2010年10月05日

どれだけミツバチがいるのが普通? 現状は危機的?

先般(8月21日),国立市でNPO法人くにたち富士見台人間環境キーステーション主催のまちかど講座「ミツバチがつなぐ夢」での講演の際,8.15平方kmの面積の国立市には,野生の状態ではミツバチが8群しかいられないという話をしました.でも,もっと飼っていますとは参加者の方々.住んでいるのと飼うとは別の話なんですが,ヨーロッパを中心とした研究で,飼われているミツバチの平均的な密度情報が含まれた論文が出ましたのご紹介.

これによればイギリス,フランス,ドイツは1平方km当たり1〜3群,スカンジナビア半島諸国はやはり寒いから1群以下,中央,南,東ヨーロッパになると数はやや増えていきます.これと密接に関係するのは実は年間平均気温.ざっくり見れば10℃で3群,20℃なら8群といった増加傾向.日本の各地の年間平均気温を大雑把に見れば,北海道が10℃,東北が15℃,関東以西が広範囲に20℃,沖縄が25℃といったところ.これに基づけば,国立では60群以上のミツバチを飼育できる計算.

もっともこの研究(ドイツのマーチン・ルター大学のJaffeをはじめ,ヨーロッパからアフリカ各国の研究者16名でデータ収集した大論文,出典は下記参照)のいいたいことはそれじゃありません.最近はこの「問題」を扱う研究も増えている,そんな事情を辛口ミツバチと見ていきましょう.
Jaffe et al. 2010. Estimating the density of honeybee colonies across their natural range to fill the gap in pollinator decline censuses. Conservation Biology 24: 583-593.


minilogo.pngそれにしてもヨーロッパからアフリカまで,すいぶん大規模な調査研究だね.ミツバチの密度はどうやって求めたのかな? 歩いて数えた?
さすがに16人の研究者では無理なので,25か所のサンプリング地で,半径2.5〜3kmの円内にどれだけミツバチが飼われているか,養蜂家にしらみつぶしに探してもらっている.今ごろはgoogle mapなんて便利なものがあるから,養蜂場があったらそれに記録してもらったらしい.公式な統計には含まれていない,無届けで飼われているものとか,趣味養蜂家のミツバチなんかも含めることができたそうだ.

minilogo.pngでも,それだけじゃ密度を計算できないよね?
もちろん.ひとつは交尾のための雄蜂の集合場所で雄を捕まえた.ひとつの集合場所にどのくらいの巣から雄が来ているかは,遺伝子を調べればわかる.近辺の巣箱から働き蜂も捕ってきてこれも遺伝子を調べた.これによって女王蜂がどんな雄蜂と交尾しているかがわかるから.あとは,そうして推定した,ひとつの交尾場所に飛来した雄蜂の数の中央値を,雄蜂の交尾可能な面積としての推定値である2.5平方km,あるいは女王蜂のそれとしての4.5平方kmで除算して求めている.

minilogo.pngわかったようなわかんないような.で,計算したらそれが気温と密接な関係にあったということと?
先に書いたとおりだけれど,年間の平均気温が高くなるにつれて密度の上昇が見られた.高密度なところは,遺伝的な多様度も高かった(飼われているミツバチだけど,いろいろな血筋のものが混じっていた).

minilogo.png気温だけが関係していて降水量は関係していないという結論だけど,雨が降れば餌を集めるのは不都合だよ
雨が問題になると思われるのは,雨季乾季のはっきりしたアフリカなど.でも,それよりは越冬がうまくいくかどうかにかかわる温度の方が生き残りには大きく響くので,より明確に蜂群密度に関係したということだろう.もっとも,熱帯では多少の降雨では負けずに採餌している印象もあるけどね.雨降りでも気温が高かったり,スコールのように短時間の降雨が多いせいかな.

minilogo.pngアイルランドとイタリアでは野生のセイヨウミツバチが見つかっているね.
飼われているものよりも蜂群密度も遺伝的多様度もやはり高かったそうだ.野生のミツバチの話は,ちょっと前にニホンミツバチの話としてしたよね.

minilogo.pngで,ここからが問題の部分だよね? この研究のいいたいところというべき? これまでにやられてきた野生のハナバチさんの減少状況の推定だけではヨーロッパの花粉交配の危機を訴えきれない.だから,セイヨウミツバチ,それも人間が飼っている方の事情を加えて,現状を洗いざらい見せようとしたというところかな.
よくつかんでるね.Jaffeたちは,ミツバチの蜂群密度や遺伝的多様度と各地の土地利用状況との関係を見ようとしたんだ.蜂群密度も遺伝的多様度も,自然の残っている未開発地では,農地に較べて高かった.ちなみに蜂群密度は未開発地では1平方km当たり11.88群で,対する農地では7.46群だった.ただヨーロッパだけに限ってみるとこの差はそんなにはっきりしない.ヨーロッパ全体では,公式統計から推定した蜂群密度とも差はなかったそうで,趣味養蜂家の寄与率は低いということでもあるのかな.

minilogo.pngヨーロッパでは土地の開発が盛んで,農業開発や森林減少が,ハナバチさんの生息場所を減らしたり,遺伝的多様度を低下させてしまうというのが問題なんだよね.
だいぶ勉強したね.でもヨーロッパだけじゃない.アメリカでは開発が進んだことで,野生のハナバチに期待される花粉交配への貢献度が,これまでの1/3〜1/6程度になったと見積もっている研究者もいる.その分,人間が飼うミツバチに期待しなければならないという状況にまですでに陥っているということだろう.で,そのミツバチの状況はと思って調べたら,というのがこの論文のストーリーだね.

minilogo.pngこれ自体,驚きなんだけど,ヨーロッパ全体としての蜂群密度が,カラハリ砂漠やサハラ砂漠近辺の乾燥地帯と同程度に低いという結果はどう考えればいいの? 寒い北欧は別にして,中央ヨーロッパでさえかなり低い密度だよね.ミツバチが希薄な感じ.
公式統計からの推測値との差がないことから,この研究で見てきたミツバチは基本的に飼われているミツバチの実像を表しているといっている.希薄といってもそれが人間が飼うことのできる精一杯の数なんだろう.で,ミツバチからすればそれがそこにいられる精一杯の数で,野生のものにはほとんど余地が残されていない.そのことは今後も開発が進めば,あるいは病気が流行すれば,ますます野生のミツバチは失われ,人間が飼っているミツバチだけが生き延びている状態になる.つまり「養蜂」なしにはヨーロッパのミツバチは絶滅する可能性まであるということだ.すでに砂漠地帯と同程度の蜂群密度ということは,その養蜂でさえが,ぎりぎりの状況で,本来の密度までミツバチを増やせないということだしね.

minilogo.pngでも,農業現場では,花粉交配用のミツバチをもっと必要としている印でしょう? もっとミツバチを増やさなければ,実もならないし,種子も採れなくなっちゃう.
ハナバチの減少に加えてミツバチが減っていることは,ヨーロッパの農地や,こちらも忘れちゃならないが,野生の植物を主体とする生態系全体での花粉交配に深刻な影響を与えかねない段階にある.Jaffeたちは,養蜂を,単にハチミツを生産するビジネスとしてだけではなく,生物多様性を維持するためにも不可欠な要素として理解しなければならないと結んでいる.そのためには,養蜂自体が成り立つ,なおかつ交配用ミツバチの生産も維持できる環境を作らなければならないわけだ.ただね,それは,ミツバチによって花粉交配の恩恵を受ける野生植物や,農地の作物が充分にあるということでもあって,だから花を増やしてミツバチを増やそうというのは,すごく特別なことではないはずなんだけどね.

minilogo.png農地として開発されたけれど,遊休地になっているところを,元に戻して,お花畑にしてくれればいい.ハナバチさんも増えられるだろうし,もちろん私たちミツバチも.結局,そうなれば今度は周囲の農地の花粉交配には私たちが協力できるってことだし.そして,そのことが,結局は人間も含めた生物多様性の維持になるってことだよね.
ヨーロッパでは,こうした方向での研究がここ10年くらいに盛んになってきた.あるべき状況を目指して,現状を推定,比較することで,ちゃんと訴える方向を見誤っていない.養蜂においても,できるだけ各地域に適応している在来のミツバチを利用することを推奨して,それによって病気の持ち込みも防ごうとか,ミツバチ自体の体力強化も含めて,全体的に守ろうという方向を打ち出している.世の中の流れに沿って研究を進めている点もうらやましいけど,こうした研究者ネットワークがちゃんと機能していることもうらやましいな.

minilogo.pngミツバチの立場では,目指しているものはぶれたことはないし,あるべき方向は自助的にも作っている.それなのに追いつかないのは,この環境を一緒に利用している人間のせいだと思うよ.うらやましがってないで,パートナーとしてはもうちょっと頑張って下さい!



posted by みつばち at 16:25| Comment(1) | TrackBack(0) | ミツバチの気持ち by Junbee | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする