2010年09月03日

ミツバチ大量失踪の原因究明へ〜メディアの先導? 先行?

ネオニコチノイド系の農薬がミツバチの大量失踪の原因であることを明らかにするための研究調査が始まるという記事が掲載されました.
神戸新聞8月28日8:00
神戸新聞8月28日10:24
原因を究明するという科学者の使命感には共感できるのですが,報道された研究計画だけでは原因の究明も厳しいし,何より何かの解決につながらないのではとの疑問がよぎります.
農薬の専門家もミツバチへのリスクを下げる方向に進みませんと指摘しています.暑さで短絡気味の辛口ミツバチは,これで鬼の首でも取ったような調子だけど,そうじゃないんじゃないかな.一緒に考えていきましょう.

minilogo.pngなるほど,やっぱり農薬が原因なんだね.だから農薬の影響を調べればそれで原因究明だと.もうすぐ結論が出そうだね?
農薬の影響がないとは誰も言っていないわけで,でもミツバチの変調のすべてが農薬を原因としてとらえられるかどうかは,農薬に影響があることだけを見てもわからないよ.性急な結論は,何か大きな情報を見落としてしまうかも知れないから慎重であって欲しいね.

minilogo.pngこの研究を推進する大谷先生は,前にも紹介したけれど,有名な先生だよ.そんな先生が真剣に取り組もうということで,結果も出ないうちにメディアに記事が出るんだから,もう農薬原因説の見込みはあってのことなんじゃないかな.
もちろん大谷先生はミツバチの行動に関しては第一人者だから,その点での研究精度は疑いようがない.だから,見込みで報道する側に問題があると思う.この記事からは,農薬が原因である証拠をつかんでやる,というような方向で研究が進むように受け取れる.でも,そういう方向の研究って,実験データの解釈にもついついバイアスがかかるんだよね(自分を基準に考えるのは失礼だけど).それとだれも農薬によるミツバチの被害がないとはいっていないし,実際に中毒事故による大量死は報告されている.数は信じられないくらいに少ないけれど農水省も把握はしている.

minilogo.png大谷先生はバイアスはかからないと思うな.日本で一番ミツバチを長く見ている研究者なんだから.
それと研究態度は関係はないかも知れないけれどね.まあ,このブログの目的はメディア批判だから,記事に書かれている内容を取り上げていこう(大谷先生お気を悪くなさらないで下さい).
この研究では農薬をミツバチの体表に塗って影響を見るそうだ.これは,農薬登録時に行われる,有用生物への影響試験と根本的には変わらない.ある投与量でミツバチが死に,ある量では死なない.間を取って(という表現は正確ではないけれど),ミツバチが50%死ぬ量を半致死量と呼んで,農薬の毒性の評価値として利用している.でも,この試験では,それを行動観察で追跡することで,致死に至らないまでも,行動が異常になるなどの影響が出るかどうかを見ようとするものだろうね.海外でも,行動への影響を登録ための試験に加えた方がいいという研究者も出ているから,その点では妥当な試験系ではある.

minilogo.pngそれなのに何が問題なのかな? 行動に異常が見られれば,やっぱり農薬が危険だとわかるはずでは?
問題は,ここでは体表に農薬を塗るという部分かな.登録試験は国際的な指針に則って行うものだし,毒性の評価値を出すだけなので,すべての農薬に関して同等の試験が行われることが原則だろう.でも,野外での影響を見るのに,アセトンで溶解した農薬を経皮処理するのは,実際の薬剤動態のシミュレーションにはならない.それに,ミツバチの変調が農薬のせいだとして,それが経皮的影響(つまりは散布中の薬剤暴露)だというのは現状での推論であって,やはり薬剤がミツバチにどう届いているのかの検討が先にないとまずいかも.これ以外の実験ももちろん行うんだろうけれど,ここだけ書かれちゃうと,まるで経皮毒性試験だけでミツバチの変調のすべてが説明されそうな雰囲気だ.

minilogo.pngでも,とりあえず農薬の影響を見るのには手っ取り早いよね.影響がわかれば,農薬の危険性は訴えられるし.
だから,何度も言うようだけれど,農薬(殺虫剤)はミツバチにとっては危険なものだし,投与量的に致死に至らないまでも影響は受けるだろうよ.ただ,だから,農薬の毒性自体を調べても,それは何かの解決にはならないし,反農薬を訴える人たちに都合のよいデータを提供するようなものでしかない.こうした記事を書く記者の方も,多分に反農薬的な立場を取っているから,あえてそういう書き方なのかも知れないけれどね.そもそも農薬が殺虫活性を持っていること自体が問題だというなら,殺虫剤なんて存在できない.

minilogo.png農薬が危険なことはわかっているし,ミツバチとしてはどうすれば被害を受けなくて済むかがやっぱり関心事.どんな研究がなされれば,今のミツバチの変調の原因がわかったり,対策につなげられるのかな.
農薬は危険なものには違いない.でも実際の農薬被害は使われ方次第だろう.つまり農薬が危険なのではなく,農薬使用にリスクがあるという視点がまずは必要だろうね.もし,ミツバチの変調の原因を調べたいのなら,「農薬は行動に影響を与える」ではなく,「農作物に散布された農薬が,どのようにミツバチに届けば行動や群れの動態に影響が出やすいか」を検証するという方向性になるだろう.本来,ミツバチに向かって散布されたものではない農薬が,ミツバチに対して何らかの影響をもつことが問題であって,その理解がないと農薬被害の防止対策にはつながらない.

minilogo.pngでも,農薬が本当に危険なら,危険だというデータを集めて,発売禁止,使用禁止にしちゃえば,被害はまったくなくなるのでは.
だから,農薬は,ミツバチに向かって使用されているのではない点を忘れちゃ困るよ.本来,防除すべきターゲットがあるから使われている.だから,ミツバチへの影響だけで発売禁止にはできない.ミツバチよりもイネの斑点米の方が大きな問題だとしたら,これからも農薬は使われ続ける.ミツバチには影響の小さい新しい農薬が開発されるまで,農薬散布によるミツバチの被害はある確率で発生することになるだろう.できることは,被害を軽減するためにできうる限りの対策を講じた上で,農薬使用による作物栽培上のメリットと同時に生じるミツバチのダメージを比較評価して,薬剤の選択や散布の方法などを見直すということくらいだ.もちろんそのことにも一定の意味はあるから,そのためのデータの収集や努力は払われるべきだとは思う.

minilogo.pngでは,どうすればよいのかな? ミツバチの立場からはそんなに悠長には構えていられないよ.
急ぐことと焦ることは違うと思う.急ぐべきだけど焦って物事を見失っては元も子もない.肝心なことは,まずは起きている現象の切り分けと,それぞれについての原因の究明ということになると思う.農薬が原因で蜂が弱っているのか,弱っている蜂に農薬がとどめを刺しているのか,それも地域によって異なるだろう.「失踪」の原因究明ということであれば,まずはその「失踪」現象がどの程度再現可能で,経過を説明できる現象なのかを知る必要もあるだろう.野外で再三起こることで,見かけがほぼ均一であれば,実験的にその現象を再現することもできるかも知れない.でも,現実には,ここまで多数の研究がされてきたアメリカの蜂群崩壊症候群(CCD)でさえ,現象の再現には至っていない.つまり,あまりに多くの要因によるものを一括りにしようとしているからだ.日本でもCCDが発生しているという人もいるけれど,肝心の現象が定義できないのにそれは無理な話だし,便宜的にCCDと呼ぶものには,原因の異なるものが含まれていることは自明のこととして扱われている.その点も誤解が多い.
話がそれたけれど,農薬が原因ということで探求するなら,まずは到達メカニズムを解明する必要がある.農薬がミツバチを殺すことをいくら証明して見せても,それ自体は自明のことであって,ミツバチの失踪や大量死の原因としての評価にはならない.例えば車にはねられてけがをしたという場合,車のような大きな金属塊に生身の人間がはねられたらけがをすることは誰でも予測が付くけれど,なんで車にはねられる羽目になったのか,今知りたい原因はこっちだろう.

minilogo.pngつまり,この研究では,例えば車自体の危険性を評価するだけにとどまるということ?
報道された範囲ではそうだろうね.もちろん,大谷先生は最終的には原因の解明を目指しているのだから,到達メカニズムも勘案していると思うよ.そのあたりは記者の方がよく理解できなくて記事に盛り込めなかった可能性もある.仮に到達メカニズムまでは考えてなかったとしても,行動学的な影響を調べることには一定の意味があると思う.ここでいわれる「失踪」という現象に結びつくヒントが得られるだろうから.とはいえ,被害防止対策という観点では,すでに起きている大量のミツバチの中毒死を含めて,農薬との接点をいかに断つべきか,断つべき接点とは具体的にどんなものかを明らかにすることが急がれているんじゃないかな.

minilogo.pngその急がれている研究は誰がやってくれるの?
確かにそこが問題といえば問題だよね.研究情報の集結という形が取れるか,もっとこの問題を真剣に取り扱う研究グループができるか,いずれにしても個人の研究者の範疇ではないような気はする.これまでにわかっていること,これから得なきゃいけない情報は何か,知恵を出し合うチャンスがあるとよいけどね.

minilogo.pngミツバチに滅んで欲しくないなら早めに手を打って下さい!




posted by みつばち at 00:14| Comment(0) | TrackBack(0) | ミツバチの気持ち by Junbee | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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