2010年06月22日

ネオニコチノイド系農薬とミツバチ

相変わらず,いい加減な記事や,根拠のない言説が氾濫しているので,ネオニコチノイド系農薬をどう考えるべきか,現時点で一度まとめておかなきゃいけないような気がしてきました.ただ,私自身も,実際にこの問題での調査をしているわけではありません.そこで,自分が持っている断片的な情報を,できるだけ合理的につなげてみるという方法で,その意味ではしょせんは個人の推測として書いていることは了承して下さい.辛口ミツバチにも手伝ってもらいましょう.

minilogo.pngネオニコチノイド系農薬が原因とされる蜂群の大量死の実態はあるって理解でいいよね,実際にミツバチは死んでいるんだから.
方法やサンプル収集には異論もあるようだけれど,大量死した蜂から農薬成分は検出されているから,影響があるのは間違いないね.もっとも,これは,有機塩素系,有機リン剤など,かつてもミツバチの農薬被害は発生していたという事実を踏まえれば,過去にも現在にもその実態はあることだといいたい.国内だけではなく,海外でも事例報告はある.確かに新しい局面はあるけれど,「ネオニコチノイド」だから特別に新規な問題ではないことには理解が必要.

minilogo.png「ネオニコチノイド」って括られていわれるけれど,ネオニコチノイド系農薬ならどれでも同じように問題なのかな?
研究フィールドのある和歌山県では,モスピラン水和剤(アセタミプリド製剤)が,ミツバチが訪花中のミカンに散布されるので,現地の養蜂家が「あたる」という表現をする,外勤蜂の大量死が発生する.自分の目で見たものでは蜂場全体の平均で500頭/群/日くらいにはなっていた.
これに較べて,東北や北海道で水稲のカメムシ防除に使用されるダントツ(クロチアニジン製剤)やスタークル(ジノテフラン製剤)による被害(いずれもフロアブル剤や粉剤など高濃度散布が可能なもの)はちょっと雰囲気がちがう.自分の目で経過を追ったことがないけれど,巣門付近での外勤蜂の大量死以外に,2週間程度で急速に巣全体の蜂量が減少している.
つまり,散布される薬剤(成分)や,時期や対象作物によって,被害の発生メカニズムから同じとはいえないだろう.今のような十把一絡げな扱いでは,問題を見誤ってしまうので,注意は必要だろう.


minilogo.png急速な蜂量の減少は,結果として蜂群の崩壊につながるわけでしょう?
ちゃんとした研究があるわけではないけれど,成蜂の急激な減少は,その先の蜂群の崩壊につながりやすいのは経験的にもそうだと思うよ.これは農薬に限らず,自分で把握している現象としては,例えばオオスズメバチの襲来を受けた後にも,時々起きている.農薬被害の場合,どの程度まで成蜂が減少したかが問題ではないという印象もある.というのも外勤蜂だけなら回復可能なこともあるのに,内勤蜂が多数失われると,社会構造の破綻が帰結となりやすいようだね.古い養蜂家が,以前の農薬被害(外勤蜂の多量損失)では蜂群は立ち直ったのに,最近の被害事例ではぜんぜんダメだと嘆いていたが,状況的には合致しているように思う.

minilogo.pngネオニコチノイド系農薬被害では外勤蜂だけではなく内勤蜂が死んでいるということ?
これも国内できちんとしたデータを取るべきだけれど,海外では大量死した巣箱に残された花粉中から高濃度の農薬が検出されている.ここは推論だけれど,同じネオニコチノイド系農薬でも水和剤のような剤形では,直接被曝した外勤蜂だけが死に,農薬の巣内への持ち込みはそのせいもあって制限される.しかし,粉剤やフロアブル剤では,外勤蜂が散布時に被曝するのはなく,イネの場合,散布後に,開花した花を訪れて,花粉と一緒に葉上や穂に付着している薬剤を集めてしまい,これを巣に持ち込んでしまう.外勤蜂が徐々に農薬に冒されて死ぬまでには,ある程度の花粉が持ち込まれるのだろう.海外のケース(フランス)はイネではないだろうから,水田水を汚染源とするようなイネ特異的メカニズムが影響の主体とは思えない.そして,持ち込まれた,農薬汚染された花粉を食べて中毒を起こすのは,巣の中では一番若いグループ,つまり,社会構造の底辺を支える部分ということになる.

minilogo.pngつまり内勤蜂が死ぬことが社会の崩壊につながるということだよね.私たちミツバチの社会は,安全ではない外勤活動を,働き蜂の一生の最後の仕事として分担するので,重要な巣内の仕事は基本的に若い蜂が担当している.この日齢分業は非常によくできたシステムで(なんといっても500万年,この地球上で機能しているからね),安全な巣の中で,外勤になるまでに担当すべき仕事はほとんどの蜂が担当できるので,仕事の生産性は極めて高いし,蜂群は安定的に維持されることになる.その安定には余剰労働力もものをいうので蜂群サイズが大きいと,蜂群はより安泰ということ.
そうだね.ところが,小群(8000匹以下)では,仕事の量的な振れが大きく,例えば最初に外勤活動に出る日齢には2週間以上もの差ができることもある.こうした蜂群は,外界の変化に影響を受けやすく,人間の庇護下でなければ生きていけない.内勤蜂の中でも一番若いグループが死ぬと,分業が寸断されて,巣の環境維持や,働き蜂を産出するサイクルが狂い,巣の生産性は急激に減衰する.結果として蜂群の小型化は加速する.本来,環境に応じて,徐々に小型化が進む場合には,ミツバチとして回復できる能力は持っているはずだけど,農薬被害のようにミツバチの想定以上に急激な変化では立て直しは難しく,やがて崩壊する.研究者も,数千匹が数百匹になる経過を時間で追えてはいないので,崩壊部分の実態は未だに不明なままで,そういう意味でも蜂群崩壊症候群CCD(本来これは「異常な」崩壊現象であって,崩壊自体は,ミツバチにとっては群れとしての自然死でしかない)に似ている.

minilogo.pngそれでもCCDとは異なるわけ?
CCDの定義の問題かも知れないが,農薬被害は,蜂群の小型化へのプロセスに関しては単純だし,多くの場合,その原因を実証できるんじゃないかな.でもCCDは,原因の特定はまだ難しい状態だし,現状では農薬の影響といっている研究者は限定的だね.むしろ栄養状態が悪いところで,ダニやウイルス,ノゼマなどが複合的に絡んでいるという見方が有力になっている.
蜂群の小型化,分業の負担増や余剰労働力の消失,死亡率増加という経過的部分だけが似ていて,つまり衰弱プロセスは同一性が高いが,そこに至る原因や経過は異なると見るべきだろう.これは人間の場合に,血圧低下,脈拍数減少といった,心停止前のプロセスが同じでも死因は同じではないといえばわかりやすいかな.


minilogo.png日本でのミツバチ不足がすべて農薬が原因のようにいわれているけれど,影響は大きいものと見ていいのかな?
もちろん影響を軽く見ることはできないだろう.ただ,2009年に日本養蜂はちみつ協会が実施したアンケートで,養蜂被害の原因として上がった最大のものはダニだった.全国の飼養群17万群(この数字は被害発生時の母数とはほど遠く,小さ過ぎるかも知れない)のうち,あいまいな回答を除くと,何らかの被害があったものは4万群超,そのうちの約1万群が農薬(薬剤の種類は特定されていない)による被害を受けているそうだ.ただし,この「被害」は全損だけではなく部分的被害を含むので,実際に農薬による蜂群崩壊レベルの損害は,この数字に基づけば量的には大きくはない.ただ...

minilogo.pngそれでも大きな問題だと?
そうだね.この問題が,防ごうと思えば防げる可能性を含んでいる点では極めて大きな問題だと思う.農薬反対も部分的には有効かも知れないが,なぜミツバチが農薬に被曝したり,花粉と一緒に集めて来ちゃうのか,その部分の理解がなければ意味がない.イネの場合,やはりなぜそこにミツバチがいるのか,問題発生のメカニズムをちゃんと押さえなければ,農薬が変わっても問題は継続するかも知れない.「農薬で死んでいる」は直接的死因で,自動車にはねられたといっているようなもの.なぜ農薬との接点があったのか,車道を歩いていたのか,相手が酒酔い運転だったのか,そうした事情がわからなければ,再発の防止はできない.

minilogo.png農薬よりもダニなのかなあ? それにこれ以外の要因はないのかなあ?
この部分も難しいところだなあ.ダニに関しても実態は見えてないねえ.対策を打つにももうちょっときちんとした情報収集は不可欠だろう.他の要因も気にとめる必要はあるよ.例えば,今年は花粉交配用に,各都道府県の養蜂組合が今まで以上にミツバチを供出した.その結果,大きな不足はなくシーズンを終えた.ところが,採蜜養蜂家の一部が,越冬に失敗したり,春の低温もあって,採蜜群を立ち上げられなかったりしている.こうした養蜂家は,交配用に拠出した分,越冬時の蜂群サイズを小さく設定したそうで,技術的な問題でもあるかも知れない.それも,結局のところ,園芸用のミツバチ需要が大きく,それを支える養蜂業が体力的に支えきれていないという事情が露見したという雰囲気だけどね.
それに,養蜂家の間で明暗が分かれている感じだけど,冬期の損失が例年以上に大きいという印象はある(読売の新聞記事になった養蜂家なども含めて).昨年国内で発見されたアカリンダニの被害かどうかもわからないけれど,今一度,病原の浸潤状況について広域の調査を行うことも急務だと思う.


minilogo.png結局のところ,ネオニコチノイド系農薬とミツバチの関係はどう考えればいいの?
農薬が農業の現場で用いられていて,なおかつミツバチも農業の現場に組み込まれている.その点で接点がないわけではないので,そのことをきちんと認識して,危険な接点をどう減らすかということを考えるのだろうね.減農薬の推進や,農薬の使い方の見直しもけっこうなことだけど,花に来て蜜を集めているだけのように見えるミツバチが,もっと広範に農業に役立っているという認識があれば,本来は自ずと防げるんじゃないかと思う.
根拠のない漫然とした不安や嫌悪感から何となく農薬を悪者にすることは,養蜂家と農薬の使用を前提としている農家の対立構造を招くだけ.本当は,受粉を必要とする園芸農家と養蜂家が協調できるような方向性こそをメディアは訴えるべきだろう.工業立国もままならない日本において,今,農業のあり方はいろいろな意味で問われていると思う.現実的な視点に立って,理想論や他者の存在を忘れた議論に走らず,広く情報を収集して記事にして欲しいよね.


minilogo.pngその点は,ミツバチ一同も同じ.よろしくお願いします.


posted by みつばち at 08:02| Comment(0) | TrackBack(0) | ミツバチの気持ち by Junbee | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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