晩夏、それはスズメバチたちの活動が活発化する季節でもあります。
昨年は、連携先のカフェスローの土台部分の排水溝跡に自然営巣していた日本みつばちの巣が、オオスズメバチに襲われ、全滅してしまいました。
そのとき、窓ガラスを開けて、穴をうかがっていた私の目の前に一匹のオオスズメバチが現れ、威嚇してきました。
あわてて窓ガラスを締めましたが、ガラスの向こうから睨み付けられ、とてもコワイ思いをしました。襲った巣を占拠している間は、もっとも攻撃的になるそうです。そう聞いて以来、なぜこのときに攻撃的なのか、そもそもなぜ秋に集中して集団で巣を襲いにくるのか、などなど、オオスズメバチには興味深々でした。
それらの疑問にすべて応えてくれるのが百田尚樹さんによる「風の中のマリア」です。
今、みつばち百花のメンバーの中でのベストセラーです

ヒロインは、なんとオオスズメバチのワーカーのマリアです。
アストリッドという女王が率いる帝国のもっとも勇敢な戦士マリア。
物語は、そのマリアの生きざまを通して、オオスズメバチの生態が語られ、ほかの虫との関係性が明らかにされていきます。
オオスズメバチは東アジアにのみ分布。なのに、なぜゲルマン系の名前なんだ?という疑問は湧くのですが、まあ、そこはオオスズメバチのお千代じゃあ、雰囲気出ませんから。
学名のヴェスパ・マンダリニア・ジャポニカからイメージされたのかもしれません。
「ヴェスパ・マンダリニア オオスズメバチの身体は、そのすべてが戦いのために作られたものだと言っても過言ではない」
とあるようにトランスフォーマーもびっくりの最強の戦闘能力を持っている。
どんな昆虫もかみ殺す巨大な顎と固い牙
何度でも刺すことができる針
獲物につきたてる鋭い爪
抜群の動体視力を誇る眼
甲虫に匹敵するほどの強固な身体
桁外れの飛翔能力
狙われたら最後、どんな昆虫も逃げられません

いやはや、人間でよかったです。いや、人間といえども、できるだけお近づきになりたくないです。
この最強の戦士の一匹であるマリアが、帝国を支える優秀な戦士となる過程で、自分たちの生きざまにさまざまな疑問を持ち、悩みながら成長していく様子が描かれています。
どうして私は卵を産まないのだろう、とふと思ったり、襲いかかった虫に「恋の一つもできないくせに」などと罵られたりして、どこか一抹のさみしさを感じるあたりには思わずほろっとしてしまいます。
どんなに勇敢な戦士でも、オンナなんです…マリアも。
一方、どうしてオオスズメバチは集団で襲うのかという疑問は、しっかり解決。ぜひ、本書をお読みください。ほかのスズメバチとの関係性も実に興味深いです。
そして、なによりも日本みつばちと西洋みつばちとオオスズメバチの三つ巴の関係性は、彼らの生きてきた歴史ゆえの、自然界における関係性の緻密さと巧妙さに感心させられます。
日本みつばちにとって天敵であるオオスズメバチが、実はサポーターである一面も…これは読んでのお楽しみ。
餌食になる虫たちの小ネタも、いずれもとても興味深いです。
昆虫界、なかなか厳しい世界です。
人間界が一番楽かも、なんて思いました。
昆虫界におけるミツバチへの理解も進むし、なによりもオオスズメバチや昆虫たちが、ちょっと身近に感じられる、何度も読み返したくなる物語です。ぜひ、ご一読を!
画像の本の帯に書かれている、同じ作者による「永遠の0」も、お薦めです。
こちらは、戦争のときのお話です。昆虫とは、まったく関係ないです。