2010年12月07日

飼わずに殖やし,殖やして飼おう,ニホンミツバチ

JALの上級会員誌「AGORA」12月号に「日本ミツバチ世界を繋ぐ」という記事が掲載されました.銀座のミツバチプロジェクトや対馬のニホンミツバチ養蜂が紹介されていて,全体的には好感の持てる記事ではあるのですが,記事を書くことという観点から,適正には得られなかった情報をどう料理するかは書き手の裁量ということで本当にいいのか,疑義を感じないわけにはいきませんでした.ここで流されてしまう,ストーリー的には正しそうな情報が,実は実態を反映していないのであれば,特にこの情報誌は,発言権の大きそうな方々が読む雑誌なだけに,そのような情報の偏りが生じることは避けるべきと考えるのが書き手の責任です.いつものように辛口ミツバチと進めていきましょう.

記事を読んで,誰もが「へえ,そうだったの」と思うのは,ニホンミツバチが減少の一途をたどっているという表現だろうね.
minilogo.png反証的なデータはあるのにね.でも,そこよりも,ここでは,ニホンミツバチさんのハチミツの市場が小さいことを,減少を見てとった根拠のように書いている点,ここはニホンミツバチさんに成り代わって,大いに憤慨してると伝えたい.

そこ? では,その部分を引用すると,「現在国産のハチミツは国内市場のわずか5%程度とされており,さらにそのうち10%が日本ミツバチの蜜というだけでも,日本ミツバチの希少性はお分かりいただける...」というところだね.国産のハチミツというのは,もちろん大半はセイヨウミツバチを飼っているプロの養蜂家が各地で生産しているもの.それに対してニホンミツバチのものは,現状では,市場の需要を満たすために「生産」されているとは言い難いかも知れないなあ.
minilogo.pngこの記事にもあるように,ニホンミツバチさんは野生だよ.セイヨウミツバチは家畜だから,人間のために頑張ってハチミツを作っている.養蜂家さんは,ミツバチの能力に加えて,持っている技術を駆使してハチミツを生産しているわけだよ.でもニホンミツバチさんのハチミツはニホンミツバチさんの能力だけでできているみたいなものでしょ.野生からの取り分が10%では足りないっていいたい? もっとたくさん採れて,国内市場の半分くらいをニホンミツバチさんから得たいわけ? 確かに江戸時代までは100%それしかなかったよ.でも現在,それを望むことが,人間のいう環境にやさしいということなの?

そこがポイントかあ.確かに野生のままだからこそ希少といえるのに,あえて希少でなくてもいいといいたいようだね.もちろん希少でなくても「ありがたみ」を維持できるならいいけれど,前例を見れば難しそうだ.
でもそこではなくて,やはりニホンミツバチが減少の一途をたどるという点が純粋に誤認だろう.証拠がないわけではない.三重大農学部の故松浦誠先生が2005年の「都市における社会性ハチ類の生態と防除」という論文で,各地で駆除されたミツバチの統計を示している.これを見ると,ニホンミツバチ463例,セイヨウミツバチ31例と圧倒的にニホンミツバチが多い.両種のデータが比較できる横浜市で45:11,津市では152:20と4〜8倍程度の開きがある.人工物への営巣だから,巣のサイズが小さいニホンミツバチの方が場所を見つけやすく,都市部への進出も進むのだろうけれど,こうした駆除件数の多さが物語るのは一方的な減少ではないよね.駆除自体が減少への圧力になっているかというとそうでもない.1985年から2000年にかけての駆除および相談件数は,多くの政令指定都市で右肩上がりに増えている.全国から玉川大学へ寄せられる相談件数も,圧倒的にニホンミツバチが多い.実際,毎春,分蜂がニュースになるけれど,いつもニホンミツバチだし.この状況からも「減少の一途」という表現をどうしたら作り出せるだろう.減少している前提でしか記事のインパクトがないからか,あるいはこうした活動が有意義だといえないのか.でもそれでは優良誤認になってしまうし,せっかくの活動を貶めてしまう.
minilogo.pngそうじゃないよ.よく考えてよ.ニホンミツバチさんは野生の生き物なんだよ(わかってる?).人間の中に飛び込んでいけば駆除されるのはある程度仕方ない(だって人間が共存を望まないんでしょ?).いいたいのは,野生の生き物を市場に組み込むそのセンスが信じがたいってこと.

いいたいことはわかる.でも,共存を目指し,本質的に生態系を保全するのであれば,ある程度は,計画採蜜の対象として人間が利用することにはなるだろう.ただ,その場合,重要なのは,分母が,つまり人間が利用する分が含まれるニホンミツバチ全体がどの程度のスケールになっているかという情報だ.この記事では,減っているニホンミツバチからもっとハチミツを採らなきゃいけないようにも読めちゃうな.だからこそここで紹介している,銀座や対馬の事例が大切という文脈なんだろう.
minilogo.pngだから,それではダメなんだよ.「養蜂」じゃダメなの.ニホンミツバチさんは野生の生き物なんだから,養蜂に組み込んだら弱体化しちゃう.長期に飼える巣箱なんて利用したら,私たちセイヨウミツバチが背負った運命をまたたどることになっちゃうの.たくさん飼うことで,血が濃くなっちゃうし(私たちが一番避けたい状況だよ),遺伝的に似通っちゃえば,家畜と同じで,病気もあっという間に蔓延しちゃう.生物多様性では,サイズ的に把握しにくいからかも知れないけれど,つい軽く扱われがちな遺伝子の多様性こそがとっても大切なの.野生の生き物の強みは,人為的な選抜を経ないから,この多様性を維持できていることなんだから.これはセイヨウミツバチの名誉のためにもぜひともここで言っておきたいけれど,病気に弱いか強いかは,家畜か野生かという問題で,つまりは人間がミツバチに何をしたかということなんだよ.耐病性はミツバチの性質の差じゃないんだ.だから飼って殖やすのでは,ニホンミツバチさんをダメにしちゃうんだよ! そこだけは理解して,共存のために人間が何ができるかを考えないと.

なるほど,それはそうだ.では,個人が飼うというスケールではなく,もっと地域的な取り組みとして,自然状態にいるニホンミツバチの増殖を考えるのが理想的だろうかね.自然状態のニホンミツバチが,グループ間で遺伝子をやりとりしながら殖え,その地域で密度が上がれば,人間の空間にも出てくるから,人間はその分を利用すればいい.
昔は裏の山にニホンミツバチがたくさんいて,だから自分の庭の巣箱に入ってくるものからハチミツをいただけてた.ミツバチの減少を実感できる場所があるとすれば,それはこうした背景にあるミツバチの減少が起きているからだろう.昔と同じことを期待するなら,まずは営巣空間と餌資源を増やすことが不可欠になる.ミツバチは衣服は自前だから,食住の部分がきちんと確保できれば殖えられるだろう.対馬でもスギがあるから蜂洞は作れると書いてあるけれど,それって森の中に営巣空間がないっていってるようなものだよね.それでは,ミツバチを全体的に人間の空間へ引き寄せるだけになっちゃう.伝統的な養蜂のスタイルはそのままだけど,森にいるべきニホンミツバチの本隊が人間の側に出てきてしまって,それで昔と同じように採蜜をしたら,その負担がニホンミツバチ全体にかかってしまうということになる.
しかも針葉樹だけではないんだね.広葉樹林でも,今は密植して徒長させて,まっすぐな材を得られるように育てる.おかげで,森の中では,ミツバチが営巣できるような樹洞が減っている.実はこれ,樹洞営巣性の鳥類でも同じように問題視されていて,だから各地で小鳥のための巣箱の設置が行われている.ミツバチではこれってやったためしがないかもね.
minilogo.pngもちろん,鳥さんは種類がたくさんいるから,巣箱を設置すると樹洞に巣を作る鳥さんだけが殖えちゃうなど問題も指摘されている.その点で鳥さんでの経験は,これからミツバチでの問題を考えるのに活かせそうだね.巣箱の設置でニホンミツバチさんだけが殖えたら,他のハナバチさんが迷惑に思うかも知れない.だからこそ,誰もが利用できる,種類も量もたくさんの花が必要だし,森だけではなく,草原も作って,野生の生き物の住処が確保できるような複相的な景観が必要なんだよ.休耕地は森には転換できないから,かえっていいお花畑にできるかもね.人間は,いきなりミツバチを飼うんじゃなくて,そういう土地の利用の面での改善を考えた活動こそを推進してよ.ミツバチにもわかる科学的な背景を理解しながらじゃないと,結局は人間の自己満足で終わっちゃうよ(もちろんそれでいいと思ってるからこんな状態なんだろうけど).

ミツバチに科学的であれと言われる人間も辛いところだけれど,確かに生き物としての真理はミツバチにはあるのに,人間にはないみたいだね.だからこそ,生き物への関心を高めなければいけないんだろう.実は,先日,日本野鳥の会・静岡で,こうした話をしてきたんだけど,集まった方はあるがままの野鳥の振る舞いを観察するのを是としているからか,その点はよく理解していただけたと思う.それに引き替え,ミツバチの関係者は,どうしてもミツバチを飼いたいと思うようだね.飼う前にできることを考えなきゃ.飼わずに殖やして,殖やして飼う(利用する),そんな流れをもっと広げられたらいいなあ.
minilogo.pngそこでさ,セイヨウミツバチとしてはどういう立ち位置になるのか悩むんだよね.でも美味しいハチミツを作る自信はあるし,ニホンミツバチさんには過酷なハウスの中で,果物作ったり,人間のお手伝いも得意だよ.もちろん,女の子なんだから,そんなに怖がらないで,もうちょっとかわいく見守っては欲しいけど.ニホンミツバチさんよりも刺しやすいから? でも,私たちだって環境がよければ刺さないよ.神様に針をもらったときは,確かに私たちも人間にしょっちゅうハチミツ採られてストレスがたまっていたから,つい浅ましいお願いをして,お怒りを買っちゃったし,命と交換でなければ使えない針をもらう羽目になっちゃった(イソップ物語から).それで,反省したセイヨウミツバチは人間と共存する道を選んだんだ.だから法外な贅沢は言わないでしょ? でも,ニホンミツバチさんは,反省する理由もまだ作ってないんだよ.もともとおとなしいし,おしとやかだし.セイヨウミツバチとはちがうってことを,ちゃんとわかってあげて.


posted by みつばち at 06:00| Comment(4) | TrackBack(0) | ミツバチの気持ち by Junbee | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
辛口も結構ですが、批判ばかりでせっかくの活動のよさが消されてしまう事が残念です。もう少し言い回しを変えれば、応援してくれる方はもっと増えると思います。ミツバチさんのためにも私利私欲に走らないで。
Posted by at 2010年12月08日 17:41
どなたかわかりませんが、ご意見をありがとうございます。次からはハンドルネームでもよいから入れて下さいね。
Junbeeか、辛口ミツバチからこちらに書き込みがあると思いますのでしばらくお待ちください。

そう、私たち人間が「ハチミツが採れる!」ということで私利私欲に走り、西洋ミツバチを追いつめている愚を日本ミツバチで再び犯さないようにしたいものですね。
Posted by Lazy bee at 2010年12月09日 14:12
ブログのこのコーナー「ミツバチの気持ち」は,時々書いているように,あくまでメディア批判を趣旨としています.ミツバチ分野での「水伝」はなんとしても阻止したいという気持ちからです.でも,批判精神を持ちながら,一方でよいものはよいと伝えることも大切ですね.「私利私欲」とのご指摘は,実はよく理解できなかったのですが,応援してくれる人がもっと増えるよう,ご期待に応えて頑張りま〜す.
Posted by 辛口ミツバチ at 2010年12月10日 02:48
自然と人間の共生って、言葉にするのは簡単ですが、どのように行動すればベターかを判断するのは難しいと感じます。
良かれと思ってやったことが、実はそうでなかったり…。

辛口ミツバチさんのコメントは、自らの行動を決定するうえで非常に参考になります。
Posted by JONA Tu at 2010年12月12日 09:53
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