2010年07月30日

「農薬とミツバチ」問題を考えるということ

ミツバチ上科の蜂類の研究を扱う国際的な学術雑誌Apidologie(ミツバチ学)で「ミツバチの健康」特集が出ました.今年,Journal of Apicultural Research(養蜂学研究雑誌)での「ミツバチの蜂群損失」特集,Journal of Invertebrate Pathology(無脊椎動物病理学雑誌)での「ミツバチの疾病」特集に続く第三弾.いずれも近年のミツバチの損失に関しての研究者の関心の高さをよく表しています.各特集の紹介は後日然るべきところで行いますが,今回の特集の中に,ネブラスカ大とペンシルバニア州立大の研究者の共著による「アメリカにおける農薬とミツバチへの毒性」という論文があります.このタイトルでカバーされる範囲は広く,日本で関心を集める部分だけではどうやら語り尽くせそうにありません.いつものように,辛口ミツバチと一緒に概観してみます.

minilogo.pngこの人たちは1985年までとそれ以降で農薬とミツバチの関係が変わったといっている.どうしてかな?
1985年までは,外勤蜂が巣の外で,果樹などの作物に散布された農薬に暴露するというのが,農薬問題の基本だった.それがダニの被害が深刻になるにつれて,殺ダニ剤が巣箱内で多用されるようになった.また耕作地では,植物自体が殺虫成分を作る遺伝子を導入されたGE(遺伝子工学的な)作物の栽培面積が増えた.さらに,これまでにはなかった浸透性の農薬が使われるようになった.ミツバチを取り巻く農薬はその頃を境に大きく変遷したということだろう.

minilogo.png農薬によるミツバチの被害は古い問題でもあるんだね.
アメリカでの1966〜1979年の蜂群の損失の大半は,有機塩素系,カルバメート系,有機リン系,ピレスロイド系農薬による被害だという.花期の散布を制限したことで,一定の被害減少にはつながったみたいだけど,長期的な残効性による被害に関しては,まだわからない部分が多いそうだ.

minilogo.png日本では最大(?)の関心事になってるネオニコチノイドはアメリカではどう位置づけられているのかな?
現在,よく普及しているネオニコチノイド系とフェニルピラゾール系の農薬は,これまでの農薬と違って「浸透性」というのが売りで,植物体内に浸透して,植物の内部を食害する害虫に効果を発揮する.葉や茎の中に潜り込むような害虫には外から農薬をかけても効果が出ないけれど,これなら有効なので,多数の作物で利用されている.
こうした薬剤利用が増えることで,直接暴露によるミツバチの被害は減るという一面はある.一方で,花粉や花蜜中に長期的に現れる薬剤による影響は起こり得る.これが,どこで釣り合うかという問題という位置づけらしい.


minilogo.pngつまり被害の方が大きいということかな.この人たちもネオニコチノイドと蜂群崩壊症候群CCDとの関係に言及しているよね? ミツバチに対する毒性が高いから?
急性毒性が高いということでならこれまでの農薬ととりわけ区別して考える必然性はないかもね.ただ,単一投与の急性毒性よりも,低濃度での長期的な暴露の方が影響が大きいという報告が多く,さらに,そうした状態だと,例えばノゼマのような病原の影響が強く出るようだ.こうした影響はまだ研究段階で,もっとデータがないとはっきりしたことはわからない.ただ,慢性的な毒性は,寿命の短い(失礼!)ミツバチでどこまで大きな影響かはわからないな.

minilogo.pngはっきりしないなあ.結局,ネオニコチノイドは危険だと思うべきなのかな?
特定の昆虫に対する特異性はないから,その意味で,今までの農薬と同じように危険ということ.加えて,アメリカでは種子消毒や土壌消毒の目的での使用が中心らしいので,浸透性による長期的効果に関心が行きやすいようだね.日本では,散布による影響の方が表面化しているので,事情が違うかなという印象だ.いずれにしても,ミツバチの立場からすれば,危険だと思うしかないだろう.その点では新しい情報ではないかもね.

minilogo.pngそうかも知れない.で,「農薬問題」は普通はここまでで終わりだけど,この論文はそれだけではないんだね.殺虫成分を作る遺伝子を導入した作物も取り上げられている.これも以前,結構,問題視されていたよね?
著者は遺伝子導入作物はミツバチには有益という言い方をしている.というのは,こうした作物に導入されている毒性は,もともとは細菌の生成するタンパク質によるもので,これが消化管内でチョウ目やコウチュウ目など標的昆虫の受容器と結合して初めて効果が現れる.ハチ目のミツバチでは受容器が異なるし,幼虫の成育に影響がないことも多数の研究によって確かめられている.
同時に,こうした作物では,圃場での殺虫剤の散布は限定的になるので,ミツバチが影響を受ける確率はごく小さくなる.その点ではミツバチにとってはいいことづくめともいえるかも.
日本では遺伝子導入作物の栽培には,一方的な懐疑感や嫌悪感が先行しているけれど,ミツバチとの関係で見れば,もう少々,少なくとも研究開発には理解が欲しいなあ.


minilogo.png人間は難しいんだね.ミツバチは遺伝子導入作物だって,利用できるものなら分け隔てなく利用するけどね.
それより,これが問題かも.巣箱の中で使う薬剤も問題なの?ダニの薬は私たちミツバチにとってはありがたい存在だと思っていたけど,本当はそうではないのかな?

日本でも,そして世界的にも広く使われているフルバリネートはピレスロイド系の化学物質,アメリカではこれ以外にも有機リン系のクマフォスが利用されている.これらは巣のろうに吸着して長期残留する.以前から生産物(蜂ろう)の汚染だけではなく,ダニが低濃度の薬剤に晒されるうちに耐性を獲得する可能性が指摘されてきた.この論文では,この蓄積性ゆえにミツバチ自身への影響もあるとしている.アメリカではフルバリネートが204ppmで巣に残留していたという報告もあるからね.それではミツバチにも影響が出ちゃうだろう.

minilogo.pngそんなに高濃度で残留するなんて.ダニ剤も殺虫剤と同じグループなんだね.水溶性が低いからハチミツに移行しにくくて,こうした問題が表面化しにくいのかな.それにしてもミツバチにも影響があるなんて...
考えようによっては,よく効く薬ほど,副作用を覚悟するものでもあるよね.ダニの防除を何よりも最優先する必要があれば,こうした強力な薬剤を使うことに躊躇はないけれど,本当は診断に基づいて,もっとマイルドな効果を示す有機酸などから,症状に応じて適切なものを選べるのが望ましい.現行法の中では多用な薬剤・成分を自由に選択はできないから,巣板の更新頻度をあげるなど,残留を防ぐ工夫が必要になるだろう.

minilogo.pngこうしてみてみると,ミツバチと農薬の関係も単純ではないんだね.最近は増えているみたいだけど「農薬問題」の専門家はこうした広い見識で,農薬の開発指針とかを訴えてくれたりはしないんだね.
残念ながら,彼ら自身が狭義の,特定の「問題」の専門家だということで,問題を自家生成することでその問題の専門家になっているので,あえて広範囲なものの見方はしにくいのかも知れないね.開発指針は専門外だから語らないなら,農薬の関係者の顔をするのもどうかなという気もするけれど.一方で,本当の意味で農薬を理解しているはずの人たちの意見が一般向けにはなかなか出てこないのも,そうした専門家さんたちに出番を与えることになっていると思う.そのことも,考えようによっては,ミツバチにとって残念な状況というしかない.
そうそう「専門家」という人種に関しては,こちらとかこちらのブログも参考になるから見てみるといいかも.


minilogo.png本当の意味での農薬の専門家の方々,ミツバチは人を恨んだりはしないので,ぜひともいろいろな情報提供をして下さい.客観的な情報なしに,ミツバチが救われる道はないんです!



posted by みつばち at 18:59| Comment(0) | TrackBack(0) | ミツバチの気持ち by Junbee | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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