2010年05月28日

セイヨウミツバチは外来生物? 10年で決まる運命

最近,ニホンミツバチの国内移動の是非に関して質問を受けました.折しも,昨年末に出た,京都大学の松井正文先生の「外来生物クライシス〜皇居の池もウシガエルだらけ」(小学館101新書)を読み終えたところで,外来生物としてのセイヨウミツバチとニホンミツバチの国内移動について考えてみます.

「外来生物クライシス」は外来生物(動物のみ33種)を,その位置づけごとに4章に配分して,種ごとに具体的に例示しながら,何が問題なのかをわかりやすく書いてあります.特に「問題」が,単に「外来だから悪」という図式ではなく,その発生パターンが多様なことに気がつかされ,そのことだけでもまちがいなく一読に値します.人間による動物の移動が,時代によって意味合いが異なることから,過去を今の価値観で糾弾したり,逆に,過去の価値で今を測ることはできないという点は実感できます.

さて,セイヨウミツバチは,第2章「人の生活に影響を与える外来生物」のトップで登場します.農作物の花粉交配での利用,大量死やCCDのこと,ミツバチ不足のこと,マルハナバチのことなど,刊行時期から,少し情報的には陳腐化した部分はあるものの,わかりやすく書かれています.多少,誤解かなという記述はあるけれど,それは何となくあとからミツバチを加筆したからではと思われる節もあります.

でも,辛口ミツバチ的には,少しは文句も言いたい? 何だか春の疲れがたまってきたのか元気がないけれど...

minilogo.pngセイヨウミツバチを外来種として排他的に扱おうというストーリーじゃないから別に文句はないよ.ただ「おわりに」に,ここに登場する動物の中で日本への導入(侵入)時期が最も古いのはマングースの1910年で,次いでカダヤシの1916年となっているけれど,セイヨウミツバチはもっと古いんじゃないの?
確かに.1877年だから,たぶん一番古いね.外来生物法では,明治時代以降に日本に来た生物を,基本的に「外来生物」と定義しているから,セイヨウミツバチはそれに基づけば最古参の部類だろうね.

minilogo.pngあと10年早く来ていれば,外来生物って呼ばれないですんでいたのかなあ?
今でも女王蜂は海外から人間の手で持ち込まれているから,ある意味では外来性の生物には違いないけれど,確かにその10年が何らかの意味を持ったかも知れないね.生物にとっては何の意味もない10年だけれど,日本はたまたまそこで歴史が動いたからねえ.運が悪かったと諦めるしかないなあ.

minilogo.png外来生物って最悪のイメージだよね?
そうかなあ,松井先生も「外来=悪」という単純なイメージではないといっている.最近では,研究者も,外来かどうかではなく,純粋に侵略的かどうかということを評価すべきという論調にもなっている.少なくとも,農業上欠くべからざるセイヨウミツバチに外来生物法を適用して何らかのアクションを起こす必要は,一部の野生化が問題になっている地域を除けばないだろう.

minilogo.png女王蜂の国内・国外移動に関しても問題視されているけれど,農業資材として全国で使われているしねえ.県境を越える転飼の場合は,病気の検査もしてもらってはいるんだけど.この本でも紹介されているように,名古屋大学の門脇先生が,国内にすでにさまざまなウイルスが広く浸潤しているっていってるね.やっぱりそれはミツバチのせいかなあ?
養蜂のスタイルが,花を求めての移動や受粉目的の移動が前提だから,防疫体制はあっても,それが病原の分布拡大防止にまで実効があるとは思えないな.発症していなければ,見落とされるし.ただ,日本にはニホンミツバチがいるから,種間での病原のやりとりが何らかの想定外の問題につながることもあるだろう.かつてのタイサックブルード(東南アジアのトウヨウミツバチが壊滅的被害を受けた)や,最近のノゼマやダニも種間で病原が往来することで問題化している.とはいえ,こうした厄災が,病気に強いミツバチを作っていく可能性もあるので,一元的には論じきれない.

minilogo.pngニホンミツバチさんの長距離移動の是非の問い合わせは,これも国内外来種という意味で? あるいは病気を危惧してのことなの?
同じ場所に血縁関係の近い群れを多数置くと近親交配が促進される.その影響を排除するために,あるいはよりよい品種作りを目指して遠隔地のニホンミツバチを導入して交配させるため,国内の長距離移動をするということらしい.一方で,そのことが,地域の個体群の特徴を喪失させ,遺伝子の多様性を失うことにつながるとか,病気の蔓延だとかが,心配されている.

minilogo.pngつまり国内外来種になるということ?
沖縄や北海道に関しては,少なくともニホンミツバチの自然分布域ではないので,それらの地域へのニホンミツバチの持ち込みには慎重でありたいね.それ以外の地域でも,どの程度,均質化が問題となるような遺伝的多様性があるのかもわかってはいないので,遠隔地のニホンミツバチを移動することの是非は問いにくい.予防原則的には,もっといろいろなことがわかるまでは移動しない方がいいといういい方もできる.

minilogo.pngミツバチは基本的には近親交配には強いはずだよね? だって,知られざる雄蜂の働きかも知れないけど,未受精で遺伝子を母親からだけ受け継ぐ雄蜂が,生きていくのに不都合なほどの遺伝子は,引き取って死んでくれるから.それなのに移動してまで交配する必要があるのかな?
近親交配耐性といういい方をすれば,確かに強い方だろうね.それと,多回交尾で,もともと群れの遺伝的多様度を上げようとしているから,多少不都合なものが入っても,影響は限定的なことが多いだろうね.

minilogo.pngそれなら遠隔地からの導入はやめた方がいいわけ?
ニホンミツバチでは分蜂利用で蜂を増やすから,ある人の飼っている蜂は血縁的に近くなりがち.そのため,特定の血縁集団が維持され,そこで交配が起こり,結果として継続的に血が濃くなっていく.そのことが,どの程度の影響になるのかはわからない.ただ,遠隔地でなくても,その地域の集団内で交配を繰り返せば改善可能だろうから,地域内でミツバチのやりとりをするくらいがちょうどいいかも知れない.
それと,飼育者が近交弱勢と思っている状況が,飼育という行為自体が与える影響,例えば過密で餌資源が競合しているとか,人間が与えるストレスや餌の問題とか,同じ巣を使い回していることとか,多様なことに起因している可能性も否定できない.各地でまだ原因不明の病気や異常現象が起きているのに,あえて今ミツバチを移動する必然性は感じないけれど.


minilogo.png外部からの血を入れないように,地域の集団を維持することは重要なことなの?
遺伝資源を守るという観点では一定の意味はあるだろう.とはいえ,特定の集団を守りたいのも,外来の血を入れて改良したいのも,どっちも,人間の都合にちがいない.繁殖を人間が完全にコントロールできる家畜であれば,その両方向を両立できる.だから,実は,ミツバチは家畜なのかそうじゃないのかという問題でもあるんだ.繁殖をコントロールできない点で,ミツバチを「家畜」とは呼べないから,その点で改良という方向だけを優先するのは危険かもね.ミツバチはもともと群れの遺伝的多様度を高めて,適応性を上昇させている.人間が高密度で飼うことは想定外の状況かも知れないが,それでもなお人間の行為はお節介にしかならない可能性が高い.

minilogo.png生物多様性では,遺伝子の多様性も取りあげるけれど,ミツバチはひとつの群れでそれを実現しているってことだよね.
そういうことになる.構成員を遺伝的に多様化することが,血を濃くすることよりも,社会を維持する上で,長期的な展望に立てる最重要要件だったんだろう.進化におけるこの選択は,ある意味で,エポックだったと思う.公平ということを誤解して,思想や教育で構成員を均質化することが,近代国家の成立要件だったという人間の歴史をふり返れば,ミツバチに見習うべきところは特にこのあたりにあるのかも知れないな.

minilogo.pngこの本にも,受粉を通じてのミツバチの経済価値が世界の農業食料総生産額の9.5%って書いてあった(2008年の独仏の共同研究).いろいろな家畜がいる中で,小さなミツバチが食料の1割に相当する働きをしているってことでしょう? すごくない?
実際,すごいと思うよ.お世話になっています.計算方法とか,研究者の考え方によっても異なってくる数字だけれど,いずれの研究でも,ミツバチの存在は有意だよ.それだけにミツバチ不足で大騒ぎしたわけで.もっとも今年の沈静化は嵐の前触れっぽいと予測する人もいる.夏に向けていっそう頑張って.

minilogo.pngこの上まだミツバチに頼るのか.人間も頑張って,ミツバチのためにも何かして下さい.あと,最後に.言い出しにくかったんだけど,ひとつだけ文句があった.セイヨウミツバチの挿絵.これじゃあ,イソギンチャクにとらわれた醜いカラスの子だよ.もうちょっとかわいく描いて欲しかったな.
なるほど,こりゃ目つき悪いね.確かにイソギンチャクにとらわれている.そうか,それを気にして今日は元気がなかったのかな? 一応,女の子だもんなあ.
minilogo.png「一応」は余計だよ.確かに,「一応」なんだけどさ.


外来生物クライシス (小学館101新書)

外来生物クライシス (小学館101新書)

  • 作者: 松井 正文
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2009/12/01
  • メディア: 新書




posted by みつばち at 10:50| Comment(0) | TrackBack(0) | ミツバチの気持ち by Junbee | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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