2013年05月08日

ハチミツ中から見つかったミツバチを救う成分

アメリカ科学アカデミー紀要にイリノイ大学のBerenbaum教授が率いる研究グループの論文が掲載されました.題して「セイヨウミツバチにおける解毒および免疫関連遺伝子のハチミツ中成分による増加型調節」です.要はあるハチミツ中の成分が,解毒や免疫にかかわる遺伝子の働きを増加させる要因になっていることを明らかにしたものです.その成分は,花粉中に含まれ,ハチミツ中からも見つかるパラ-クマル酸です.蜂群崩壊症候群が,栄養不足から,農薬や病原の影響を受けやすくなった状態と考えれば,このクマル酸によって誘導される解毒作用や免疫作用で,状況は改善されるでしょう.あれあれ,でも,辛口ミツバチはちょっと不満顔.論文を解説しながら意見を聞いてみましょう.
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実験の概要は,まずハチミツから抽出した4つの主要成分について,これをキャンディ(養蜂の世界では粉砂糖を砂糖水で練った餌のこと)に混ぜて,羽化したての働き蜂に与え,3日後に解剖して中腸をとりだし,遺伝子の発現状況を見たというもの.解毒というのは、毒物を代謝して分解,排泄することだけど,それに関わるいくつかの遺伝子の発現量が,クマル酸を与えたときに,かつその量を増やしたときに量に比例して増加するのを確認している.
minilogo.png本当はその時期は花粉をたくさん食べる時期だから,クマル酸だけじゃなくて,いろいろな栄養を取り込んで,一人前の働き蜂になる時期でもあるの.食べると体内にいろいろなものが入るから,当然,解毒能力だって高くなるに決まっているよ.何も生きているのを解剖しなくたっていいのに.

そりゃそうだ.でも,クマル酸だけでも,遺伝子の発現量が増える,つまり解毒能力が上がることがわかって,花粉に含まれる有効成分がわかったということについては,評価はできるよ.で,この人たちは,実際に意味があるのかどうか,取り出した腸から酵素液を作って,ミツバチの巣の中で用いられるクマホスという殺ダニ剤の分解を調べて,やはりクマル酸を食べた蜂では分解活性が高くなったとしている.
minilogo.png花粉を食べさせてもらえなかった働き蜂たちでさえ,その能力はゼロではなかたってことは,花粉を食べていれば,充分だったんじゃないの.花粉食べるとどうなるのか調べてないじゃない? 花粉だけでの効果の方が高ければ,クマル酸だけではなくて,他の成分にも効果があるということなんじゃないの.花粉には,この研究者たちが気づいてない成分だってたくさんあるよ.ここは肝心なとこだけど,私たちはクマル酸だけが欲しくて花粉を食べてるわけじゃないんだよ.

花粉が含有するクマル酸量は花粉ごとに変動が大きいから,花粉を食べさせると,クマル酸だけの効果なのか,ほかの成分にも意味があるのか,相乗効果のある成分もあるのか,評価はどんどん難しくなってしまう.もちろん,あらかじめクマル酸含量がわかっている花粉を食べさせることも可能だろうけど,その場合も他の成分の働き方は予測できない.構成が複雑な材料で研究成果を出すのは難しいことなんだよ.それでもクマル酸単独で,ミツバチを救う効果があるという事実は重要だと思うよ.
minilogo.pngで,この結果から,ミツバチには餌にクマル酸混ぜてやっとけよっていいたいんでしょ.サプリメント好きなアメリカ人らしい考え方だね.でも,そんなのミツバチは受け入れられないよ.

不足しがちなものをサプリメントで補うというのはある意味では合理的だろ.でも不足の原因は考えるべきで,食生活の見直しや,意味のある食料の入手には気を使う必要はあるだろうね.不足の原因がわかれば対策も立てられるし.
minilogo.pngあのさあ,ミツバチはさ,これまで500万年,花粉を食べて,問題なくやってきたんだよ.それなのに,今のミツバチは花粉が足りなくて不調だから,クマル酸でも食べさせとけって,それってどういう了見なの,おかしいでしょ.人間にはありがたい研究かも知れないけど,ミツバチにとってはそんなの当たり前のことだよ.人間の知識は増えたかも知れないけれど,ミツバチの体が変わるわけじゃないんだ.これまで花粉食べて普通にやってきたんだから,これからもそうさせてよ.不調の原因を私たちに求めないで.ミツバチは,餌じゃなくて,本当の花粉を食べたいんだよ.人間みたいに「餌」では満たされないの.もう,人間なんて何にもわかってないんだから!
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おやおや怒らせてしまいました.
栄養不足が,ミツバチの体力を奪い,農薬を解毒したり,病原菌に対抗したりする力を失わせているという認識は,全世界で次第に共有されてきています.どんな栄養が不足かというところで,五大栄養素や第六の栄養素といわれる食物繊維に続いて,第七の栄養素であるファイトケミカル(植物化学成分,植物栄養素)が人間の栄養学でも注目を集めています.今回の論文で扱っているクマル酸もよく知られたファイトケミカルの一つです.その機能性や効能がわかると,それを取り出して食べようというのは一つの人間的発想ですし,それを含む食材を食事の中に積極的に取り込もうというのもまた人間的な感覚です.
ファイトケミカル研究においては,研究者が調べた特定の成分だけに有効性があるわけではないことは暗黙の了解事項ですし,食事として摂取することと,サプリメントとして特定成分を摂取するので同じ効果が得られるという保証もほとんどないというのも定説化しているようです.同様の効果を持った未知の成分が含まれている可能性もあるし,単独では効果がないのに組み合わせると高い相乗効果につながるケースもあり得ます.
今回の論文は,花粉を食べたときとクマル酸を食べたときの差を評価できていません.また,腸管での解毒系関連遺伝子の発現を見ただけで,実際の解毒効果に関しては単一の薬剤の分解を見ただけで,その効果のレベルが高いかどうかは評価できていません.
生き物の中には,単一の食物のみを摂取するものもたくさんいますが,雑食性の動物もたくさんいて,特に長生きする生き物は多様な食物に頼らざるを得なくなりますます.ミツバチのように花粉だけを食べていると思われるものも,実は花がちがえば栄養性評価がかなり異なるので,いろいろなものを食べている部類に含まれます.
ミツバチがさまざまな花を訪れて,栄養価の異なる花粉を食べているのは,そういう意味で「わかってて食べている」ことなんです.そして,それがミツバチにとって普通に食べることなんです.都会では,こんなのよく見つけたなという小さな植え込みにでも行って,蜜や花粉を集めてくるミツバチ.そこまですることにはこんな意味もあるわけです.とすれば,現状でミツバチたちにしてあげられることは,飼って,面倒を見てあげることではありません.ただでさえ,花が少ないのに,手厚く保護されるミツバチの数だけ増えたらどうなるでしょう,それとも餌だけ与えて生かしておくのでしょうか?
飼う前にするべきことは,食べ物になる花をいろいろ植えてあげることでしょう.栄養価の異なる花粉が手に入るように,植栽を多様化させることが,ミツバチにとっては,ようやく人間がやってくれることで意味のありそうなことになるのかも知れませんよ.


ラベル:科学の目
posted by みつばち at 11:13| Comment(0) | TrackBack(0) | ミツバチの気持ち by Junbee | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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