウヨウミツバチを作り上げたともいわれている.それが,野生の強さだろう.たくさんの遺伝子を持っているから,弱いものも強いものもいる.病気が来るまでは,その強弱は,生存には関係ないけど,一度病気が来たら,片方には淘汰が起こる.
minilogo.pngその点,セイヨウミツバチはかなり遺伝的に固定されてきたし,日本へはいくつかのルートで入ってきているとはいえ,似通ったものが入ってくるだけで,遺伝子の多様度は上昇しないということなんだね.

佐藤先生の本の中に,過去100年間に愛知県で作付けされた水稲の品種数の変化を示したグラフがある.1965年をピークに,以前も現在も品種数は少ない.品種は種とは違うけれど,水田生態系におけるある意味での種多様度と考えると,昔と今ではどちらも低かったということになる.ところが,昔の品種というとらえ方と現在のそれは違っていて,以前は,それぞれの品種から性質の異なるものを抽出して新品種を作っていたくらいだから,そもそもばらつきが許容されていたけれど,現在の品種の概念では,品種とは性質として斉一なものになっている.つまり,かつては,種多様度の低さは,種内の遺伝子の多様度で補えていたけれど,現在は,種多様度も,その中の遺伝子の多様度も低下してしまっている.それは,広域に見た水田を一つの生態系と見なしたときには,やはり脆弱な状態に見えるだろう.日本におけるセイヨウミツバチはまさにこの状態に近いんじゃないかな.
minilogo.pngニホンミツバチさんは,その点で,まだまだ遺伝子の多様度が高いということなんだろうね.でも最近は,ニホンミツバチさんにも原因不明の病気が流行っていたりするんでしょう?

蜂児を捨てるというやつだろう.そのまま蜂群が崩壊したという事例もあれば,先般訪問した富士見高校の養蜂部の調査では,給餌などの処置で,蜂児を捨てる行動が収まった事例もあったようだ.まだ原因がわかったわけではないし,病気かどうかも判断はできないけれど,かつての東南アジアでのタイサックブルードの流行のように,こうした異常現象の流行後には,例えばこれが病気だったら,病原に対して抵抗性のものが分布を拡大するのかも知れないな.
minilogo.pngそういう場面で,それこそCCDだって遺伝的多様度の低さが問題なのかも知れないけれど,セイヨウミツバチとすればどうしたらいい? やっぱりニホンミツバチさんの方がセイヨウミツバチより優れているという一般的な理解の方が正しいの?

遺伝子の多様度を確保できている集団として存在できているということが,優れている状態にあるという意味であって,個々のミツバチの種や,それぞれのコロニーに優劣があるということではないと思うよ.もっと飼いやすい,あるいは生産性の高い,ニホンミツバチを選抜して系統や品種を固定していくという試みをするなら,今現在セイヨウミツバチがかかえる問題を,そのままニホンミツバチも背負うということだから.逆に言えば,今アメリカなんかではセイヨウミツバチの優良系統として,ミツバチヘギイタダニに抵抗性のあるものを作出している.その遺伝的性質はロシア産のミツバチで見つかったもので,何段階かの掛け合わせで,ある程度効果のあるものができているようには聞こえていたね.つまり,セイヨウミツバチもまだ,この地球上には,優良な遺伝子を持っているということなんじゃないかな.
minilogo.pngセイヨウミツバチにとっては,少し希望が持てる話だけれど,ということはニホンミツバチの飼育を,もっと家畜化した形に移行して,飼いにくいものを排除したりしていくと,セイヨウミツバチと同じ運命が待っているということかな.

実際には,野生状態のニホンミツバチがいるので,交尾のたびにいろいろな遺伝子が戻ることになるだろう.それは飼育向きの系統を作出するという観点からは不都合なことだけど,ニホンミツバチという生物にとっては有利な,あって然るべき状況といえるだろうね.その状況を守るためにも,飼育されているミツバチと野生のものの生息環境が分断されてしまわないように,同じ土地を利用する人間が,多少なりとも土地の開発などに関して考える必要はあるだろうね.みつばち百花の趣旨に賛同して,あるいは独自に,ミツバチやハナバチの環境として花を育てることには,ミツバチの栄養的なサポートという意味づけもあるけれど,こうした遺伝子の交流を維持・促進するという効果もありそうだ.花を植えるときに,種類が少ないから種多様性としての生物多様性には貢献できないとしても,そのことがいろいろな生物の遺伝子の多様度の維持には役立っていると思えたらいいのかも知れないね.
minilogo.pngその点で,ニホンミツバチさんの遺伝子は国内にあるものだけってことになるから,大切にしなければならないね.採蜜技術を優先する飼い方だと,そうした巣箱や技術,あるいは人間との関係に適性のある特定の系統ばかりが増えることになってしまうかも.採蜜を目的としない,地域のニホンミツバチさんの遺伝子の多様度を維持するための巣箱設置なんていうのも,実際には意味が出てくるんだね.いろいろな性質を持ったニホンミツバチさんが同じように住みやすい巣箱があればいいのかな.それにしても生物多様性って大切だったんだ.ちゃんと勉強しておかなきゃ.名古屋も,ぜひ頑張って下さい!


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2010年09月03日

ミツバチ大量失踪の原因究明へ〜メディアの先導? 先行?

ネオニコチノイド系の農薬がミツバチの大量失踪の原因であることを明らかにするための研究調査が始まるという記事が掲載されました.
神戸新聞8月28日8:00
神戸新聞8月28日10:24
原因を究明するという科学者の使命感には共感できるのですが,報道された研究計画だけでは原因の究明も厳しいし,何より何かの解決につながらないのではとの疑問がよぎります.
農薬の専門家もミツバチへのリスクを下げる方向に進みませんと指摘しています.暑さで短絡気味の辛口ミツバチは,これで鬼の首でも取ったような調子だけど,そうじゃないんじゃないかな.一緒に考えていきましょう.

minilogo.pngなるほど,やっぱり農薬が原因なんだね.だから農薬の影響を調べればそれで原因究明だと.もうすぐ結論が出そうだね?
農薬の影響がないとは誰も言っていないわけで,でもミツバチの変調のすべてが農薬を原因としてとらえられるかどうかは,農薬に影響があることだけを見てもわからないよ.性急な結論は,何か大きな情報を見落としてしまうかも知れないから慎重であって欲しいね.

minilogo.pngこの研究を推進する大谷先生は,前にも紹介したけれど,有名な先生だよ.そんな先生が真剣に取り組もうということで,結果も出ないうちにメディアに記事が出るんだから,もう農薬原因説の見込みはあってのことなんじゃないかな.
もちろん大谷先生はミツバチの行動に関しては第一人者だから,その点での研究精度は疑いようがない.だから,見込みで報道する側に問題があると思う.この記事からは,農薬が原因である証拠をつかんでやる,というような方向で研究が進むように受け取れる.でも,そういう方向の研究って,実験データの解釈にもついついバイアスがかかるんだよね(自分を基準に考えるのは失礼だけど).それとだれも農薬によるミツバチの被害がないとはいっていないし,実際に中毒事故による大量死は報告されている.数は信じられないくらいに少ないけれど農水省も把握はしている.

minilogo.png大谷先生はバイアスはかからないと思うな.日本で一番ミツバチを長く見ている研究者なんだから.
それと研究態度は関係はないかも知れないけれどね.まあ,このブログの目的はメディア批判だから,記事に書かれている内容を取り上げていこう(大谷先生お気を悪くなさらないで下さい).
この研究では農薬をミツバチの体表に塗って影響を見るそうだ.これは,農薬登録時に行われる,有用生物への影響試験と根本的には変わらない.ある投与量でミツバチが死に,ある量では死なない.間を取って(という表現は正確ではないけれど),ミツバチが50%死ぬ量を半致死量と呼んで,農薬の毒性の評価値として利用している.でも,この試験では,それを行動観察で追跡することで,致死に至らないまでも,行動が異常になるなどの影響が出るかどうかを見ようとするものだろうね.海外でも,行動への影響を登録ための試験に加えた方がいいという研究者も出ているから,その点では妥当な試験系ではある.

minilogo.pngそれなのに何が問題なのかな? 行動に異常が見られれば,やっぱり農薬が危険だとわかるはずでは?
問題は,ここでは体表に農薬を塗るという部分かな.登録試験は国際的な指針に則って行うものだし,毒性の評価値を出すだけなので,すべての農薬に関して同等の試験が行われることが原則だろう.でも,野外での影響を見るのに,アセトンで溶解した農薬を経皮処理するのは,実際の薬剤動態のシミュレーションにはならない.それに,ミツバチの変調が農薬のせいだとして,それが経皮的影響(つまりは散布中の薬剤暴露)だというのは現状での推論であって,やはり薬剤がミツバチにどう届いているのかの検討が先にないとまずいかも.これ以外の実験ももちろん行うんだろうけれど,ここだけ書かれちゃうと,まるで経皮毒性試験だけでミツバチの変調のすべてが説明されそうな雰囲気だ.

minilogo.pngでも,とりあえず農薬の影響を見るのには手っ取り早いよね.影響がわかれば,農薬の危険性は訴えられるし.
だから,何度も言うようだけれど,農薬(殺虫剤)はミツバチにとっては危険なものだし,投与量的に致死に至らないまでも影響は受けるだろうよ.ただ,だから,農薬の毒性自体を調べても,それは何かの解決にはならないし,反農薬を訴える人たちに都合のよいデータを提供するようなものでしかない.こうした記事を書く記者の方も,多分に反農薬的な立場を取っているから,あえてそういう書き方なのかも知れないけれどね.そもそも農薬が殺虫活性を持っていること自体が問題だというなら,殺虫剤なんて存在できない.

minilogo.png農薬が危険なことはわかっているし,ミツバチとしてはどうすれば被害を受けなくて済むかがやっぱり関心事.どんな研究がなされれば,今のミツバチの変調の原因がわかったり,対策につなげられるのかな.
農薬は危険なものには違いない.でも実際の農薬被害は使われ方次第だろう.つまり農薬が危険なのではなく,農薬使用にリスクがあるという視点がまずは必要だろうね.もし,ミツバチの変調の原因を調べたいのなら,「農薬は行動に影響を与える」ではなく,「農作物に散布された農薬が,どのようにミツバチに届けば行動や群れの動態に影響が出やすいか」を検証するという方向性になるだろう.本来,ミツバチに向かって散布されたものではない農薬が,ミツバチに対して何らかの影響をもつことが問題であって,その理解がないと農薬被害の防止対策にはつながらない.

minilogo.pngでも,農薬が本当に危険なら,危険だというデータを集めて,発売禁止,使用禁止にしちゃえば,被害はまったくなくなるのでは.
だから,農薬は,ミツバチに向かって使用されているのではない点を忘れちゃ困るよ.本来,防除すべきターゲットがあるから使われている.だから,ミツバチへの影響だけで発売禁止にはできない.ミツバチよりもイネの斑点米の方が大きな問題だとしたら,これからも農薬は使われ続ける.ミツバチには影響の小さい新しい農薬が開発されるまで,農薬散布によるミツバチの被害はある確率で発生することになるだろう.できることは,被害を軽減するためにできうる限りの対策を講じた上で,農薬使用による作物栽培上のメリットと同時に生じるミツバチのダメージを比較評価して,薬剤の選択や散布の方法などを見直すということくらいだ.もちろんそのことにも一定の意味はあるから,そのためのデータの収集や努力は払われるべきだとは思う.

minilogo.pngでは,どうすればよいのかな? ミツバチの立場からはそんなに悠長には構えていられないよ.
急ぐことと焦ることは違うと思う.急ぐべきだけど焦って物事を見失っては元も子もない.肝心なことは,まずは起きている現象の切り分けと,それぞれについての原因の究明ということになると思う.農薬が原因で蜂が弱っているのか,弱っている蜂に農薬がとどめを刺しているのか,それも地域によって異なるだろう.「失踪」の原因究明ということであれば,まずはその「失踪」現象がどの程度再現可能で,経過を説明できる現象なのかを知る必要もあるだろう.野外で再三起こることで,見かけがほぼ均一であれば,実験的にその現象を再現することもできるかも知れない.でも,現実には,ここまで多数の研究がされてきたアメリカの蜂群崩壊症候群(CCD)でさえ,現象の再現には至っていない.つまり,あまりに多くの要因によるものを一括りにしようとしているからだ.日本でもCCDが発生しているという人もいるけれど,肝心の現象が定義できないのにそれは無理な話だし,便宜的にCCDと呼ぶものには,原因の異なるものが含まれていることは自明のこととして扱われている.その点も誤解が多い.
話がそれたけれど,農薬が原因ということで探求するなら,まずは到達メカニズムを解明する必要がある.農薬がミツバチを殺すことをいくら証明して見せても,それ自体は自明のことであって,ミツバチの失踪や大量死の原因としての評価にはならない.例えば車にはねられてけがをしたという場合,車のような大きな金属塊に生身の人間がはねられたらけがをすることは誰でも予測が付くけれど,なんで車にはねられる羽目になったのか,今知りたい原因はこっちだろう.

minilogo.pngつまり,この研究では,例えば車自体の危険性を評価するだけにとどまるということ?
報道された範囲ではそうだろうね.もちろん,大谷先生は最終的には原因の解明を目指しているのだから,到達メカニズムも勘案していると思うよ.そのあたりは記者の方がよく理解できなくて記事に盛り込めなかった可能性もある.仮に到達メカニズムまでは考えてなかったとしても,行動学的な影響を調べることには一定の意味があると思う.ここでいわれる「失踪」という現象に結びつくヒントが得られるだろうから.とはいえ,被害防止対策という観点では,すでに起きている大量のミツバチの中毒死を含めて,農薬との接点をいかに断つべきか,断つべき接点とは具体的にどんなものかを明らかにすることが急がれているんじゃないかな.

minilogo.pngその急がれている研究は誰がやってくれるの?
確かにそこが問題といえば問題だよね.研究情報の集結という形が取れるか,もっとこの問題を真剣に取り扱う研究グループができるか,いずれにしても個人の研究者の範疇ではないような気はする.これまでにわかっていること,これから得なきゃいけない情報は何か,知恵を出し合うチャンスがあるとよいけどね.

minilogo.pngミツバチに滅んで欲しくないなら早めに手を打って下さい!


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2010年08月08日

午前中は頭脳明晰なミツバチ!

ドイツのコンスタンツ大学の研究者が,ミツバチの学習能力は,午後よりも午前中の方が高いことを発見しました(原文はこちら).体内時計を持つ生き物として,いろいろな行動で日周リズム(その行動のピークが決まった時間に見られる)があることは知られていましたが,学習能力にもリズムがあるということです.多数の花が午前中に花蜜を分泌したり花粉を生産するので,それらの中から自分が行く花の匂いを嗅ぎ分けることには意味があるわけです.午後はそれに較べて少ない花しかないので,その能力を発揮しなくてもいいということでしょう.では当事者の辛口ミツバチにも登場してもらいます.


午前中の方が学習能力が高い(有り体に言えば頭がいい)らしいよ.

minilogo.png「早起きは三文の得」とはよくいったもので,この時間頭脳明晰であればいい花も見つかるしね.ミツバチがよく行く花は,午前中に花蜜を分泌するものが多いから,これは確か.カボチャ(こちらを参照)もそう.この時間帯に頭脳が活性化しているってことでしょ.あたりまえといえばあたりまえだけど,ただ,タイトルにこう書かれちゃうと午後はミツバチってぼーっとして馬鹿みたいに思われそうで,なんかやだな.

そうだね,ごめんごめん.もちろん午後はダメということではない.午後だってちゃんと覚えられる.でも午後から夜の前半にかけては学習能力が低下し,夜明け前から午前中が高くなるということだ.状況に合わせた能力発揮というか,花との関係で頭の準備をするようになっているっていうことなんだろう.
minilogo.png真っ暗な中で匂いをよく識別できるというのも書いてあったけど,視覚を使わない分,脳が匂いにだけ集中できるから.ミツバチは「ながら勉強」は不得意なんだ.

なるほど.この論文はいろいろ示唆に富んでいるな.
minilogo.pngでしょう.生き物のひとつの事例でしかないと思うかも知れないけれど,ミツバチはミツバチだけでできた生き物ではないからね.花があってこそのミツバチだから,花との長〜い相互関係がこうしたミツバチの能力を作っているんだよ.人間はどうなのさ?

いや,たぶん,もちろん,何か,人間と他の生き物との相互関係もきっとあると思うけれど.でも,示唆に富むというのは,ながら勉強もそうだし,この論文の著者が最後に言っていることでもあるんだけど...
minilogo.pngミツバチの学習実験をいつやるかが問題ってところでしょう.今時の学生さんが午前中に実験するなんて考えられないものね.ミツバチの学習実験をいつも午後や夜になってからやっていたんじゃ,何もかも過小評価ってこと.

これまでに多数の研究が行われている分野だけど,学習率(匂いを覚えることができる率)には研究者によってバラツキがある.実験条件が悪いんじゃないのかとか,ミツバチがダメなんじゃないかとかいろいろ想像するけれど,もちろん判断の決め手はなかった.なので,これまでに出た論文の著者たちに,いつ実験をやったか聞いてみたいね.その結果,どうも他の人よりも自分の結果が悪かった(ミツバチの学習能力が低かった)のは午後に実験してたからだとか,夕方やったせいだったってことになれば,研究にもやるべき時間があるということになる.
minilogo.png研究者も,大学じゃあ授業があったり,実験の時間を自分の都合では選べないからね.でも人間が選んだ時間は,ミツバチの能力を測るのに向いていないってこともある.寝てる人を起こして実験するのと,起きてから時間が経った人,一日働いて疲れた人でもまた違うだろうし.

実験をする上でのミツバチの状態,あるいは被験者の状態をそろえるのは,それはもうあたりまえの前提だけど,こうした日周リズムがきちんとあるということがわからないままでは,実験を朝やっても夜やっても,差があるとは思いにくい.経験的にこうしたことを実感していた研究者っていただろうか.
minilogo.pngミツバチの学習能力に関していえば,できるだけ午前中に実験をやって,ちゃんと私たちの高い能力を報告して下さい.っていえばいいかな.あんまり「頭悪いんだなあ」と思われるような結果は出さないで....個人差はミツバチにだってあるけれど,ミツバチとしては頑張っている方なんだから.

時間的に自由度の高いはずの学生さんに,重要なメッセージとして伝えよう.
minilogo.pngよろしく,お願い.



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2010年08月02日

「ミツバチ酷暑で『職場放棄』」! 職場って?

暑いですねえ.この酷暑にはミツバチもたまらない様子.加えて辛口ミツバチは暑さ以上に熱い? 原因はこの記事.さすがにこの記事を読んじゃったら,収まりがつかないでしょう.とはいえ,この時期,巣の中をいかに冷やすかが先決.興奮を静めるために話を聞いてみます.

minilogo.pngビルの上に連れて来られて,ハチミツ採らされて,環境が悪くなったので移動したら,職場放棄だといわれる.冗談じゃない.拉致して,奴隷のように働かせて,逃げたら,そこは神聖な職場だって.逃げた方が悪いといいたいの? どうしてこんなこと書くの? 酷くない?
まあ,言葉が不適切なのは暑さのせいもあると思うよ.職場放棄は,この暑さの中,仕事をしているみんなの願望でもあるかも知れないし.

minilogo.pngこれが「鈍感」なセイヨウミツバチならまだ頑張っていると思うけれど,ニホンミツバチさんだよ.野生の生き物を捕まえてきて,人間のやり方で囲う.で,働けと.その感覚,何か間違っていないかな.人間は職場を自由意思で選ぶんじゃないの?
職業選択の自由は保障されていることにはなっているけれど,まあそういう問題よりも,ここではまったく扱われなかったミツバチの生態について話を進めよう.そういう部分を他の人に参考にしてもらうことで,次の犠牲者が出ないようにできるかも知れないから.

minilogo.pngミツバチにとって「巣」(巣箱じゃなくて)は,生活空間でもあるし,育児や食糧貯蔵など多大な投資をして作るものだから,とても大切なもの.それを捨てるということは,非常に大きな損失になる.それに見合うだけの利益がなければ,巣を捨てない.
巣を捨てることを,「逃去」と呼ぶけれど,攪乱誘発型と,資源環境依存型の2種類が知られている.写真からではちょっとわかりにくいけれど,巣に残存物が少ない場合,特に蜂児の残存がなければ,資源環境依存である可能性が高い.

minilogo.png逃去は目的のある行動なんだよ.つまり自分が移動することで,自分を取り巻く環境を変えるということに意味を持たせてる.熱帯では,資源がパッチ状に分布しているから,移動距離は短くていい.だから逃去性が発達した.セイヨウミツバチでもトウヨウミツバチでも熱帯のものはよく逃去する.その分,巣を大きくはできないから群れは小さい.温帯に来ると,資源自体も一様分布になるから,右に逃げても左に逃げても資源状態が改善しない.だから逃去性は低下する,その分群れや貯蔵食糧の量は大きくなる.ただ,温帯の日本にいるニホンミツバチさんは思ったよりもよく逃去する.これが基本性質なのか,ニホンミツバチの観察が始まった頃にはもうストレス状態にあったのかはわからないけど.今度聞いとく.
今回の逃去の原因は,暑さのようだけれど,暑さは,置かれていた環境自体の問題でもあるし,蜂量の少ない方が残存しているらしいから,巣箱の設計そのものの問題かも知れない.ニホンミツバチで3万匹は大型の部類だから,巣箱が小さいのかもな.ただ,暑さ対策って書かれているけれど,いかにもミツバチのことわかってない書き方だな.

minilogo.pngミツバチが巣内の環境を行動的に調節維持することは知っていると思う.年間を通じて,巣の中心部は人間の体温と同じくらいの35℃に維持してる(冬,育児を中断している間は少し下げるけれど).気温−40℃から40℃くらいまでの範囲でこれを実現できる.もちろん巣がどこにあるかは問題だし,温度調節には必要な材料がある.上げる方は筋肉を使って発熱するのでエネルギー源であるハチミツが必要.下げる方は,外気温が高いと換気だけでは下げられないから,水を運んできて打ち水をして,気化熱で温度を下げている.この水は外から集めてくる.このとき,適度に蒸散しているような水源だと,気化熱で水温自体が低い.これを長距離運んだら,自分の体温で水温が高くなるから,できるだけ至近距離で水を探すようにはしている.
なるほど,冷たい水を気化させると気化熱が相当奪われるから,効率はいいわけだ.夏場は,お腹がはち切れんばかりの水を運んでいるよね.水の量が多ければ,それだけ自分の体温で温めすぎないですむからか.飛行中に,部分的に吐き戻して,体を水冷するという話もあるよね.そこまでやれるってことだ.

minilogo.pngミツバチ500万年の歴史をなめないで.風通しのことも書いてあるけれど,もともと巣箱の置き場所を考えなかったのならひどい話だと思う.虫けらだから,この程度でいいと思われているんだろうな.記事には直射日光と空調の排熱に晒されていたって書いてあったよ.そんなの信じられる?
さすがに巣箱の置き場所自体は考えたと思いたい.写真を見る限りでは囲ってあるようだから,ちょっと全体的な換気は悪かったかも知れないね.ただ,もしかしたら,改善策として巣箱に風穴を開ければいいと思っているのかも知れない.これはまずいだろう.

minilogo.pngこれは養蜂家もよくやることだけれどね.ミツバチにはちょっと迷惑.換気は,炭酸ガス濃度,湿度,温度の三つで決まる.暑いときは確かに換気量が多くなってもかまわないけれど,夏だって一日の中で気温が動く.気温が下がっているのに,換気量を増やすと,湿度や炭酸ガス濃度を下げると同時に温度が下がりすぎる.ミツバチ自体が巣の外に出て,熱源を減らし,呼吸で出る水と炭酸ガスの発生を減らして,さらに内部の空気の容量や通り道を増やすことで,換気の効率を上げることもできる.ミツバチが自分でできることは放っておいてくれていいから,ミツバチにはどうにもならない部分に気を使ってくれればいいのに.
自律的にやっていることに妙なお節介が入るのは嫌だよね.この場合は,そもそも屋上に置くという部分が問題だろうな.

minilogo.png面倒を見てもらうのがいやなのではないけれど,面倒を見てもらわなければやっていけない生き物ではない.本来の場所にいられれば,だれにも負けないくらい自律的に生きている生き物なんだから.人間が,生きるのに不都合な場所に連れてきて,だから面倒を見ようというのは,「欺瞞」なんじゃないの? どうして人間はそういうふうに思わないかなあ? 生き物を支配したり隷属させることでしか,人間らしさを感じられなくなっているの? 不都合な種族だよねえ.そんな種族が生物多様性を考えるっていうんだから,茶番もいいとこだよ.
そこまでいうか.確かに,現状は,不都合な状態を作っておいて,それを補ってあげているという意識だよね.だから,こういうのを「飼う」というなら,ミツバチにとっては不幸の始まりだし,人間にとっても,本当にこれでいいと思って済ましてしまうのなら人間性の点で問題がありそうだね.飼う以上は,ミツバチが生きていくのに何の不足もない,最善の環境にミツバチを置いてあげようという意識を持つことが前提だろう.それでどうしても不足な部分は補うというなら,まだ許されるかな.あるいは最善の環境がないから,まずはそれを作り出そうとかいうのが健康的な感じはする.

ところで「巣箱の中の温度が25℃前後まで下がれば,逃げた群れが戻ることもある」と書かれているけれど,そういうこともある?

minilogo.pngあのさあ,ミツバチが巣を離れれば,巣箱の中の温度は気温と同じになるよ.この時期では25℃まで下がるのは夜間だけ.どうやって戻るというの? 何か聞き間違ったか,情報として大事な部分を落としたかと思うけれど.でも環境が悪くて逃げたのなら,わたしなら前の巣には戻らないなあ.

「ミツバチがいなくなったことも含め,ユニオンの活動から見えてきた都市環境を市民に報告」するそうだ.どんな報告になるんだろう.市民の反応も知りたいね.
minilogo.pngそんなの,簡単,一言.都市からは逃げるしかないってことでしょ.都市なんてろくなもんじゃないと,ニホンミツバチさんに三行半を突きつけられたってことだもの.人間の傲慢さ,やっていることの欺瞞,そういう部分に気がついて欲しい.その上で,どうすれば都市環境を評価できるのか真摯に考え直して欲しい.そんな評価,どうせ適当でいいというなら,それにミツバチを駆り出さないで欲しいし,適切であるべきなら,もうちょっと科学性を持ってしっかりやってよといいたいな.

相変わらずミツバチが受難.しかも,あまりの暴言で打ちのめされるし.農薬で死ぬよりもひどいかも.結局,人間の行動に呆れかえるだけ.いつまでこんなこと繰り返すのかなあ.巣を冷やすために,今夜は巣の外でいろいろ考えてみるよ.


posted by みつばち at 10:55| Comment(1) | TrackBack(0) | ミツバチの気持ち by Junbee | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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