2010年07月04日

トウヨウミツバチの近代養蜂は「あたりまえ」

中国の海南省(海南島)にプロポリス関係の調査に行ってきました.この島で飼われているミツバチの大半はプロポリスを集めないトウヨウミツバチで,今回お世話になった現地の養蜂企業(海南卓津蜂業)の陳社長によれば,飼育している全22万群(!!)のうち20%だけがローヤルゼリー生産用のセイヨウミツバチで,あとはトウヨウミツバチとか.そこから得られるハチミツは年間50t,これに巣箱におびき寄せた野生の蜂から採るものが20t加わるそうです.数字には誇張も入ってそうだけれど,実際に蜂場を見て,巣箱の中身を見せられると,やっぱりすごいと思います.

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150群以上のトウヨウミツバチが設置されている蜂場.
このサイズの蜂場が全島に分布しているとか.


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蓋をかさ上げして,上桟部に無駄巣を作らせて蜜を貯めさせ,巣蜜として生産.
その後は枠内の上半分の貯蜜も切り取って採蜜します.

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トウヨウミツバチでは,あるいは熱帯ではどうしても水分過多となるハチミツ.
ここでは素焼きの甕(240kg入る)に入れて,2か月ほどで状態のよいハチミツにしています.
この甕が300個ほど瓶詰め工場内の貯蔵庫に置かれていました.

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無王群になった蜂群の手当法を村人に伝授する陳社長(右).

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私たちの調査に同行した陳社長は,道中,デジカメで撮影した画像をノートパソコンで村人に見せながら,海南島の養蜂の可能性を熱く語ってました.
商売ということで熱が入るのはともかく,こうしたデジタル機器の効果的な使い方ができている点には舌を巻きました.


もちろん,トウヨウミツバチはタイでもネパールでも,30年以上前から近代的な,可動巣枠式の巣箱で飼われてきました.インドや中国ではそれなりの技術論も出版されているし,その技術をダウングレードしながら、つまり伝統養蜂との中間技術の開発をしながら,各国の村落開発での養蜂振興は進められてきています.日本では,最近,ニホンミツバチの飼育技術論がにぎやかなようです.その点どうなのか,辛口ミツバチと検証してみましょう.


minilogo.png日本はもともとはニホンミツバチさんだけで養蜂をしていたんだよね.で,明治10年にセイヨウミツバチが来たときに近代養蜂技術も一緒に伝わったのでは?
もちろん.技術が普及したのは,明治22年に,農学者としてアメリカで学んだ玉利喜造さんが近代養蜂を持ち帰って『養蜂改良説』という本を出してから.これがニホンミツバチの養蜂を近代化しようとした第一歩だっただろう.ただ,結果はうまくなかったので,それ以降,養蜂はセイヨウミツバチ一辺倒になっていった.

minilogo.png近代養蜂方式でのニホンミツバチの飼育はその後は行われなかったの?
まったくなかったとは思えないけれど,確立はしていなかった感じだな.玉川大学でニホンミツバチの研究を始めた頃は,ニホンミツバチの飼育自体が貴重だった.専用道具もなく,セイヨウミツバチの箱と巣枠を使ってたけど,よく逃げられていたっていう印象だなあ.ニホンミツバチの飼育や技術論が盛んになったのはこの20年くらいのことじゃないかな.それぞれ独自の完成形を導いて,技術的な交流がなく,全体的な技術向上に必ずしもつながっていないのが残念といえば残念なところかな.

minilogo.png日本以外ではニホンミツバチさんのお仲間のトウヨウミツバチは飼われていたんだよねえ.
インドや東南アジア,中国など,どこでも産業としての規模で飼われていた.伝統養蜂が中心の地域もあるけれど,その中でも部分的な近代化は入ってきていた.自分の目で技術体系を確認したのは20年前のタイ.実験用のトウヨウミツバチを分割して立ち上げたり,車で長距離運んだり,観察巣箱に入れて長期間飼ったり,実験スケールとはいえローヤルゼリーも採集できていた.どれも,巣枠で飼われていたから,そういうことが可能だった.どんなこともほぼごく当たり前に行われていて,最近問い合わせの多いニホンミツバチの趣味飼育者からの技術的な質問は,例えばこうした地域でトウヨウミツバチを飼っている養蜂家ならすぐに答えられそうな感じがする.

minilogo.pngニホンミツバチ(トウヨウミツバチも)さんを近代的な方法で飼うと何かいいことがあるの?
いろいろなメリットがあると思う.養蜂産業の中で用いる産業動物をセイヨウミツバチから地場のミツバチに置き換えるというのが,たぶん各地の究極の目標だろう.すると,ミツバチ自体の育種も必要で,そのためにも,飼育技術の近代化は不可欠視され,セイヨウミツバチで確立している養蜂技術を地場のミツバチに移転できるように工夫が払われていた.人工分蜂とか,合同とかね.枠を利用すると,採蜜時の巣の損失を低減できるから,繰り返し採蜜による生産性向上もひとつの目標だっただろうし.

minilogo.png最近,ニホンミツバチを飼おうという話が多いけれど,それにはどんな意味があるの? 近代的な技術でなければダメなの?
価格的に高価なハチミツを採ることが主眼という意味では,近代的である意味合いは小さいかもね.野生のものを利用する場合,動物自体のコストは小さいから,もともと収益性は高い.したがって,伝統的な巣箱でよければその方がよいといういい方もできる.産業動物としてセイヨウミツバチを置き換えるまでにはまだ長い道のりがあると思うけれど,その場合は,やはりセイヨウミツバチで行われているような近代的な飼育方法の導入や,それに耐えるミツバチの品種改良も不可欠だろうし,いろいろ飼って,適性のあるミツバチを見いだすことには意味が出てくるだろう.あと,少し位置づけが違うけれど,ニホンミツバチを環境指標として考えての飼育もあるようだね.

minilogo.pngでも,ミツバチは環境指標性がないとこのブログでも書いたばかりだよ?
ニホンミツバチは基本的には野生の生き物だから,ある空間にどの程度の生息密度があるか,その推移を含めて調べれば,それなりに意味のあるデータは得られる.環境がどの程度のミツバチを扶養可能かということは,相対的な資源量を示すことにはなる.

minilogo.pngでもそれはニホンミツバチさんにとっての資源量を評価しただけで,全体的な生物多様度まではわからない.ミツバチだけでやっていけているわけではないんだし.
そりゃそうだ.ただ,ミツバチが多様な植物を利用するという前提ではまったく意味がないわけではないだろう.一方の,動物の多様性という観点では,あくまでも推定するに過ぎないし,資源をめぐっての競争の勝者(不戦勝のことも多い)を見ているだけだったら,ニホンミツバチがいるから生物多様性が高いとかそういう言い方はできない.その点では,環境の全的な指標にはなり得ないね.

minilogo.png野生のものにはある程度指標性があるとしても,飼っているミツバチでは環境を指標することはできないんだよね?
どうだろう,今回見てきた海南島の養蜂現場では,100〜150群ものトウヨウミツバチが一つの蜂場に置かれていて,ちゃんと養蜂業としての生産活動ができていた.一か所に10群程度飼育できることと,100群飼育できることには,量を超えた質的な差異があると思えるけどね.それが,周囲の環境がどの程度ミツバチを養っていけるか,資源環境としての扶養力の評価にはつながっているんじゃないかな.

minilogo.png海南島にはそれだけのミツバチを養う資源があるということになるのかな?
熱帯から亜熱帯の気候で,セイヨウミツバチには厳しい環境だろうけれど,それでも採蜜もローヤルゼリーの生産もできている.そのことは,ひとつの事実として環境を評価する尺度として利用できるだろう.ただ,ニホンミツバチに関してはその点の評価はまだ難しいかも知れない.トウヨウミツバチとニホンミツバチもちがうだろうから,海南島の事例を日本の実情に当てはめるのも難しいだろう.その点で,飼える,飼えないというところではなく,繁殖成功率や,産業性指標を導入しないと,本当のところはわからないかも知れない.

minilogo.pngミツバチとしてもそこは危惧するところだよ.「飼える」というのが,人間の行為についての言及にとどまっていて,その成功性だけが優先して評価されるから,生きているミツバチの側の質,これも一種のQOLだと思うけれど,その部分は評価されないままになっている.この点は飼う立場の人たちに理解してもらいたいなあ.そもそも自分がミツバチを飼っている場所がどんな資源環境なのか理解できてないってことは,やっぱりミツバチの気持ちがわかってもらえてないってことだから...,そんなところでは飼われたくないんだ.
確かに,飼う前に知ることというのがたくさんあると思う.どんなに優れた技術や改良された巣箱でも,その場の環境が悪ければ,それを適正に評価することは難しくなる.どちらが先にあるべきかは火を見るよりも明らかなのに,そうした議論がないこと自体は,人間側の考え方にミツバチの視点は含まれていないことを示してしまう.ミツバチを扶養できる資源環境は,人間も利用している空間にあるという意識を持っていてこその技術論だろうね.飼えた,ハチミツが採れた,そんなところで議論を打ち切らないで,もっと大局を見るようにはして欲しいね.

posted by みつばち at 12:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 世界のミツバチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする