とりわけ,主観的な「好き」から,だれとでも共有できる科学的な方向性を持つことを,若い人(麻布大学で獣医を目指すような)へのメッセージとして語っておられるところには共感.もちろん一般の人たちが,最低限の科学性を保有するという点でも参考になるでしょう.
この最終章では「小さい生き物が大きな働きをしているという話を聞くと痛快な感じがする」というところで,ミツバチのことにも,ふれてもらっています.
科学あるいは科学的という言葉は,このブログでは,私の職業的な立場から何度か使っていますが,そのあたりを今日は辛口ミツバチと語ってみます.

そこから来たか.ミツバチを一番知っているはずの養蜂家でさえ,同じ間違いはよくするし,畑の違う研究者なら,この程度の間違いは許容範囲かなあ.この転化酵素は体内ではなくて,貯蜜に混ぜられて,六角形の巣房の中で働く.こう訂正しておけばいいかな.

その先にちゃんと受粉の話もあるから.でも「気の遠くなる」も人間がという話で,ミツバチからすれば,日々実現可能な営みってことだよね.やっぱり人間の想像力の限界を感じる.

追いつくことが目指されているわけではないと思うけど,できるだけ多くのことが理解できたらいいなとは思う.その仕組みを明らかにすることが,そのまま人間の技術に直結して,人間として何かができるようになるという以前に,きっとその生き物に敬意を感じるだろうし.

日本人が,生き物を支配できるという着想をもったのは歴史上,最近じゃないかな.大阪市立大の瀬戸口明久先生の「害虫の誕生―虫からみた日本史 (ちくま新書)」では,「害虫」という理解の変遷でそのことを書いている.ただ,ミツバチという生き物に関していえば,それで食べている養蜂家たちでさえ,いろいろだね.自分は完全にミツバチをコントロールできていると思う人もいれば,ミツバチも含めて自然は一度として同じだった試しがないから,この商売は面白くて辞められないという人もいる.

組み合わせの問題として,同じはないということで,個々にみていけば,この養蜂家にしても,過去に経験したものはあるはず.でも,まったく同じようには再現できないのが生き物の世界だろう.だから興味や関心を維持しやすい.

「好き」というのは,あくまで情緒的で,多くの場合,一方通行で,今ある情報で作られる感情なだけに,ある意味で不安定だろう.現状で満足して,よりよく知ろうという方向性を持たないことも多いし.もちろんミツバチが好きという気持ちは,ミツバチと向き合うには必要だろうけれど,ミツバチを知る段階へと発展していくには不充分だろうね.好きになった時点で,ミツバチの価値観は固定されやすいし.研究者は,「なぜ」とか,「どうして」という好奇心の継続と,その探求をやめない.探求には技術や設備といったハードルがあるかも知れないが,好奇心の継続は,研究者じゃなくてもだれでもできるはず.さっきの養蜂家のようにね.

科学的態度とは,「疑うこと」といういい方もできる.その物事を説明する既存の人間の言葉を疑うという意味でね.誰かが語ったことを鵜呑みにするのではなく,自分の言葉で再現できるか考えることで,興味は持続できる.ミツバチとしてどうするかは難しいね.問題があればよく見てもらえるというのでは,ちょっと不幸なことだよねえ.

それはそれでステレオタイプな表現だなあ.疑うというのは,自分なりの再現性を確認するということであって,他人のいうことを嘘と決めてかかるということではない.好奇心を持続させるためにも,喜びや驚きや落胆などいろいろな感情を付帯的に味わうことも大切だから,充分に普通の人間的側面を研究者も持っていると思うけれど.

例えば,研究のために花の蜜を集める作業があるけれど,特にミツバチが集めているような濃厚な花蜜は,人間業ではうまく集められない.ところがそのことをミツバチは,普通にやってのける.体の大きさが花に合っているといういい方がいいかな.その点で,こんなにいろいろな花を愛でているはずなのに,人間は,あんまり花からは相手にされていないって感じがする.でもそのことで,ミツバチってすごいなあと単純に思う.で,じゃあなんでそんなことができるのか,いろいろな濃さの花蜜があるのに,なぜ濃いものだけを選べるのか,そういうところから次の疑問が湧いてきて,今度はこれを検証しようとかなるわけだ.

単純に気が済むようにしたいというのもあるかも知れないし,研究者としての職業的使命感というのもあるだろう,研究者を辞めたら他に役には立たないという自覚があるのかも知れない.でも基本は,逆説的なんだけど,「好き」という部分があるからだと思う.だから好きであることが悪いのではなく,好きなものの,もっといろいろな側面を理解する次元への到達を目指して欲しいということだ.

見かけではなく,真の姿をみて欲しいっていう意味では共通だよね.だからこそ研究者じゃなくても,「好き」の先を目指せるってことなんだろうけれど.

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- 出版社/メーカー: 筑摩書房
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- メディア: 単行本
ラベル:科学の目