2010年06月02日

蜂群崩壊症候群〜ついに原因解明か?

5月25日に,アメリカ農務省ベルツビル・ミツバチ研究所のジェイ・エバンズ博士がサンディエゴで開催された第110回アメリカ微生物学会の「絶滅現象における微生物」部会で,「蜂群崩壊に関与する微生物」と題した発表を行いました.
まだ予備的な証拠とはいうものの,注目に値します.また,そこから導かれているストーリーは,蜂群崩壊かどうかはわからないなりに,ミツバチ不足の危機感を持っている他の先進国にも共通の問題です.アメリカの養蜂雑誌Bee Cultureのキム・フロッタム氏のブログを素材に少し解説しておきます.


ノゼマ原虫(この場合はトウヨウミツバチを原寄主とするNosema ceranae)が働き蜂成虫の腸管内に侵入して,その上皮細胞に損傷を与えて,その中で増殖する.結果として傷ついた上皮細胞はイスラエル麻痺病ウイルスの侵入経路となる.これが蜂群の崩壊につながると推測されている.
minilogo.pngこうした連続的な微生物の攻撃は,学界のそれまでの常識的には認められていなかったんだって.ただ,入手した資料だけでは,ウイルスが実際にどう影響したのかはよくわからないな.この先の筋書きの方がやはり怖い.

エバンズ博士は,蜂群への他のストレス,特に栄養ストレスがこの過程に影響するといっている.蜂群崩壊は一種の季節現象,春に起きやすいもの.この時期は,越冬した古い働き蜂が,新しい働き蜂を作るために採餌を開始し,同時に,花粉をミルクに変換している時期.この時期以外であれば,働き蜂はどちらかを担当し,同時にふたつを担当することはないから,これが働き蜂にとっては大きな負担で,不足を補うためには,自分自身の体からタンパク質を再吸収してでも利用すると.
minilogo.pngどうかなあ.一匹の働き蜂が両方を担当することはないと思う.そういう場面でも本来は分業は起こるはず.ただ,働き蜂になってから,数ヶ月経過しているので,他の季節なら10日齢くらいまでの若い働き蜂が担当する,花粉の消化・吸収に関してはかなり無理を強いられちゃう.もちろん花が少なくて栄養不足になれば,飛翔筋からタンパク質を再吸収してでもミルクを分泌しなきゃならないし.

早春期は,天候も不安定だし,充分な花粉が得られるとは限らない.でも一度育て始めた蜂児に対しては餌を与えなきゃいけないから,栄養的な負荷は相当に大きいね.ニホンミツバチ(トウヨウミツバチ)では,こうした場面では成長途上の蜂児を共食いして,再吸収,再分配する.セイヨウミツバチもこのシステムは持っているんだけど,トウヨウミツバチの方がより効果的にやっていた.
minilogo.pngだから,トウヨウミツバチの方が足るを知るタイプだ,セイヨウミツバチは勢いで進んじゃうタイプだとかっていいたいんでしょう? まあ,そうなんだけどさ.

で,ノゼマ病に冒された働き蜂では,消化・利用率がさらに下がることが予想され,結果として餓死,そして蜂群崩壊の始まりということらしい.
minilogo.pngでも餓死だったら死体は見つかると思うな.蜂群崩壊症候群のこれまでいわれてきた特徴と,こうしたメカニズムの整合性に関してはもうちょっとデータが必要そうだね.

この研究成果に基づけば,秋季に充分な餌を持たせて越冬させることと,ノゼマ病の予防をきちんとすることが推奨される.いろいろな餌の開発も進んでいるから,そういうものも利用されることになるだろう.ノゼマ病に関しては,日本での実態はまだわからないな.養蜂家が使えるように登録された防除薬もないので,予防をといってもできることは限られてしまうけれど.
minilogo.pngコロラド州立大学のドゥルバ・ナウ博士のグループが,去年いくつか論文を出していて,ノゼマの影響は,開発が進んだ場所で顕著となることを予測しているよね.つまり花粉源や蜜源が少ないという栄養的ストレスが,ノゼマ病によって加速されるということ?

そういうことらしい.そういう意味でも,ノゼマの実態がわからない現状では,越冬期前後の栄養状態が悪くならないように,ミツバチが利用できる植物を増やすことには意義がありそうだよ.
minilogo.png結局は,人間頼りにはなってしまうけれど,花を増やして下さい.それがどんな人にもできるミツバチにとっての救いの道です.よろしくお願いします.


posted by みつばち at 19:20| Comment(0) | TrackBack(0) | ミツバチの気持ち by Junbee | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ミツバチの沈黙? 黙ってられない!

中日新聞の「ミツバチの沈黙」の連載が7回で完了しました.前回,第6回だけを批判的に取り上げましたが,辛口ミツバチはなにやら収まりがつかない様子.この連載,環境を考えるシリーズだったわけですが,私たちは果たして環境を考えることができたのでしょうか.

連載の締めくくりは,「ミツバチがすめない世界に,人間は住めるのだろうか−」でした.反語的に「いや住めない」といいたいのか,可能性を純粋に問うているのかは読み手に委ねすぎているのかも知れません.生態系底辺(表現としてどうかな?)に起きていることをどう伝えるべきなのか,実は難しい問題です.というのは,第7回で書かれた現象はすべて個人の印象であり,こうしたものを列挙することでは,実は怪しい健康食品の体験談集と同じレベル.科学的な証拠はなくても,集めれば読み手が勝手に効果があると信じ込むように,「環境」に異変や問題があると思い込む.思い込むことで,健康食品の場合は,購買行動へ進むけれど,この記事の狙いであった環境を考えることに,万が一つながるとすれば,怪しい健康食品を買って,結局,損をすると同じことで,適正には考えられない,下手をすれば,害があるかも知れません.何かが明らかに欠落しています.


minilogo.png待ってよ,一人で進めないでよ.ミツバチにだって言わせてよ.そもそも現状でセイヨウミツバチは農業の現場で働いている.ハウスではたくさん死んでいる.でもそこに入れるために増やしてもらってもいる.一方的に死につつあるわけではないよ.ニホンミツバチさんは減っているところもあれば増えているところもある.結論を急ぎすぎだよ.ミツバチが住めない世界を,いきなり想定するなんて議論はおかしいよ.人間が飼っている生き物でもあるんだよ.生きているミツバチにとって,こんなSFな仮定は意味ないんだ.今をきちんと見極めないまま,「このままじゃあ滅んじゃうねえ」なんて高みの見物で,人間はいいと思っているわけ?
書き手としては,もちろん話法として,私たちは考えるための材料を集めてきました,ここで極限的な仮定をして,そうならないためにどうできるのか,そこを考えましょう,という筋書きなんだろうけれど.

minilogo.png考えるための情報は与えないまま考えさせるんだね,人間は.だからろくでもないことばっかりする.うわべが似ているだけの,断片化された情報を集めて,仮定するための,そして考えるための材料ですよって見せ方をして,相手の思考を停止させて,無意味な仮定をして,ほら考えなさいって,そんな無責任な情報提供の仕方は,人間が下等だと思っているミツバチだってしないよ.
その点は同意.確かに,集めた情報が,例えば背景が無視されている.読者に共通の背景があることを匂わせるつもりがあるなら,ちゃんと書けばいい.書かないということは,書き手にも実は背景事情の共通点は認識できていないということだろう.互いに不都合な情報,例えば記事の中ではクモも減っているとされているが,ネオニコチノイドに反発している養蜂家はクモが増えていることを重要なポイントとして挙げている.こうした点は,背景事情がさまざまであるということでもあるし,こうした発言者の思いつきは,単純化されすぎて,一方で普遍性が乏しく,何かの判断材料にするには質的な問題があると理解すべきなのかも知れない.
あとは,やはりどの事例も検証性に乏しくて,いずれも風聞でしかない.原因を推測することさえ難しいのであれば,これを考える材料にできるだろうか? いや,できない.


minilogo.pngおどろおどろしい事物を集めて,怖がるのでいいならお化け屋敷でいいじゃない.環境問題は,スズメが減ることなわけ? なぜ,そういう原始的な予兆が欲しいのかなあ? 違和感を感じて,そのうち恐ろしい実体を見ることになりますよなんて,ただのホラー映画だよ.人間はしょせんそのレベルってこと? そんなのに任せてたら,あらゆる生き物にとって不幸だよ. 
任せたくはないという生き物は多いだろうねえ.昨年末には「動物の反乱」なんて本まで出ているくらいで....
確かに「スズメの数が減っているから何かおかしい」は個人の印象としては理解しやすい.でも,それだけではなく,そのことがどういうことなのか,科学的な評価を取材してあれば,この点はよかったのかも知れないな.いずれの風聞にも,少しでも科学的検証が加われば,この記事もただのお化け屋敷や秘宝館から,博物館レベルに向上できたかも知れない.


minilogo.png「ハチや小さな生き物たちが姿を消し...」も,いつの間にか事実化している.これだけの情報で,ミツバチも消されちゃうの? 危機感を煽るのではなく,ちゃんとしたアセスメントがあって,データに基づいて,本当の意味での危機を伝えてもらえないのであれば,ちゃんと考えてもらえないよ.
一応「...気がする」ということで,事実とまでは断言していないけれど,読み手の多くは,姿を消しているのは事実と思うだろう.でも事実はデータによる裏付けが必要なのはいうまでもない.ここで取材を受けた人々が伝えたことを,科学的に評価できる人がいれば,そこを取材すればいいし,まだということであれば,こうした研究こそ必要と,地道な環境評価研究の大切さを訴えてくれればいい.

minilogo.png「鳥のすめない場所では,人間にも影響が出てくる」は何の影響のことを言っているの? 人間がいないところなら鳥はすめると思うよ(「『自然との共生』というウソ」(高橋敬一)参照).人間活動自体が,他の生き物を脅かしているんだから,今度は,どうやら自分たちも危ないぞって,その展開はないんじゃないかな.結局,人間は自分たちがしでかしたことに気がつくのが遅すぎる生き物なんだろうね.ミツバチを待たずに淘汰されて下さい.
まあまあ,そう結論を急がなくても.この「影響」は文脈的には明示されていない.農薬だと思う人も地球温暖化と思う人もいるだろう.セイヨウミツバチのように人間に近いところで生きているものは別として,多くの生き物にとって人間が与えているさまざまな負荷は相当に大きいだろう.そのことは,「『自然との共生』というウソ」でも描かれているけれど,人間のいないところが野生生物の楽園化していくプロセスを見れば明らかともいえる.

minilogo.pngセイヨウミツバチにも人間が多大な負荷を与えているんですけど....
もちろん,そうだね.現状は,それがある必要の上で成り立っている.本当にすべてのことが必要なことなのか検証する必要はある.代替できるものはないだろうか,意識を変えることでできることはないだろうか.現状をどう改善できるのか,そういうことを考える契機になるようなプロセスは必要だろうね.

minilogo.pngでもそのための情報が不足しているよ.この記事の全体として,「今」がどうしてもぼやけてしまう.その先にどう進むのか,この上に何を構築するのか,出発点も土台も正確に描くことができないなら,材料があっても先も上もないじゃん.
環境問題は建設的に考えることが重要だとは思う.懐古主義や郷愁では何もできない.ここを出発点と見極めて新しい環境を創成するという気概がないとね.その点では,自分たちが生きてはいけなくなりつつあるという危機感高揚型の訴求,つまり今を否定するようなやり方はもう時代遅れなんじゃないかな.
みんなが,現状をきちんと観察した上で,こうしてはどうかという知恵を集め,それぞれを具体化する中で,何がよくて何が悪いかの評価をする.環境問題を扱うということで,多様な生き物を含めた取り組みは実際には世の中にはたくさんあると思うけれど.
そういえば,みつばち百花は第3回環境ビジネスプランコンテストでアドボカシー部門賞をいただいている(ブログ記事参照).このアドボカシーという言葉は「権利擁護」などとも訳されているけれど,もっとミツバチや他の生物の立場を代弁するという方向性があってもいいかも知れない.それ自体が視点の移動にもなり,環境のとらえ方も人間中心だけではなくなっていく.


minilogo.pngミツバチ自身,決して沈黙しているわけではないんだよ.でもどうして伝わらないの?
ミツバチの言葉は,たぶん研究者ならある程度,翻訳ができると思う,それを一般に伝えるのは,サイエンスライターやファシリテーター,あるいは上でいうところのアドボケイターという存在だろう.本来は,新聞などのメディアがその機能を持っているはずではあるけれど.だから直接は伝わっていかないかも知れない.
あとは,さまざまな活動を通じてミツバチの発言の場も増やさなきゃ.その情報に基づいて世の中でミツバチをちゃんと考える活動がさらに増えていき,それぞれが長所を伸ばし合えるような関係を築いて,将来に向けた,ミツバチだけではなく多くの生き物を含めたコンセンサスを得ながら,環境創成という方向に向かえばいいと思う.
次はいい記事になるように期待したいね.


minilogo.pngこの現状で,ミツバチを取りあげてもらえたことは純粋に嬉しかった.でも,やっぱり「今」をもっときちんととらえて欲しかった.その上で,何をしなければならないのか,何をするとよいのか,読者の人々がちゃんと考えられるような記事を期待します.記者の方々,これからもよろしくお願いします.


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posted by みつばち at 10:59| Comment(0) | TrackBack(0) | ミツバチの気持ち by Junbee | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする