2011年04月01日

放射性物質除去にヒマワリ?

福島の原子力発電所事故では多数の方々が避難を余儀なくされ,また現場では廃炉に向けて懸命の対策が実施されています.この原発からの放射性物質の放出は,みつばち百花の提携先のひとつである飯舘村にも深刻な影響を及ぼしています.問題は福島県全体,あるいは日本全体の問題として,農作物の出荷停止や日本製品の輸出困難にも発展してきています.
そんな中,ヒマワリが放射性物質による土壌の汚染除去に役立つという情報がインターネット上に流れています(私は番組を直接見てはいないのですが,テレビ番組がきっかけのようです).ヒマワリは,花が少ない夏に咲く蜜源・花粉源植物でもあり,みつばち百花としても注目していますが,そうした記事を見ると「放射能で,人が住めない状態なら,まずはヒマワリで放射性物質を除去…」と反応する方も多いでしょう.一方で,どの程度本当のことなのという書き込みも.基本にしたがって,原著論文にあたってみることにしました.いつものように辛口ミツバチにアシスタントをお願いします.

ちょっと長くて恐縮だけど,比較的ちゃんと引用している印象がもてるサイトでの表現を先に確認しておこう.
「植物には根っこから土壌の放射性物質を吸収するものもあるそうで、その中でもヒマワリが最も吸収の効率が良いのだという。土壌の放射性物質の除去までに30年以上はかかると言われる場所でも、わずか20日で95%以上を除去したという記録が残っている。
 1995年に米ラトガーズ大学のスラビック・デュシェンコフ博士ら旧ソ連出身の植物学者達が、チェルノブイリ原発から1キロ離れた池で20種類の植物を栽培し、ヒマワリがセシウム137を根に、ストロンチウム90を花に蓄積することをつきとめた、という研究報告がある(日本テレビ系(特命リサーチ 200Xより)」〜
出典:ゆかしメディア
多くの人がこの記述を参照しながら,多少なりとも温度差のあることを書いて,情報拡大が起きている.さて,該当する原著論文はあるのかな?
minilogo.png入手できた中に,この実験を詳細に解説しているものはあった.
Slavik Dushenkov, Yoram Kapulnik, Michael Blaylock, Boris Sorochisky, Ilya Raskin, Burt Ensley. 1997. Phytoremediation: a novel approach to an old problem(ファイトレメディエーション:ある古い問題への新たな取り組み). Studies in Environmental Science, 66: 563-572(この特集号は,Wiseという人が編集者になって,Global Environmetal Biothecnologyというタイトルでハードカバー書籍としても出版されている)
本人が解説しているとはいえ,原著ではないので,いくつか情報が落ちているのかも知れないね.ただ,論文自体は本人サイトで確認したので,相当する原著がないのも確かなんだけど.

情報源に関しては,最大限入手したということで,進めていこう.サイトの記述からは,研究者たちは,チェルノブイリ原発跡から1km離れた池で20種類の植物を栽培して,放射性物質の吸収効率を較べてみたという感じだね.ヒマワリを池で栽培? 本当かな?
minilogo.pngこの論文では2つの実験が紹介されている.第一の実験は,その池からセシウム137とストロンチウム90を含んだ汚染水600Lをキエフの実験施設に運んで,温室の中で,発芽8週目のヒマワリ4株につき50Lの汚染水で水耕栽培して,汚染水の浄化を計測したもの.第二の実験は,その直径10mほどの池で,1m四方の発泡スチロール製の浮島を作って,数種の植物を栽培し,4〜8週後に植物を回収して乾燥し,地上部と根部でセシウム137とストロンチウム90がどのくらい含有されているかを計測したというもの.

第二の実験の方がちまたに流れている情報源のようだね.
minilogo.pngそちらの結果は,セシウム137については,ヒマワリの根で,イネ科のチモシー(オオアワガエリ,牧草)やオオスズメノテッポウの根の8倍の生物濃縮が見られた.ストロンチウム90は地上部の方に高濃度に濃縮された.ちまたの情報で「花」とされているのは地上部のことだよね.他の研究(Wen et al. 2009. Bull. Bot. Res. 29: 592-596)では地上部でも特に葉に濃縮されるらしい.花に行くとなるとミツバチ的には警戒しなきゃ.いずれにしてもヒマワリは,汚染物質の根圏ろ過システム(根を通じて水系の汚染物質を除去するシステム)として優れていると結論している.生物濃縮の効率からは,この池のすべての放射性物質(セシウムとストロンチウム)は乾燥重にして55kgのヒマワリがあれば完全に除去可能だって推論してるよ.最終的に,このヒマワリを灰化して,ガラス化してしまえば,放射性廃棄物として保管可能,という筋書きで,期待が持てそう.

「30年はかかるところを20日で95%除去」の根拠はこの論文には示されていないようだね.
minilogo.png30年という数字は,放射性物質のセシウム137,あるいはストロンチウム90の半減期の近似値みたいだね.だからそもそも汚染がそのままなら30年でなくなるということではないんじゃないの.95%は,Dushenkovさんの別の論文(Dushenkov. 2003. Plant & Soil 249: 167-175)でヒマワリの根圏ろ過システムで汚染水中のウランを24時間で除去できる最大効率として述べている数字かなあ.20日はわかんない.元の論文の第一の実験では12日間で(ヒマワリは2日ごとに取り替えているけれど)セシウム137は90%,ストロンチウム90は80%除去できたとしているけれど,これでもないし.

原著がわからないのでその辺は不問としておこう.ただ,いずれにしてもヒマワリに放射性物質汚染を浄化できる能力があるということは間違いないようだね.植物を栽培するには太陽のエネルギーだけでよいわけだし,時間はかかるけれど,低コストでいい方法だと思える.じゃあ,やっぱりヒマワリを植えましょうということになるね.
minilogo.png待ってよ,結論を急がないで.この実験は水耕栽培だから,汚染水の浄化の話だよ.水に溶解してる放射性物質をヒマワリが取り込むということであって,土壌の汚染とは話が違う.汚染土壌にヒマワリを植えて同じ効果が期待できるとは誰もいってない.Dushenkovさんも土壌中での放射性物質の動態は水の中とはちがうと別の論文(Dushenkov et al. 1999. Environ. Sci. Technol. 33: 469-475)で述べている.

なるほど,その論文では,実際にどんなことをやっているのかな?
minilogo.pngチェルノブイリの事故(1986年)後,やっぱり重要な問題は汚染土壌をどうするかということだったんだって.いろいろな方法があるけれど,彼らはやはり植物による浄化をやりたかった.植物を使う場合,まずは,植物が利用(吸収)しやすい形にしなきゃならない.そこで土壌中のセシウム137をどうすれば溶解性の形に変えられるかという問題に取り組んでいる.

水圏汚染の場合は放射性物質が水に溶けた形で存在するけれど,土壌の場合はそうではないということか.汚染土壌を水の中に放り込んだら,汚染物質が水に移っていくだろうから,その水を使ったヒマワリの水耕栽培をすればよさそうだけれど,どう?.
minilogo.png土壌を水で洗ってもセシウム137は溶け出さない.土壌中で他の土壌成分に吸着したり,他のミネラル分と結合して結晶体になったりしていて,水に溶けにくいんだって.強い硝酸なんかを使っても20%くらいしか溶け出さない.実験では133gの土に,1Lのアンモニウム塩溶液を加えて24時間振盪させると4%くらい溶解させることができるので,それが実用的だという感じで述べている.実際には土壌に多量のアンモニウム塩を土壌改良材として撒かなければならない感じだよ.

フィールドで実際にやるのは難しそうだね.
minilogo.pngもちろん試験的にはやってるよ.15cmの深さで耕して種を蒔いて,育てた植物の地上部を取り除く.植物にどのくらい取り込まれたかと,地表面のセシウム137による放射線量を測定して,土壌からの放射性物質の減少をモニタしている.

結果からはかなり減少しているように見えるけれど,実用性はどうなんだろう?
minilogo.pngいくつか問題がある.セシウム137は急速に土壌中の他のミネラルと結合していくので,汚染後すぐなら効果が高いらしい.この実験はチェルノブイリの事故から10年以上経っているので,除去できるセシウム137は全体の10〜25%程度ではないかと推論している.セシウムの溶解を促進するために土壌改良材を利用するとしても,早ければ早いほどいいみたい.

実行するとすればやはり急いだ方がいいようだね.ではやっぱりヒマワリの出番か?
minilogo.pngヒマワリ? セシウムはヒマワリの根に蓄積するというのは先の実験の通り.土壌浄化の場合は,地上部を除去するやり方になるから,地上部への生物濃縮が可能な植物が必要.この実験でもヒマワリではなくてナタネの一種を使っている.だからヒマワリで土壌の放射性物質除去は現実的ではないことになるねえ.

え,だとするとサイトで紹介されていたものは? テレビ番組は何を根拠に?
minilogo.png水と土壌ではちがうことという意識がなかったのかもね.あるいはヒマワリを植えて,根こそぎ回収するなら意味があるとでも思ったのかな.Dushenkovさんも,2003年の論文で「ファイトレメディエーションによる放射性物質の浄化は環境管理やリスク低減化プロセスにおいて不可欠になるだろう」っていってる.まだまだ発展途上の技術だけど,将来に備えていこうっていう気持ちは読み取れるよ.ただ,この2003年の論文以降,Dushenkovさんはいっさいファイトレメディエーションの論文を書いていないのが気にはなるね.もちろんこの分野は今でも研究は盛んなようだけど.

事故は技術の完成を待ってはくれない.少しでも実用性があるなら,低コストだということも含めてやってみる価値はあると思う.植物が利用できるセシウム137の濃度が下がれば,その後そこで栽培される作物への放射性物質の土壌からの取り込みは限定的になるだろう.ただ,もちろんその後も土壌中に残るものをどうするか,難問は続くけれどね.
minilogo.png今は,みんなができることを一生懸命考えたり,調べたり,実行に移す準備をしたり,それから知恵を集めるときなんじゃないのかな.そのためには思い込みや短絡的な判断は避けて欲しいよね.きちんとプロジェクトとして動いてくれて,情報や予算や知恵が集まるのが望ましいんじゃないの.
今,福島の原発の周囲には,ミツバチもたくさん取り残されている.20km以内に取り残されたミツバチは避難もできない.その意味ではミツバチもまた被災者なの.「これから」にミツバチの力が必要なら提供したいです.




posted by みつばち at 14:51| Comment(4) | TrackBack(0) | ミツバチの気持ち by Junbee | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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