2010年06月21日

ミツバチ大失踪は人間社会のひずみを投影?

読売新聞に「数万匹×120群…丹波でミツバチ大失踪の怪」(6月16日)という記事が掲載されました.
丹波の養蜂家の事例や,兵庫県立大自然・環境科学研究所の大谷剛教授の談話で構成されているこの記事,締めくくりは,「人間社会のひずみを投影」という結論(?)です.さすがにしばらくおとなしくしていた辛口ミツバチも我慢の限界のようです.


minilogo.pngこの記事に関しては,農薬ネットにも疑義が挙げられているけれど,やっぱりどこか無理があるよ.農薬が,越冬期に効いてくる可能性はあるかも知れないけれど,養蜂家が,実際に被曝した時期に何も気がつかなかったはずはないし.
確かに,他県での事例との整合性はないね.記事を書く立場で,農薬原因説が頭の中に先行していて,他の要因を明らかに無視したがっているといわれても仕方ない展開だと思う.いつものように分解して検討してみよう.

minilogo.png異変が起きたのは1月3日だけど,イネやマツクイムシ防除が行われたのはいつだろう.イネでのネオニコチノイド系農薬によるカメムシ防除は出穂期の8月が一般的だから,その影響が1月まで出ないとは考えにくいよね.
北海道で交配用ミツバチの増群を行う養蜂家たちが農薬被害を受けるのは,散布時期からの数週間だといわれているから,確かに1月に気がつくのでは遅い.この時期であれば,最近確認されたアカリンダニの影響の方が推定原因としては重要ともいえそうだね.今年は,交配用にミツバチを拠出して越冬蜂群のサイズを例年より小さくした養蜂家が,越冬に失敗しているケースも多い.原因に関して明らかに取材不足だろう.あいかわらず一個人発の情報ですべてを書いちゃったという感じだね.

minilogo.png1月3日というのは,ミツバチが2日まではいたということなのかな? こんな冬期に,しかもセイヨウミツバチが逃去するとは考えにくいし,蜂群の状態としての劇的変化が,この時期にすべて同調して起こるなんてあり得ない.
これはおそらくこの養蜂家が気がついたタイミングがこの日だったということであって,それ以前から徐々に起きていたのだろう.記事にする時点で「劇的」な表現にしたかったという感じかな.そのことには意味がないんだけどなあ.

minilogo.pngこの養蜂家は中日新聞の記事では100群を全滅させたといっているけど,今回は120群になっているね.ミツバチとしては,被害が正確に伝えられるべきと思うけれど...
その点は,正確なことはわからないな.取材が相次いだことで,養蜂家自身に,より正確な情報を提供したいという気持ちが働いたのかも知れない.ただ,この記事を書いた記者が,中日新聞の記事を見ていれば,自分が挙げた数字の根拠を示して書けただろうに.正直なところ,このことだけでも,この記事の信憑性は低下すると思うよ.

minilogo.png兵庫県立大自然・環境科学研究所の大谷剛先生は,日本で一番長い時間ミツバチを観察してくれた人だから,その発言は重いと思う(養蜂レポート参照).この見解は正しいのかな?
8群中一群で,巣内の残留花粉にネオニコチノイド系の薬剤が検出されたというなら,少なくともこの一群の損失要因としての見解は間違いではないだろうね.もちろん,イネの花粉があったということだけでは,この結論は性急すぎる.ただ,記事では,丹波の120群をこの言説で説明できるといいたがっているように見える.でも丹波のはあくまでも冬期の話だし,大谷先生のいっていることがそれを説明しているという雰囲気をこの記事に持たせるのは読者を間違った方向に誘導しているとしかいえない.大谷先生は関連性を指摘していないのに,話の内容から何とか結びつけようとしたんじゃないかな.

minilogo.png大谷先生は,ネオニコチノイド系の農薬はミツバチの脳に作用するといっている.そんな恐ろしいものが世の中にはあるってこと?
その点は,ミツバチには気の毒だけれど,存在自体は事実だねえ.ただ,例えば「沈黙の春」で問題視されたDDT(有機塩素剤)も,一世を風靡(?)した有機リン剤にしても,ミツバチを含む昆虫の神経系に作用するという意味では同じことで,これはネオニコチノイド系農薬特有の話ではない.なんとなくネオニコチノイド系農薬だけがそのような効果を持つような一般的理解があるけれど,その点は明らかに誘導された誤解だねえ.それに神経伝達をかく乱することが,脳に作用するというのもやや文脈的な勇み足で,神経系が複雑な昆虫では,必ずしも「脳」に作用するまでもなく致死的な効果はあるはず.今のところ,誰もそのような死因診断をきちんとできた試しはないから,そういう言説自体は科学的とはいえないかも知れない.巣に戻れなくなるというような話もネオニコチノイド系農薬で初めていわれた話ではなくて,合成ピレスノイドでも,致死量以下の被曝で帰巣が困難になるという報告はある.この点で,ネオニコチノイド系農薬だけがミツバチにとって恐ろしいものではない.それに「ネオニコチノイド」も,単にグループの名前であって,その中でもミツバチに対する影響は成分ごとにも異なるし,かつ剤形的に影響のあるものとないものがあることもわかっている.

minilogo.png大谷先生はミツバチが「環境指標生物」といっているね.この点は意見が異なるのでは?
そうだね.飼育可能な動物を環境指標にすることはできないし,カナリアのように環境悪化の検出器に使うことすら難しいだろう.というのは,例えば農薬でミツバチが死んでいても,それが人間の環境悪化に直結するわけではないから.ネオニコチノイド系農薬が人間にも害を及ぼすなら,そうした一面は肯定的に考えられるけれど,昆虫への特異的毒性を発揮できる農薬という観点では無理だ.カナリアとの相違も同じ観点で,坑道で人間にも影響のある炭酸ガスや一酸化炭素ガスの検出にカナリヤを用いるのとは訳が違うってことだ.
この流れで,帰巣性に関しても,記者が明らかに言葉をはしょって誤解している感じだな.


minilogo.pngさらに「昆虫を殺し尽くすことは生態系を壊す。将来、人間に大変な結果をもたらす」といってるよ.人間にも大変な結果って何?
この部分は,明らかに何か言葉が欠落しているね.昆虫も生態系の一員で,というより人間よりも構成員の数として多いのだから,生態系の破壊というような言い方自体はできると思う.ただ,人間にとって大変な結果というのは,何を伝えたい言葉だったかはわからないし,恐怖を煽るおどろおどろしい脅し文句でしかない.もっと具体的に言及されているべきだと思う.記者が具体的な部分を聞き損ねたのかなあ.最近の記事では,こうしたわかんないまま書いたよという展開が多いような気がする.

minilogo.pngミツバチとして「育児放棄をしていなくなる」なんていわれたくはないな.しかもそれを人間の行動と同列に扱われている.冗談じゃない.
これは,確かに恣意的な言葉遣いというか,言葉遊びだね.ミツバチでは「共食い」として,育てきれない幼虫を働き蜂が食べて栄養の再回収を行うことはあるけれど,それは育児放棄ではない.あるいは,巣を捨てて緊急避難する場合(攪乱誘導型の逃去)には,確かに幼虫や蛹は見捨てられる.でもこの場合は,火災などで,子供を救えなかったケースと同じであって,最近,人間社会で問題になっている「育児放棄」とは次元が違う.この記者はその点に関して,ある外因が「育児放棄」を促すもので,それがミツバチでも人間でも同じだといいたがっているかのようだね.でも,それにはまったく根拠がないし,表面的にも考えたとは思えない(記者としては,根拠がない根拠を示せというかも知れないけれど).

minilogo.png結びの「ちらつく農薬の影、育児放棄……。人間社会のひずみを投影しているように見える。」は何が言いたいの? ミツバチの小さな頭では何を言いたいのかまったくわからないよ.
エモーショナルに書きたいという雰囲気だよね.言葉は悪いけれど,書いていることに酔っている状態だと思う.人間とミツバチで起きていることが同一要因とすることで,書いている本人は責任を逃れている,つまり,ミツバチの問題からも人間の問題からも.正直なところ,この文章というか,言葉遊びが誰かの心を動かすことはないと思うよ.

minilogo.png結局のこの記者さんは,人間社会のひずみの原因を農薬のような「モノ」にすげ替えることで,自分は悪くない,何も考えなくてもいいと表明したがっているってことなんじゃないの?
最初から,すべての根源はネオニコチノイド系農薬であるという態度というか思い込みがあるようだね.でも,整理してみると,大谷先生が指摘するような農薬被害が1月に発生するとは考えられないし,剤形の面はともかく,作用の面ではこれまでの農薬と変わりはない.ネオニコチノイド系農薬の一部の成分および剤形がミツバチに毒性が高いこと自体は間違いないけれど,それを日本で起きているすべての事例に適用できる内容ではないし,確かに読者から考える材料を奪っているとしかいいようのない記事を「作った」感は否めないなあ.どうしてこういう記事が後を絶たないんだろう.

minilogo.pngそうだよね,どうしてこうした報道では肝心な部分が見落とされるのかな.いい加減な農薬原因説の陰で,農薬以外の原因でミツバチが死んでいるかも知れないのに.おまけにどうして人間社会と一緒くたにしなければならないの?
農薬以外の原因というのはアカリンダニとか,病気のことだよね.確かにこちらの問題をきちんと把握して,対策を立てる必要は大きいね.この点の調査が遅れていて,ミツバチが直面している問題への対応が遅れているのは申し訳ない.
社会という意味では人間社会もミツバチの社会も同列に議論できる部分はもちろんあるだろうけれど,だからといって人間の社会で起きていることがミツバチの社会で起きている問題ということにはならない.「投影」という言葉にこの記者が託したものが何かはわからないけれど,ひずみやゆがみというものの存在を嗅ぎ取ったということではあるのかな.ただ,相互に同列感はあっても,中身は見つけられなかったんで,警鐘的に書いてやろうと思ったんだろうけど,情報不足なまま書いたので,結果的には明らかに責任逃れな,いい加減な記事になってしまった.その点は人間として恥じ入るよ.


minilogo.pngいつもと同じ終わり方になるけれど,どうか記者の方,こうした記事が伝えることがちゃんと意味をなすように,書く立場での責任を感じて下さい.小学生だって新聞を読んで,ミツバチのために何をすればいいのか聞いてくれる時代です.大人が,特にメディアに所属する方がちゃんとした情報発信をしなければならないのではないでしょうか? わからないことはミツバチに聞いて下さい.私たちにもわからないことはたくさんあるけれど,一緒に考えてくれる人もたくさんいます.その人たちの意見も聞いてから記事にして下さい.ミツバチとして農薬が不安視されるのは結果的には悪くないように思ってもらえているのかも知れませんが,科学性がなければそのことには本質的な意味がありません.ミツバチは農薬が必要な農業の現場でも働いているのですから.誰もが納得できる,普遍的な事実をちゃんと伝えて下さい.ミツバチからの,いつものお願いです.


posted by みつばち at 01:56| Comment(0) | TrackBack(0) | ミツバチの気持ち by Junbee | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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