2010年05月06日

農薬だらけ?の田舎でハチミツを作る

「ミツバチって農薬がある花には近づかないし,自分の体に農薬がついたら巣に戻らないらしい.だから,他の農業で使用している農薬だらけの田舎でハチミツを作るよりも都会のビルの上で作るほうが理にかなっている」とかいうまことしやかな文言が,ある番組をきっかけに皆さんの頭にすり込まれているそうです(申し訳ないけれど,私はテレビの取材は受けても,普段はテレビを見ないので,そんなことになっているとは気づきませんでした).

まあ,ある意味ではある種の「都市伝説」っていうやつでしょうかねえ.もし都市に住んでいる方が,どこか田舎(例えば水田地帯とか)に行ったら,農薬だらけだと感じるのでしょうか.感じない? それは生物として危険な退行ですよ.化学物質(これもひどい表現だけど)には敏感でなければねえ,とか冗談のひとつもいいたくなります.

正直,この題材で書くようにリクエストをいただいたものの,ちょっと住む世界の違いを感じ過ぎちゃいます.辛口ミツバチに聞くまでもなさそうだけれど,愚かしい人間の考えについて聞いてみました.


さて,冒頭の考え方だけど,ハチミツを生産するミツバチの立場からはいかがかな? つまらないことに付き合わせて申し訳ないというか,そんな呆れた目で見ないで欲しいんだけど....
minilogo.png人間って,本当に都合よく物事を考えるね,都合よく生きたいから,こんな文言を信じたいんでしょう.信じていれば? これは「風が吹けば桶屋が儲かる」的な因果連鎖というやつでしょう.武庫川女子大の丸山健夫先生の「『風が吹けば桶屋が儲かる』のは0.8%!?」でも読んでしっかり勉強しようよ.

因果連鎖以下だよ.少し,この文章を解剖してみよう.「ミツバチは農薬がかかっている花には行かない」.これは,ミツバチにその能力があれば農薬の被害を受けないことになるね.
minilogo.pngもちろん関知できる異常があればミツバチはその花には行かないと思う.野生のニホンミツバチさんの方がそのあたりは警戒心が強いだろうし,セイヨウミツバチはその点は多少は鈍感かもね.人間のそばで生きていくということは,実際そういうことなんだから.
ただ,農薬被害は現実に起きている.だってミツバチがいるところに農薬撒かれたり,撒いたところに行っちゃえば農薬浴びることになる.農薬被害の蜂群では,貯蔵花粉中に高濃度で農薬が見つかることもあるから,花粉と一緒に農薬を持って来ちゃうこともあるってことだ.その程度に,花に行くのが必死で,多少の農薬なんか気にしてられない.誰かはミツバチをカナリアに例えるけれど,それはまったくもって根拠のない話だよ.敏感じゃないし,どうせ繊細でもないっていいたいんだろうけれど,なりふり構っていられない程度には花に困っているんだ.


次は,ミツバチは「農薬を浴びたら巣に戻らない」そうだ.この春,学会発表があったけれど,致死量以下では対照区との差が出なかった(参加した方の話を総合すると,実験自体が破綻していた感じはするけれど).これももし本当なら,そのこと自体は,自らを犠牲にして巣の仲間を救うことになるわけで,もし農薬がそのように効果を持つのであれば,あるいはミツバチが自分の身の上の異変を自死という形で群れの存続を優先するように動くなら,結果的にはよいことと評価できちゃう.
minilogo.pngネオニコチノイドは神経に影響するから方向感覚を狂わせるといういい方もされるけれど,以前から有機リン剤や合成ピレスロイドでも,方向感覚が狂うという報告はあったよ.人間だって,酔っ払ってまっすぐ歩けないことはあるでしょう.中毒状態ならなおさらだよ.ミツバチは,病気や何らかの不調になると,基本的には巣を離れることが多い.もし巣の中で動けなくなれば,死体捨て専門の働き蜂(アンダーテーカーという)が捨ててくれる.アンダーテーカーは,人間ではペストの時の死体処理人のように,死体処理だけを専門にやる特殊な存在.病気や毒物がアンダーテーカーを蝕むまでに,巣の衛生状態はかなり復元されるってわけ.ミツバチは,みんなが全体のために働いているから,結果的に自死になること自体は厭わない.もちろん,生産性の高い仕事を優先したい気持ちはあるけれどね.

「他の農業で使用している農薬だらけの田舎」は田舎の人が聞いたら怒るんじゃないかな.実際,こんなことを平気で口にできる感性が知れない.自分たちの食料がどこでどのように生産されるか知らないってことだろう.自分は無農薬の作物しか食べないので,農薬使っている田舎は軽蔑していますという意思表明とでもいうのかな.物理的に農村部は農薬の使用量は多いから,農薬だらけという表現はあながち間違っていないかも知れないけれど,現行法の規制の厳しさや,訳もわからず無農薬崇拝をする一部の消費者に対応するため農家がどれだけ苦労しているか,そういう部分を知らなさすぎると思うと,腹立たしい.
minilogo.pngただの田舎への偏見だと思う.でも,そう言わないと都市の人間は環境的に誇れるものがないからでしょう.人間のその次元の言い争いのレベルの低さにはうんざりする.その程度のことで戦争までして,森を焼き尽くして.始まりは本当にどうってことのない人間の欲同士のせめぎ合いだったりするからね.他の生き物からはやっぱり迷惑な生き物だよ.

最後の「都会のビル」は田舎の対比で出たんだろうけれど,これはまたよくわからない.都会にもミツバチを飼うにふさわしい場所はあるかも知れないが,ビルだけなのかな.このあたりは逆に田舎の人間の都会への偏見が織り込まれている感じがする.田舎にはない「ビル」でなければ,みたいな.
minilogo.png確かに,この文言は,田舎を軽蔑している中途半端に田舎の人(東京じゃ都市に住んでいる人の多くがそうなのかも知れないけれど)の発言のようにもとれるね.本当の都会人はビルをありがたがったりはしないでしょう? ビルが好きならそれはそれでいいけれど,だからそこでミツバチを飼おうとは思わないんじゃないの? 田舎は嫌いでこき下ろしたい.都市では,でも,これといっていいものを見つけられないので,田舎にはないビルを示して,これでどうだみたいな.ほんっとに下らないねえ.人間がある意味で生物多様性のキーストーン種なんでしょう,実質的には(だから会議まで開いてる).そりゃみんながいうようにいつか滅びるよ.アインシュタインの予言を裏切って,ミツバチは人類滅亡後まで生き抜いてやるけどね.

いやいや,そのアインシュタインは出所不明だし.でも,当然,反対意見もある.都市は,例えば排気ガスは田舎と較べてすごいだろう.そうしたものがハチミツ中に含まれている可能性もある.北欧では,大気汚染物質を調べるのにはハチミツが向いているという研究者もいる.安全を損なうほどではないから,食品としての問題としないなら,残留レベルとして問題のない範囲で入る可能性のある農薬にも同じ態度でいればいい.というか,実際に田舎に行って,やっぱり空気がおいしいと思うことは多い.そういう自分の感性を信じないで,だれかのそれっぽい言葉を信じる気持ちがわからない.
minilogo.pngネオニコチノイド系の残留基準が日本は緩すぎるということで議会で質問した議員さんもいるみたいだね.ミツバチ的には,そういう意見でもまかり通って,農薬が減ればありがたいけれど,やっぱり科学性がないと,今度はどんなしっぺ返しが来るかわからないから,だめかもなあ.科学には科学で対抗できるけど,科学ではないものには科学では対抗しにくそうだよ.こういう考え方がみんなに受け入れられていく現状について,現職の理系の大学教員としてはどうよ?

おっと,そう向けてきたか.確かに困ったものだと思う.星占いを遊びとしてではなく信じちゃうとか,以前取り上げた「水からの伝言」とか,それっぽいけど,明らかに科学ではないものが,こうまで人の心をとらちゃうのは,逆に科学への関心をうまく高められていないということだろう.その点では反省しなきゃ.ただ,身近にミツバチのような生き物がいて,見るべきものが見えてくれば,研究者でなくても,ものをきちんと捉える目は養えそうだよ.ちゃんと人間以外の生き物がいることを理解してもらいたいし,メディアの偏った報道や,興味本位で作られる番組に影響されすぎないで欲しい.その点で自分たちの努力もまだまだ不足している感じはする.
minilogo.pngそのためには協力できる立場にいるのかな,ミツバチも.ミツバチネタでニセ科学がはびこるのはやはりミツバチとしても沽券にかかわる問題だから.ミツバチはいつでも情報公開するよ.知りたいことは何でも聞いて.ちゃんと聞いてくれればちゃんと答えてあげるから.


posted by みつばち at 19:01| Comment(0) | TrackBack(0) | ミツバチの気持ち by Junbee | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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